第184章:封印解除
学院地下。
普段は立ち入り禁止の保管階層を、さらに三層降りた場所。
空気が重い。
「……ここ、学生が来る場所じゃないよね」
ミナが壁を触る。
石ではない。
古い魔導合金だ。
「旧式観測層は、学院創設時の施設」
リュシエルが説明する。
「今の理論が確立する前、
“世界そのものを測る”ために作られた」
「それってつまり」
マリーナが呟く。
「かなり危ない研究」
「ええ」
否定しない。
◆
やがて通路の先に、巨大な扉が現れた。
高さは三メートル以上。
表面には複雑な魔法紋様が刻まれている。
中央には円形の封印装置。
「これが……」
セラが息を呑む。
「旧式観測層の封印」
リオンが周囲を確認する。
「警備は?」
「形式上は私が全権管理しています」
リュシエルが淡々と答える。
「つまり、誰も止めに来ない」
「止められない、が正しいですね」
◆
レイは封印装置の前に立つ。
紋様が、微かに反応している。
「……俺を認識してる」
「干渉保持者だからでしょう」
セラが分析する。
「旧式観測装置は、
“境界に触れる魔力”に反応する」
ミナが腕を回す。
「で?どうやって開けるの」
リュシエルが羊皮紙を広げる。
「封印解除は三段階」
指で順に示す。
「第一、観測鍵の供給」
「第二、封印回路の同期」
「第三、遮断結界の解除」
「長い」
ミナが即答。
「つまり」
セラがまとめる。
「レイの魔力が鍵」
「ええ」
リュシエルは頷く。
「ただし」
目が少しだけ鋭くなる。
「封印が解ける瞬間、学院全体の魔力網が揺れます」
「揺れるって?」
マリーナ。
「観測波が広がる」
短く言う。
「つまり、向こうにも分かる」
沈黙。
レイは扉に手を置く。
「もう知られてる」
昨夜の接触。
「なら同じだ」
ミナが笑う。
「だったら派手にやろう」
◆
「始めます」
リュシエルが結界を展開する。
青白い光が扉の周囲に広がる。
セラとマリーナが魔力回路を調整。
リオンは周囲警戒。
ミナは――
「暇」
「黙ってて」
セラが即ツッコミ。
◆
レイは、ゆっくり目を閉じる。
呼吸を整える。
あの“透明な感覚”を呼び起こす。
空間の境界。
魔力の流れ。
そして――
観測される感覚。
「……来る」
小さく呟く。
手から魔力を流す。
封印紋様が、淡く光り始めた。
ブゥン――
低い振動。
地下通路全体が揺れる。
「第一段階クリア!」
マリーナが叫ぶ。
だが同時に。
学院上空。
魔力観測塔の水晶が一斉に光った。
◆
学院地上。
学生たちがざわつき始める。
「今の何?」
「魔力波?」
「地震じゃないよな」
塔の上階。
学院長エルドが静かに立っている。
「……始めたか」
遠くを見る。
その視線の先。
空の一部が、ほんの僅か歪んだ。
◆
地下。
封印紋様が、さらに輝く。
「第二段階!」
セラの声。
魔法陣が回転し始める。
ギィィィ……
巨大な扉が、少し動いた。
その瞬間。
レイの背筋が凍る。
「……来た」
「何が?」
ミナ。
「観測」
空間の向こう側から。
明確な“視線”。
数じゃない。
質が違う。
重い。
深い。
そして――
興味を持っている。
「……ねぇ」
ミナが天井を見る。
「これ、向こうも見てない?」
リュシエルが小さく答える。
「見ています」
短い沈黙。
そしてミナが笑う。
「いいじゃん」
拳を鳴らす。
「見せてあげようよ」
ギィィィ……
扉が、さらに開く。
暗い空間が、向こうに広がる。
旧式観測層。
世界の境界を測ろうとした場所。
そして今――
境界の向こう側も、こちらを見ている。
封印は、もうすぐ完全に解ける。




