第189章:観測の向こう側
動きを止められた干渉体の群れ。
それはまるで、標的だった。
「いくよ!」
ミナが最初に動く。
ドン!!
一気に距離を詰める。
固定された干渉体の懐へ潜り込み――
ザンッ!!
コアを正確に断つ。
一体、消滅。
「次!」
そのまま横へ跳ぶ。
連続斬撃。
ザン、ザン、ザン!!
影が次々と崩れていく。
◆
「拘束維持、あと十秒!」
リュシエルが叫ぶ。
魔法陣の光が強まる。
だがその分、負荷も大きい。
額に汗が浮かぶ。
セラが即座に補助。
「魔力供給する!」
回路に干渉し、出力を安定させる。
リュシエルが小さく頷く。
「助かります」
◆
リオンは無駄がない。
一歩。
踏み込み。
ズバッ。
一体。
振り返りざまに、もう一体。
正確にコアだけを切り落とす。
「残り、半数以下」
冷静な報告。
◆
マリーナは後方から支援。
「いくよ!」
火球を圧縮。
ドォン!!
固定された干渉体に直撃。
爆発と同時に、コアが露出。
「今!」
レイが手をかざす。
ピシッ。
空間が歪む。
バン!!
コアが内側から砕けた。
「ナイス連携!」
マリーナが笑う。
◆
そして。
最後の一体。
ミナが軽く息を吐く。
「終わり」
踏み込み。
ザンッ!!
コアごと真っ二つ。
黒い粒子が、ゆっくりと空間に消えていく。
静寂。
◆
「……終わった?」
マリーナが呟く。
リュシエルがゆっくり手を離す。
魔法陣の光が消える。
「はい。一時的には――」
その瞬間だった。
ピシッ。
空間に、亀裂。
全員の動きが止まる。
「……今の」
セラが顔を上げる。
ピシッ。
また一つ。
今度は、はっきり見える。
空間が――
割れている。
レイの心臓が強く打つ。
「来る」
低く呟く。
ミナが剣を握り直す。
「まだ終わりじゃない感じ?」
「むしろここからだ」
レイの声は静かだった。
◆
亀裂が広がる。
ゆっくり。
だが確実に。
その向こう側――
“何か”がいる。
さっきまでの干渉体とは違う。
質が違う。
重さが違う。
観測の“密度”が違う。
リュシエルの声が、わずかに震える。
「……本体反応」
「え?」
マリーナが振り向く。
「本体って」
答えは、すぐに来た。
亀裂の奥。
光点が、一つ。
ゆっくりと開く。
それだけで分かる。
格が違う。
セラが小さく呟く。
「……これが」
レイも、目を離せない。
「観測者側の存在……」
光点が、こちらを見る。
その瞬間。
全員の身体が重くなる。
「っ……!」
ミナが膝をつきかける。
「なにこれ……重……!」
リオンでさえ、動きが鈍る。
マリーナが息を詰まらせる。
「魔力……押されてる……」
違う。
これは魔力じゃない。
存在そのものが押し潰されている。
レイだけが、かろうじて立っていた。
光点が、ゆっくりと揺れる。
声が、響く。
『……確認』
それは、言葉というより。
認識。
『……干渉者候補』
レイの背筋に冷たいものが走る。
ミナが叫ぶ。
「レイ、下がって!」
だが動けない。
光点が、さらに開く。
『……適合度……上昇』
空間が軋む。
観測層全体が震える。
リュシエルが叫ぶ。
「まずい!このままじゃ――」
その瞬間。
レイの中で、何かが“噛み合った”。
あの感覚。
境界。
観測。
干渉。
レイは、一歩踏み出す。
「……やめろ」
静かな声。
だが空間が反応する。
ピシッ。
亀裂が、一瞬止まる。
光点が揺れる。
『……応答……』
レイの目が、わずかに光る。
「ここは俺たちの世界だ」
手を上げる。
空間が歪む。
「勝手に入ってくるな」
バンッ!!
亀裂が一瞬、閉じかける。
だが。
光点が強く輝く。
『……興味……確定』
その瞬間。
亀裂が、さらに広がった。
ミナが叫ぶ。
「最悪じゃん!!」
レイは歯を食いしばる。
止めきれない。
これはまだ、力が足りない。
そして理解する。
これは――
“ボス”ですらない。
ただの“視線”。
それだけでこの圧。
リュシエルが叫ぶ。
「撤退を!今すぐ!」
セラも頷く。
「ここは持たない!」
レイは、最後にもう一度だけ空間を見る。
光点が、じっと見ている。
まるで。
観察対象を見つけた研究者のように。
レイは小さく呟く。
「……覚えた」
そして振り向く。
「戻るぞ!」
全員が一斉に動く。
旧式観測層からの撤退。
だがその背後で――
亀裂は、まだ閉じていなかった。




