第185章:連鎖異常」
ギィィィ……
地下の巨大扉が、さらに開く。
暗闇が、ゆっくりと姿を見せる。
旧式観測層。
長い間封じられていた空間。
その瞬間だった。
――ドン。
鈍い振動が学院全体を揺らした。
「今の……」
マリーナが顔を上げる。
セラの魔力計測器が一斉に点滅した。
「待って、これ……」
数値が跳ね上がる。
「学院全域で魔力波が乱れてる!」
リュシエルが即座に判断する。
「連鎖異常です」
「早すぎない!?」
ミナが叫ぶ。
「まだ完全開放してないよ!」
「旧式観測層は学院の魔力網の“根”です」
短く説明する。
「封印が解ければ、
全魔導設備が影響を受ける」
◆
同時刻。
学院・中央訓練場。
学生たちがざわついていた。
「おい、魔法陣が……」
訓練用の魔法陣が、勝手に光り始める。
次の瞬間。
バチン!
火花が弾けた。
「うわっ!」
魔力が暴走する。
防御障壁が勝手に展開し、次の瞬間消える。
空間が歪む。
「何が起きてるんだ!」
教師たちが慌てて制御に入る。
だが――
止まらない。
◆
学院図書塔。
本棚の魔導封印が次々と開く。
古い書物が浮かび上がる。
「ちょっと待って!」
司書が叫ぶ。
「封印書庫まで開いてる!」
禁書の棚が、ゆっくりと光り始めた。
◆
観測塔。
巨大水晶が、これまでにない光を放つ。
監視員が叫ぶ。
「魔力波、指数関数的に増加!」
「原因は!?」
「地下からです!」
水晶の表面に、異常波形が映る。
その中心に――
レイの魔力波形。
◆
学院長室。
エルドは静かに窓の外を見ていた。
学院の結界が、淡く揺れている。
「……想定より派手だな」
机の水晶が震える。
通信。
「学院長!」
教師の声。
『魔導設備が制御不能です!』
「分かっている」
落ち着いた声。
「学生の避難を優先しなさい」
『地下は!?』
短い沈黙。
エルドは小さく息を吐いた。
「……地下は、止めない」
通信が止まる。
窓の外の空を見上げる。
そこには、ほんのわずかな歪み。
「さあ」
静かに呟く。
「世界はどこまで揺れる?」
◆
地下。
レイたちはまだ扉の前にいる。
振動が強くなってきた。
「上、完全に異常出てるね」
ミナが苦笑する。
セラは焦っている。
「魔力網が共鳴してる……!」
「共鳴?」
「旧式観測層の回路が、
学院の全魔法陣と繋がってるの!」
つまり――
この扉が開くほど、学院全体が揺れる。
リュシエルが冷静に言う。
「第三段階に入ります」
「え、もう!?」
「止める方が危険です」
確かに。
中途半端に解放した状態が一番危ない。
「レイ」
リュシエルが真っ直ぐ見る。
「最後の鍵を」
レイは頷く。
再び魔力を流す。
その瞬間。
空間の向こうから、強い視線。
さっきより明確。
数も増えている。
「……完全にバレた」
ミナが笑う。
「遅いくらい」
ギィィィィ……
巨大扉が、大きく動く。
そして。
バン!
封印回路が砕け散った。
旧式観測層の扉が、完全に開く。
その瞬間――
学院上空の結界が、大きく揺れた。
空間に、細い亀裂のような歪みが走る。
地下の暗闇の奥から。
冷たい空気が流れてくる。
そしてレイは気づく。
向こう側の奥。
暗闇のさらに奥。
何かが動いた。
それは、魔物ではない。
魔力でもない。
もっと――
観測に近い存在。
ミナが小さく呟く。
「……ねぇレイ」
「なんだ」
「歓迎されてない気がする」
レイは暗闇を見つめる。
「当たり前だ」
一歩、踏み出す。
「侵入者だからな」
旧式観測層。
長く封じられていた領域へ、
彼らはついに足を踏み入れる。




