第190章:崩れた安全地帯
地下からの帰還。
階段を駆け上がる足音が、やけに大きく響く。
「急いで!」
リュシエルが先導する。
後ろでは――
まだ“何か”が軋んでいる気配。
レイは振り返らない。
振り返れば、足が止まると分かっているから。
◆
最上層へ出た瞬間。
全員が、言葉を失った。
「……は?」
ミナが固まる。
目の前に広がっていたのは――
壊れた学院だった。
廊下の壁が崩れ、床に亀裂。
魔力灯は明滅し、いくつかは完全に消えている。
遠くで、爆発音。
煙。
そして――
「助けて!!」
学生の叫び声。
マリーナが息を呑む。
「こんな……」
◆
中央棟。
大広間の天井が一部崩落している。
教師たちが必死に結界を張り直しているが、追いついていない。
「結界が安定しない!」
「魔力が逆流してる!」
セラがすぐに状況を読む。
「観測層の影響……!」
「まだ繋がってる」
レイが低く言う。
あの亀裂。
完全には閉じていない。
だから――
学院全体が“引っ張られている”。
◆
「分かれて動く!」
リュシエルが即座に指示を出す。
「負傷者の救助を最優先!」
「了解!」
マリーナが走る。
崩れた柱の下にいる学生の元へ。
「大丈夫!?今助ける!」
火属性魔法で瓦礫を焼き切り、道を作る。
◆
セラは別方向。
「こっちの魔法陣が暴走してる!」
床に展開された防御陣が不規則に光っている。
「このままじゃ爆発する……!」
魔力回路に手を当てる。
解析。
修正。
「制御、書き換える……!」
額に汗。
だが――
バチン!!
一部が弾ける。
「くっ……!」
◆
リオンは静かに動く。
崩れた壁の隙間から、閉じ込められた生徒を発見。
「動くな」
短く言う。
剣で瓦礫を正確に切断。
最小限の動きで道を開く。
「……ありがとう」
「後ろへ」
淡々と誘導。
◆
ミナは――
「そっち危ない!」
崩れかけた柱を見つけ、全力で蹴る。
ドォン!!
柱の倒れる方向を変える。
ギリギリで生徒を守る。
「ふぅ……」
肩を回す。
「これ、戦いより大変じゃない?」
それでも笑っている。
◆
そして――
レイ。
立ち尽くしていた。
壊れた学院。
叫び声。
混乱。
全部が目に入る。
(……俺たちが開けた)
あの扉。
あの亀裂。
結果が、これだ。
「レイ!」
ミナの声。
ハッとする。
「ボーっとしてる場合じゃない!」
「ああ……!」
拳を握る。
動く。
◆
そのとき。
学院上空。
結界の一部が、大きく歪んだ。
ビシッ。
空間に、細い亀裂。
教師の一人が叫ぶ。
「上空に異常反応!」
「何だあれ!?」
全員が空を見る。
そこに――
**“薄い穴”**が開いていた。
完全ではない。
だが確実に、向こうと繋がっている。
レイの背筋が凍る。
「……まだ続いてる」
リュシエルが歯を食いしばる。
「下層の影響が、地上まで……」
その穴の奥。
“何か”が、こちらを見ている。
干渉体ではない。
もっと遠い。
だが確実に――
観測されている。
セラが小さく呟く。
「これ……」
「学院だけじゃ済まないかもしれない」
沈黙。
その中で、ミナが笑う。
「じゃあさ」
全員を見る。
「ここで止めるしかないでしょ」
レイも頷く。
「……ああ」
壊れた学院。
崩れた安全地帯。
だが――
ここが、守る場所だ。
レイは空を見上げる。
亀裂の向こう。
「今度は、こっちから行く」
静かな決意。
戦いは、まだ終わらない。




