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クールなフール  作者: 味形山寅猛
第1話
14/18

13

時は少しだけ、まだ空が青色だった時間に戻る。

 光矢の財布の中身を犠牲になんとか朝食を無事に終わらせた藪木だったが、こんなことは一時しのぎにしかならない。

 収入がほぼゼロのこの状況から脱却しない限り藪木の生活に安寧はないのだ。当然だが仕事は探さないと見つからない、幸せは歩いてこないのだ。



 「というわけで今日も優の家で留守番しとけ」

 「どういうわけかわからないけどわかりました」

 「今日はずいぶん素直じゃねえか」

 「21の無職がいたいけな美少女を昼間から連れまわしていると補導されるかもしれないし」

 「最高に余計な心配してくれてありとよ、あと無職って言うなフリーターだ」

 「本当に余計なんですか、さっきからお巡りさんが着いてきてますけど」

 「おいやめろ振り向くな目を合わせるな手を振るな」



 背後にちらちら見えていた青い服は勘違いではなかったらしい。

国家権力もこんな善良な一般市民を見張っている暇があったらもっと見るべきところがあるはずだ。そして実際のところ目をつけられると一番困るのはどこの誰だかもわかっていないサツキのはずなのだが。



「くそ、俺が何したってんだ」

 「仕方ないですよ、藪木さん雰囲気が渋い、大人っぽい、落ち着いてる?」

「老けてるって言っていいぞ自覚はあるから」

 「超老けてますよね」

 「なんで超をつけた」

 「まぁとりあえず私たちの年が実年齢より離れて見えるんですよ」

 「お前の実年齢は分かってねえけどな、精神年齢は分かってるけど」

 「どういう意味でしょう」

 「ほら、もう着くぞ」



 お互い軽口を叩きながら、藪木たちは足を動かしていた。この一週間で生活リズムはうまいこと固定してきた。

 朝食を終わらせると藪木は仕事を探しに街を練り歩く。その間サツキは優の家で留守番することになっているのだ。

 その優の家は藪木の家からそんなに遠くない。生活地区の比較的富裕層が暮らしている地域にある。オレンジ色の屋根のそこそこ大きな一軒家だ。

 扉の前にたどり着いた藪木は、サツキが足を踏もうとしてくるのを軽くかわしながら、呼び鈴を鳴らした。

 とんとん、と軽い足音が聞こえドアが開かれる。顔を出したのはいつもどおりマスクとサングラスで顔を覆う不審者スタイルの優だった。



 「……たのし、そうだね」

 「いいから早くこのじゃじゃ馬預かってくれよ、俺の足が危ない」

 「じゃじゃ馬なんて失礼な、あれ、優君学校はないんですか」

 「昨日から冬休み」



 そう言いながら顔の横でVサインを作る優。出会って一週間しかたっていないが、おそらく上機嫌なのだということはサツキにもわかった。学生が長期休みを喜ぶのは時代場所をこえてどこでも共通なのかもしれない。



 「優、玄関先で話してたら体が冷えてしまうだろう、早く入れてあげなさい」



 優の背後からもう一人の人物が顔を出した。髪に白髪が交じり始めている初老の男は、その表情に柔らかい笑みを浮かべて来訪者である二人を歓迎した。そのよく知る男に、藪木も笑顔で返事を返した。



 「今日も世話掛けるな、おやっさん」

 「いやいや、私も娘は居たことがないからねぇ、楽しませてもらってるよ」

 「あんまりそっちばっか構ってると息子が拗ねるぜ」

 「そんなことはない、両方平等に愛してるつもりさ」



 二人の会話に、サツキは照れ臭そうに頬を掻き、優は止めてほしそうに顔をそらした。

 高校生の男子からすると父親に堂々と愛してると言われるのは照れ臭いを通り越して少々やめてほしかったりもする。

 そう、父親だ。感見(たけし)。完全に名前負けしてる細身のこの男が優の父親なのだ。



 「サツキ、ちゃん、おれの、部屋いこ」

 「あ、優君待ってくださいよ」



 奥のほうへ消えていく子ども二人をほほえましく見送る大人二人。藪木はこういうときに自分が年をとったことを理解してしまう。それが悲しむことなのか喜ぶことなのかはまだわからないが――



 「おやっさん、今日は仕事は?」

 「今日は休みだよ、そろそろ毎日働くのはつらい年だ、それに、君に話さないといけないこともあるからねえ」

 「……そうかよ、じゃあ鉄のとこ行こう。昼間っから屋台ってのもあれだが」

 「構わないさ、たまの休日くらい羽を伸ばしたって、そのために普段働いてるんだから」

 「毎日が休みの俺には耳の痛ぇ話だぜ」



 剛は大きくはないがよく響く声で、優の部屋に一言かけてから外に出た。容赦なく襲いかかる寒さに体を震わせながら二人は歩き始める。

 朝方は顔を出していた太陽が雲の向こうへと引きこもりを開始したせいか、朝よりも激しく寒い。風が吹いていなかったのだけがせめてもの救いだと、二人は鉄の屋台へ早足で向かった。


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