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クールなフール  作者: 味形山寅猛
第1話
16/18

15

パトランプの赤い光が辺り一面を照らしていた。

 一人の女性が殺害されたのだ。遺体はもう片付けられているが、現場検証は長引いていた。それもそのはず、現場はあまりにも散らかっていた。見渡す限り穴の開いていない木は無い。抉れていない地面すら少ない。その全てが銃痕だというのだから世も末だ。

 そして警官たちが懸命に働く横では、金髪の男が婦警から取り調べを受けていた。唯一の目撃者だ。



 「……じゃあ彼女を殺害した男がマシンガンを持ってたって言うのね」

 「はい、そんな感じです」

 「信じられないけど、この現場見たら信じるしかなさそうね……それにしてもよく無事だったわね君」

 「隠れるのと逃げるのだけは昔から得意なんです」

 「そう、じゃあこの後一応署の方まで来てもらうけど」

 「取り調べですか、お姉さんがしてくれるんなら喜んでついて行くんだけどなぁ」



 そう言ってほほ笑む青年の顔に、婦警は不覚にも胸の高鳴らせた。それほどまでに魅力的な表情だったのだ。しかし同時に不気味さも感じる。死体を目の当たりにし、殺されかけた直後に出来る表情だろうかと。複雑な心境の婦警は背後から迫る人影に気づかなかった。



 「事情聴取の最中に婦警ナンパか?節操無しもたいがいにしろよ光矢」



 婦警がふりかえるとそこにはカーキ色のジャケットを着た男とスーツに身を包んだ細身の男が立っていた。



 「ちょっと、勝手に入ってこられると困ります」

 「あぁ、これは失礼」



 細身の男――剛は、懐から警察手帳を取りだした。それを見て婦警は怪訝な表情をカーキ色の男――薮木にのみ向ける。



 「あぁ、彼はねぇ、こっちの目撃者の友人だよ、両方個人的な知り合いでね」

 「現場に一般人を連れてこないでください!捜査中ですよ!」

 「それなんだけどねぇ、他の人もちょっと良いかなぁ」



 剛はパンパンと手をたたき、現場にいた全ての人間の手が止まった事を確認すると満足そうに頷き、その全員に向けて言い放った。



 「この事件は0課の担当になりましたのでぇ。皆さん直ちに引き上げて下さい」







 『西江戸署捜査0課』それは一般市民は存在すら知らず、同署の他の課の署員ですらその詳細を知らされていない。担当する事件に共通性は無く、なんの前触れもなく現れることから、同署員からは仕事泥棒の汚名と共に、蛇蝎のごとく嫌われている。

 それでも苦情が最低限なのは、お上から好きにさせるようにとのお達しが出ていること、そして彼らが担当した事件の検挙率がほぼ十割と言う驚異的な数値をたたき出しているからにほかならない。

 そんな0課が捜査している中、二人の一般人は邪魔にならないところで情報を交換していた。



 「で、結局そいつには逃げられたってわけか」

 「露骨にがっかりした顔しないでくれる?まずは僕が生き残っていることを喜ぶべきじゃないかな」



 あんまりといえばあんまりな薮木の態度に光矢は軽くため息をついた。重火器を持っている相手から逃げ回っていたのだ。もう少し労いとかを見せてくれても倍は当たらないはずだ。非難を込めた視線にも全くひるまず薮木は会話を続ける



 「相手の『症状』は分かったか?」

 「……多分ね、僕が彼と戦ってる時――」

 「逃げ回ってた時だろ」

 「良いじゃないかどっちでも、とにかくその間ずっと彼は撃ち続けてたんだ」

 「……それがどうかしたのか」

 「あぁ、ごめん言い方が悪かったね。十数分の間一瞬も止まることなく撃ち続けてたんだ。」

 「リロードは?」

 「してない」

 「なるほどな、つまり――」

 「持っている銃の弾薬を無限にする。もっと広く言えば持っている銃を撃ち続けられる状態に変えるってとこかな」

 「……随分限定的だな、銃を持っていなきゃなんの意味もない『症状』なんて」



 薮木はそう言って鼻で笑ったが、数秒の沈黙が彼の本音を如実に語っていた。銃を持っていないと意味がないとしても、相手が既に銃を持ってしまっている今、状況は最悪だと言えるだろう。二人が押し黙っていると剛がいつの間にか近寄ってきていた。



 「やっぱりそうだったか」

 「おやっさん、やっぱりってのは?」

 「君にはさっき話したけど、昨日の警備員の死体、五十発近く撃たれてたんだけど、映像の男は拳銃しか持って無かったんだ。しかも監視カメラの映像では弾を込め直してる様子もなかった」



 話を知らない光矢は怪訝そう顔をしているが、薮木は事態を重く受け止めていた。

 犯人は殺人に対して、ためらいがない。しかも明らかに犯す必要がない殺人を犯している。どういう精神状態なのかは分からないが、一刻も早く捕まえねばならないのは確かだ。

 焦りに飲まれそうになる自分に対して、クールになれと言い聞かせる。どれだけ焦っても事態は良い方へは転ばない。事態の収拾を急がねばならないのなら尚更だ。




 しかし、運命は常にもがくものに更なる試練を与えようとするものだ。自身を必死に落ちつけようとする薮木にも、運命の手が伸びていた。

 唐突に、薮木のケータイにメールの受信音が鳴り響いた。まったく同時に、光矢のスマホにもメールが入った。

 タイミングがタイミングだけに、二人は顔を見合わせると、メールを確認して――完全に固まった。



 「療、これって……」

 「……なんてタイミングだ。よりにもよって今か」



 二人の画面に映る送信者の蘭には、全く同じ文字があった。『ハコブネ』と、画面に映る文字は実に不吉に見えた。


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