8話 基礎魔法エリア爆発騒動2
レオがセレナを指差し、勢いよく叫んだ。
「お前からだ!」
「私?」
「ああ、お前だ。この俺が平民に負けるなんてあり得ん! まぐれだと証明してやる」
まさか自分が指名されるとは思っていなかったセレナは、まるで遊びに誘われた子どものように目を輝かせた。
その横で、ミアがすぐさま声援を飛ばす。
「セレナー、思いっきりいけーーー!!」
「うんっ! じゃあ――私も目いっぱい魔力を込めるね。ん~~《宵闇切断》!」
セレナが魔力を限界まで込めてギフトを発動する。
その瞬間、体の中心から温かい光が湧き上がるように魔力が広がり、腕へ、脚へ、指先へと一気に駆け巡った。
ギフトの恩恵で耐久力の数値が跳ね上がっていく。
314、383、458、472、478……。
「ふぅ…」
全身を流れる魔力が脈打つように力を送り込み、筋肉の一本一本が“自分のものじゃないほど軽く強くなった”ような感覚が押し寄せる。
セレナは自分の体を見下ろし、ぽつりと呟いた。
「ほえ~~。攻撃力が増えると、手とか足に力がみなぎって来る。 なんかこう……ムッキムキのマッチョになる感じ!」
見た目とのギャップが激しすぎる感想に、周囲が一瞬固まる。
「セレナー、今日のランチはゴリッゴリの筋肉定食ねー?」
「焼肉定食だってばー!」
ミアがすかさず茶化し、セレナが律儀に返す。 その軽快なやり取りに、ようやく周囲の空気が動き出した。
講師が慌てて駆け寄る。
「セレナリア、体はなんともないかね?」
「体? はっ! もしかして私、ムキムキのマッチョに変わっちゃう!?」
「違う! 慣れない能力値の変化で感覚がついてこない生徒が多いんだが…… 君は問題ないようだね」
セレナは胸を撫で下ろし、講師は逆に頭を抱えた。
「次、ステラード」
「はい、……深淵拘束」
ヒートアップしたレオとは対照的にステラは、“仕方なく茶番に付き合ってやるか” と言わんばかりの、やる気ゼロの声音だった。
ギフトが発動し訓練場の空中に、細く長い銀の鎖が数本だけ、無音で生成される。
先刻と同じように一本一本が生き物のように蠢いているが、どこか元気がないというか動きにきれがない。
「おい!ステラード。なんだその腑抜けた鎖はぁ!!俺を馬鹿にしてるのか???」
「……馬鹿になどしていない、すでに判定はされているのだからここで無駄に魔力を使う方がよほど馬鹿なことだ」
淡々と返すステラード。しかしレオはその落ち着きこそが挑発だと受け取り、さらに顔を真っ赤にして噛みつく。
空気が一気に険悪になり、アウレリアが慌てて口を開いた。
「ま、まあまあレオ君。ステラードさんは別に――」
だが、その言葉をエミリアが意味深な笑みで遮った。
「アウちゃん、無理に庇わなくてもいいんじゃない? ねぇ、ミア?」
「そうだよ。レオはセレナに勝てないんだから、ステラに勝ちを譲ってもらってた方が良かったんじゃない?」
ミアの“止め”が刺さった瞬間、レオが爆発した。
「なんだと!! 俺が平民の女に負けるとでも言うのか!!」
「へへ〜ん。私は478だよ? 450のレオ君は、どこまで伸ばせるのかな〜?」
セレナが軽く挑発すると、レオはさらに顔を真っ赤にして唸った。
「ぐぬぬ……よーし! 俺の本気を見せてやる!! あとで吠え面かくなよ!!」
セレナとミアが揃ってレオを煽り、アウレリアは「こら、二人とも!」と慌てて制止。
ルキアーノはそのやり取りを見て腹を抱えて笑い、ステラは相変わらず無関心そうに腕を組んでいた。
「次、レオ」
「やっと俺の番か、……見てろよ貧弱に平民」
レオは意地でもセレナを超えようと、魔力を無理やり練り上げはじめた。
キイイィィィーーー。
エリア全体に、金属を削るような不吉な音が響き渡る。
「なに……? 何の音……?」
「うっ、眩暈が……」
生徒たちの何人かが顔をしかめ、次々と体調不良を訴えた。
「頭が……っ」
ステラもこめかみを押さえ、その場に蹲る。
その視界の端に、淡い青色の文字がノイズ混じりに走った。
――《……xxx 魔力炸裂xxxxx リミットオーバーxx》
「…… 魔力炸裂……!?」
その文字を認識した瞬間、ステラはレオを止めようと身を起こす。だが――
「行けッ!! 剣豪ッ!」
レオがギフトを発動させた瞬間、黄金の魔力が爆ぜるように全身へと走り、筋肉の奥底まで染み渡っていく。 輝きは肩から腕へ、胸から脚へと広がり、レオの体をまるで鎧のように包み込んだ。
計測器の数値が跳ね上がる。 耐久力:480
レオは肩で息をしながら、勝ち誇ったように顎を上げた。
「……はぁ、はぁ……見ろよ、貧弱に平民! これが“俺”の力だ!!」
ジッ… ジジ…
エリア全体に、金属をこすり合わせたような嫌な音が響いた。 同時に空間がわずかに歪み、そこに“魔力だまり”が発生する。
本来なら発動に必要な魔力量が足りず、途中で霧散したはずのギフト―― その“未発動ギフト”が、空間に漂っていた魔力の残滓をトリガーにして再生されてしまったのだ。
再生されたギフトは 魔力炸裂。 込めた魔力が規定量を超えた瞬間、強制的に破裂する危険なギフトである。
おそらく、過去に誰かが“発動させるつもりのなかったほどの魔力量”を設定していたのだろう。
そこへ、ステラ、セレナ、レオという高魔力の生徒が同時にエリアへ入ったことで、偶然にも条件が揃い、ギフトが誤作動のように発動してしまった――そう推測された。
「レオ、逃げろ!!」
「ハン、逃げろって? 俺の方がお前のギフトを上回ったと認めたら、言うこと聞いてやってもいいぜ」
ステラの必死の声も、レオにはただの“負け惜しみ”にしか聞こえなかった。
「ほら見てよ、ステラード。負けそうだからって必死すぎ〜」
「そうそう、言い訳が雑なんだよね〜」
対決を見ていたリーナとアンナまでが、ステラを煽り始める。
だが――ステラだけは、別のものを見ていた。
「……なんで誰も、この魔力の流れが見えないんだ?」
口にした瞬間、ステラ自身が自分の言葉に凍りつく。
魔力は“見える”ものじゃない。 そんなこと、誰よりも自分が知っている。
――僕は、今……何て言った?
視界の端で、渦を巻くように魔力が流れていた。 ありえない光景に、ステラの背筋が冷たく震えた。
――《……xxx 魔力炸裂xxxxx 発動!xx》
空中にいくつもの魔方陣が浮かび上がり、そこへ魔力が吸い込まれるように収束していく。
そして――
チュド――ン!
最初に形成された魔方陣が爆ぜた。
轟音と衝撃が基礎魔法エリア全体を揺らし、生徒たちは悲鳴を上げて四方へ逃げ惑う。
その光景はまるで――戦場そのものだった。
「キャア――――!!」
「にげろおおお!!」
「なっなんだ? これは…」
混乱の渦の中で、レオはふと、 魔力炸裂が起動する直前にステラが口にした言葉を思い出した。
「そ、そうだ……ステラード。お前、こうなることが分かっていたな」
「何を言ってるんだ?」
「とぼけるな! 俺に“逃げろ”と言ったじゃないか。それが証拠だ!」
注意した相手から、まさかの疑いを向けられ、ステラは困惑した。
弁解しようと口を開く――だが、視界に浮かんだ謎の文字をどう説明すればいいのか分からない。
その逡巡を嘲笑うかのように、魔力炸裂は容赦なく次々と魔方陣を生み出していく。




