第193章:広がる異常
戦いの後。
学院には、重い静けさが残っていた。
崩れた建物。
焼け焦げた地面。
あちこちに残る魔力の残滓。
そして――
空に残る、細い亀裂。
完全には閉じていない。
◆
臨時対策本部。
学院中央棟の一室に、主要メンバーが集められていた。
レイは医療室へ運ばれている。
意識はまだ戻らない。
ミナは腕を組んだまま、壁にもたれている。
「で?」
短く言う。
「どれくらいヤバいの」
空気が一瞬止まる。
学院長エルドが、静かに口を開いた。
「結論から言う」
その声はいつも通り落ち着いている。
だが内容は――
「学院単体の問題ではない」
◆
机の上に、複数の報告書が並べられる。
セラが目を通し、顔色を変えた。
「これ……」
「各地の観測機関からの緊急報告だ」
エルドが続ける。
「同様の“歪み”が確認されている」
「同様って……」
マリーナが身を乗り出す。
「ここみたいな亀裂?」
「規模は様々だがな」
指で地図を示す。
王都。
北方の砦。
交易都市。
そして――未踏の森。
複数の地点に印が付いている。
「……増えてる」
リュシエルが低く言う。
「連鎖している」
◆
「原因は一つ」
エルドが言い切る。
「観測層の開放」
ミナが舌打ちする。
「やっぱそれか」
「正確には」
エルドの視線が鋭くなる。
「“干渉者の出現”だ」
沈黙。
その意味を、全員が理解する。
セラが小さく呟く。
「……レイ」
◆
「観測は一方通行ではない」
エルドは続ける。
「こちらが“見る”ことで、向こうも“見る”」
「それが、あの視線……」
マリーナが震える。
「そして」
エルドは地図を指す。
「“見ることができる地点”が増えた」
「つまり」
リュシエルが言葉を継ぐ。
「侵入口が増えている」
「そうだ」
短い肯定。
◆
部屋の空気が重くなる。
ミナがため息をつく。
「……で?」
「どうすんの」
その問いに。
エルドは迷わない。
「対処するしかない」
「雑」
「事実だ」
そして一枚の新しい資料を出す。
「各地の異常地点には、既に対応班が向かっている」
「学院だけじゃないんだ」
マリーナ。
「当然だ」
エルドは言う。
「これは“世界規模の現象”だ」
◆
セラが資料を見つめる。
「でも……」
「どの地点も、完全な解決には至っていない」
「当然だろう」
エルドの声が少し低くなる。
「相手は“観測の外側”だ」
理解しきれない存在。
だからこそ。
「従来の戦力では足りない」
その視線が、ミナへ向く。
そして――
いないはずの一人へ。
「干渉者が必要だ」
◆
沈黙。
ミナが小さく笑う。
「つまり」
「レイ頼みってこと?」
エルドは否定しない。
「現状ではな」
「はぁ……」
ミナが天井を見る。
「面倒なことになったね」
だがその目は、すでに決まっている。
◆
そのとき。
リュシエルが口を開く。
「もう一つ、報告があります」
「何だ」
「観測波の解析結果です」
資料を出す。
「今回の亀裂反応」
「単独ではありません」
「どういう意味だ」
エルドの目が細くなる。
リュシエルは静かに言った。
「複数の“観測主体”が関与しています」
部屋の空気が凍る。
セラが息を呑む。
「一体じゃない……?」
「はい」
リュシエルは頷く。
「少なくとも三つ以上の異なるパターン」
つまり――
敵は一つじゃない。
ミナが呟く。
「派閥とかある感じ?」
「可能性は高い」
エルドが答える。
「観測者同士が干渉し合っているのかもしれん」
◆
窓の外。
空の亀裂が、ゆっくりと揺れる。
静かに。
だが確実に。
広がっている。
◆
「……面白くなってきたじゃん」
ミナが笑う。
「世界規模でバトルってことでしょ?」
「軽く言うな」
セラが呆れる。
だが完全には否定できない。
これはもう――
学院の外の話だ。
◆
エルドが最後に言う。
「準備を整えろ」
「レイが目覚め次第、次の任務に入る」
「次はどこ?」
マリーナが聞く。
エルドは地図の一箇所を指した。
「北方」
そこには、大きく歪んだ印。
「最も反応が強い地点だ」
レイたちがかつて訪れた――
あの森に近い場所。




