9話 基礎魔法エリア爆発騒動3
「うわぁあ――――!!」
「逃げろおぉぉぉ――!!」
基礎魔法エリアには生徒の悲鳴が響いていた。
空中に出現した魔方陣に魔力が収束していき、色が変わっていく。
それを見たステラの顔色が変わる。
「やばい、あの魔方陣の大きさ、さっきの比じゃない!」
ステラが魔方陣の向いている方向を確認すると、慌てふためく女生徒がひとり――逃げ遅れていた。
「そこはダメだ、右へ走れ!!」
声のかぎり叫ぶ。 その声を聞いたセレナが即座に反応し、女生徒のもとへ駆け込む。
次の瞬間には、彼女をお姫様抱っこで抱え上げていた。
その直後――魔方陣から指向性の爆発が放たれ、ついさっきまで女生徒がいた場所が吹き飛ぶ。
ステラの頭が真っ白になる。 何も考えられない。
ただ、胸の奥が冷たく凍りつく。
その時――
「ふぃ~~、あっぶなぁ!!」
声のした方を見ると、セレナが女生徒を抱えたまま無事に立っていた。
「セレナ―――、ナイス!!」
「いやー、どうもどうも」
ミアがセレナのファインプレイに歓声を上げ、 セレナはそれに軽く手を振って応えた。
本来なら「よくやった」で終わる場面だ。
だが――尋常ではない速度で抱え上げられたせいか、お姫様抱っこされた女生徒はセレナの腕の中で気絶していた。
(※彼女の尊厳のために書いておくが、失禁ではなく失神である。)
セレナのファインプレーで辛くも 魔力炸裂を回避できたが…
さてどうするか、と悩んでいるとまた視界にあの謎の文字が浮かび上がった。
――《魔力操作 1/5》
……魔力操作? 僕のギフト深淵拘束にそんな能力は無かったはず…
初めて聞く言葉なのに、どこか懐かしいような――
そんな奇妙な感覚に包まれていると、基礎魔法エリアに残っていた魔力炸裂 の残滓へ向かって、ステラの魔力が勝手に流れ出した。
そして――魔方陣にステラの魔力が触れた瞬間、今度は逆に、残滓がステラの魔力を“取り込もう”としてくる。
まるで、静寂な草原に無数のガラス片が散らばっているような、一瞬たりとも気を抜けば切り裂かれるような、ひりつく空気。
ステラは戸惑いながらも、流れに逆らうように魔力を送り込む。 だが魔方陣は、それを炸裂させようと牙を剥く。
「くっ……!」
魔方陣は緻密な設計図のようで、一歩でも手順を誤れば、ステラの魔力ごと爆発する――そんな危うさがあった。
それでもステラは必死に魔力の仕組みを読み取り、吸収されながらも変換を抑え込み、魔方陣の構造を書き換えていく。
魔方陣が魔力を吸い上げ、色が変わり、点滅する。
限界が近い。 もう駄目か――そう思ったそのとき。
魔力炸裂の魔方陣が、吸収をぴたりと止めた。
そして、まるで“段階を越えた”かのように、魔方陣は静かに、音もなく消えていった。
「え? なに? 終わったの??」
「そうみたいね。あの爆発するギフト……入学前に聞いたことがあるわ」
「ええ。昔、安全対策のない基礎魔法エリアで危険なギフトを使って、わざと他の生徒に大怪我をさせるのを好んだ危険思想の生徒がいたって話よ」
ミアとエミリアの疑問に、アウレリアが淡々と答えた。
その直後、レオが顔を真っ赤にして怒鳴る。
「それなら、セレナードのあの言葉は何なんだよ、まるで見えていたように爆発する前にさけんでいたじゃねーか!」
そこへ、マルコがすかさず便乗する。
「レオの言う通りです。ダリオ様。 きっとレオには勝てないから、セレナードが卑怯な手を使って
勝負をうやむやにしたに決まってます。 聡明なダリオ様ならお分かりですよね?」
その“聡明なダリオ様”という言葉にダリオは一瞬だけ引っ掛かりを覚えた。
しかし”こいつらが俺を馬鹿にするはずがない”とプライドが、疑念を押しつぶした。
「…そうだな、レオとマルコの言う通りだ。 1番になるためなら手段を択ばないとは……卑劣な奴め
」
レオ、マルコ、ダリオの三人は、完全に自分たちの妄想だけでステラを断罪し始める。
それを聞いたミア が噛みつく。
「はぁ? 原因はどう考えても“前の問題児”でしょ。セレナじゃないって!」
エミリア も冷静に続ける。
「そうね。あの装置の不具合は、以前の騒動の影響が残っていた可能性が高いわ」
しかし、レオはまったく引かない。
「じゃあ聞くけどよ! セレナードのあの言葉は何なんだよ! 爆発する前に、まるで“見えてた”みたいに叫んでただろ!」
しかしミアがレオを一蹴する。
「もー、男のくせに、いつまでもうじうじと……!」
ミアが呆れたように吐き捨て、再び口論が再燃する。
その横で、ステラ はただ一人、沈黙していた。 眉間に皺を寄せ、先ほどセレナの足元に浮かんだ“光る文字”を思い返している。
――あの光は、魔力の揺らぎではない。
――文字のように並んでいた……まるで“術式”の断片。
ステラは小さく息を呑む。
(あれは一体……)
胸の奥に残る違和感だけが、ステラの中でじわりと広がっていく。
結局、この出来事は基礎魔法エリアの装置不具合として処理されることになった。
レオは最後までステラの関与を主張していたが――その主張は、ミアの一言であっさり折られる。
「レオ、セレナにぎりぎり勝ったんだから、もういいじゃん」
その“ぎりぎり”の部分を強調された瞬間、図星を刺されたレオは顔を真っ赤にして口をつぐむしかなかった。
《《ユリーナ・モウソウ視点》》
「ふぃ~~、あっぶなぁ!!」
――薄れゆく意識の中で、誰かの声が聞こえた。
次に目を開けたとき、私は学園の保健室のベッドに横たわっていた。
「……ここは、どこ……?」
「あ、気が付いた? ここは学園の保健室よ。どこまで覚えている?」
校医の落ち着いた声に、混乱した記憶を少しずつ手繰り寄せる。
「えーと……基本魔法エリアで講義を受けていて……煽られたレオ君が無理に魔力を上げて……“金属を削るような音”が響いて頭が痛くなって……それで、ステラード君が何か叫んで……」
記憶の断片がつながり、ユリーナ・モウソウの脳裏にあの瞬間が鮮明によみがえる。
「そのあと……ステラード君が『ダメだ、右へ!』って叫んだ瞬間、優しくて……でも力強い腕に、お姫様抱っこされて……!」
校医は、何か言いたげに眉をひそめた。
「その“優しく力強い腕”はセレナリアさんですね。 ……女の子の腕を“力強い”と表現するのは、あまり褒め言葉じゃないけど」
「私を絶体絶命の危機から救ってくださったのは、セレナリアさん……! なんて麗しいお名前……なんて尊い響き……!」
うっとりと呟く私を見て、校医は深いため息をついた。
「「ユリーナさん、とりあえず安静にしていてくださいね。 どこか痛むところはありますか?」
「そ、その……胸が苦しいんです、先生」
「苦しい? どんなふうに?」
「セレナリアさまのことを考えると……胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるような……」
校医は半眼になり、完全に悟った顔で言った。
「……ああ、ただの不整脈ですね。 安静にしていればすぐ治りますよ」




