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『お久しぶりです。長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。皆様のご協力により実験の第二段階は終了しました。これより第三段階に入ります。皆様にはこれより一年の間、あるものを奪い合っていただきます。方法は問いません、今からきっかり一年後、それを手元に置いていた方の勝利となります。勝者には豪華な特典がありますので、皆様奮ってご参加ください』
ケータイをへし折って、地面に叩きつけたくなる衝動を必死に抑え込んで、最後まで読み切った。隣を見ると光矢も同じような状態だ。剛も状況を把握して、深刻な顔をしている。
「誰も待っちゃいねえよ、クソ」
薮木の口から漏れた悪態は、光矢の、この場にはいない鉄と優の言葉でもあった。苛立ちは収まらないが、待ち望んだ奴らとの接触のチャンスでもある。薮木は知らない内に鋭くなった目で画面を睨みつけていた。
「っ!療、これ!」
「どうした」
「添付ファイルだよ!」
そう言われて薮木はおそばせながら気付く。このメールには添付されているファイルがあった。光矢はそれに驚いているらしい。薮木はおくれてそれを開けた。
それは写真だった。そこには一人の人物が映っていた。その人物は若い女の子だった。見覚えのある女の子だった。薮木が、一週間を共に過ごした――
「……サツキ?」
メールの内容が、もう一度頭に入って来た。
『皆様にはこれより一年の間、あるものを奪い合っていただきます――』
つまりそういうことなのか、この文脈で、添付されてるファイルにはサツキの写真。ここまでくれば、どれだけ察しの悪い男でも分かる。
薮木は気付くと同時に優に電話をかけた。コール音がいやに長く感じる。七回のコールの後ようやくつながった。
『もしもし?』
「優か!今何処だ」
『今は、サツキちゃんを、療さんの、家に、送ってる……どうし、たの』
「お前、メール見てないのか」
『メール?ケータイ、かばんに、入れてた、から』
「そうか、まぁ無事なら良い、いいか優よく聞け、サツキが――」
銃声、突然電話の向こう側からの轟音、そしてからからと、恐らくケータイが地面に落ちる音、通話が、切れた。
「優?おい優!」
「療、何があったの!」
「優が襲われた、銃声が聞こえたから多分ここの犯人だ」
「そんな……」
「呆けてる場合じゃねえぞ、光矢、鉄呼んできてくれ」
「分かった、すぐ行く」
「おやっさん、生活地区に人送ってくれ」
「ああ、療君はどうするんだね」
「俺は、先に向かう」
そう言って駆け出そうとした薮木の肩を剛が掴んだ。
何事かとふりかえる薮木の目に映ったのは、不安に歪む剛の顔だった。
「……サツキちゃんが巻き込まれているのに、こんな事を言う私は警察官失格だろうが……優を頼む」
薮木はその言葉に答えることなく、一つ頷くと今度こそ駆け出した。父親の気持ちなど療には分からない、故になにも言わないし、言えない。だが彼が悪いのでは決してない。強いて言えば悪いのは状況だ。
そこまで考えたところで、薮木は考え込むのを止めた。やるべきことはどうせ変わらない。誰かが傷つく前に全てを終わらせるしかないのだから。




