7話 基礎魔法エリア爆発騒動1
学園の廊下を、貴族の令息三人が並んで歩いていた。
だが、先頭を歩く少年、ダリオ・ロセッティの表情だけは、明らかに不機嫌だった。
ダリオはロセッティ伯爵家の次男。 火属性のギフトと燃えるような赤髪から、周囲からは“赤いの”と呼ばれている。
家を継げない次男という立場ゆえか、彼はいつしか何事にも“一番”であることに執着するようになっていた。
そのこだわりは、学友選びにまで及ぶ。 学園内で王家を除けば、最も家格が高いのはフォスティーナ侯爵家。
つまりダリオにとって、“友人として一番ふさわしい”のはルキアーノ・フォスティーナであるはずだった。
「ダリオ様、最近ルキアーノ様は同室のステラードと昼食もご一緒されているとのことです。……少々行き過ぎたことを申し上げるようですが、あまりに親密に見えるとの噂もございます」
控えめに報告したのは、ダリオの取り巻きの一人。背が小さく緑の短髪のマルコ・フェルニオ
「はん! ステラードって、あの貧弱な奴だろ?」
乱暴に言い捨てたのは茶色の逆毛、がっしりとした体を持つレオ・カンピオーネだ。
「ルキアーノは武に優れている。すぐに勉強しかできない奴に失望するさ」
「そうですよ、ダリオ様。ルキアーノ侯爵の横に立つのは、ダリオ・ロセッティ様です」
レオが自分の得意分野である戦闘訓練で張り切っている。ダリオにあの貧弱なステラードに力を見せつけてやりましょう!と言った。
レオの言葉にダリオも、ルキアーノも火属性なのだから、攻撃力が一番高い火属性が一番優秀だと考えを改めるだろうと思った。
午後からの授業は、学園の訓練場で行われるギフトを用いた戦闘訓練だ。
訓練場は用途ごとに区画が分かれている。
・基礎魔法エリア(基礎魔術の練習)
・攻撃魔法エリア(殺傷力の高い魔法の訓練)
・防御・結界エリア(防御魔法・結界の強化)
・特殊環境エリア(実戦を想定した環境再現)
内部には万一に備え、いくつもの安全機構が施されている。
・魔力吸収壁 (魔力を熱に変換して吸収する壁。)
・衝撃拡散機構 (衝撃を“波紋”のように全体へ広げて消す構造。)
・自動修復機構(壁や床が損傷すると自動で再構築する魔法陣。)
そして、最悪の事態に備えた最後の砦――
・魔力中和フィールド(訓練場内の魔力を一瞬で“なかったこと”にする安全装置。)
しかし、この“魔力中和フィールド”が起動したことは、学園創設以来ただの一度もない。
そのため、どのように発動し、どんな光景になるのかを知る者は、ごくわずかだった。
戦闘訓練の開始前、ステラードの組に割り当てられたレオが、さっそく絡んできた。
だがステラードは、まるで相手にする価値もないと言わんばかりに完全にスルーする。
「おい、無視すんなよ!」
レオは顔を真っ赤にし、さらにしつこく絡み続けた。
「おまえ、しつこいぞ。これ以上何か言うなら……」
あまりのしつこさに、見かねたルキアーノが一歩前へ出ようとする。
だが、その袖をステラードが軽くつまんで止めた。
「……ステラ?」
ルキアーノが問いかけるより早く、ステラードは静かに口を開いた。
「ギフトは……」
その言葉の続きを言おうとした瞬間――
「ギフトは他人と比べるものじゃないよ。 自分の中にあって、自分を成長させるためのものだよ」
まったく同じ言葉が、別の方向から重なるように響いた。
ステラードは目を見開いた。
その驚いた瞳に映っていたのは……セレナリアだった。
「えっ……あれ? 違った?」
ステラにじっと見つめられ、セレナは自分が何か間違えたのかと狼狽える。
だが、答えは違っていた。
「……いや、その言葉は“誰か”の口癖で……いや、何でもない」
「ん?」
ステラードは一瞬だけ遠い記憶を探るように目を伏せたが、すぐに首を振った。
(……誰の口癖だったかな? まぁ、思い出せないなら、それほど親しい相手じゃなかったんだろう)
そう結論づけると、ステラードは特に気にする様子もなく、いつもの無表情に戻った。
講師が基礎魔法エリアについて説明を始めた。
ギフトには戦闘系だけでなく、さまざまなタイプが存在する。
ここでは、自身を対象とした能力向上タイプだけでなく、周囲に働きかけるタイプのギフトも計測できる仕組みになっているらしい。
「えーでは、自身の能力向上タイプのギフトの人は、その向上した数値を。
周囲に働きかけるタイプの人は、訓練場に五十ほど漂っている魔力標識に働きかけてください」
「では最初は、……」
生徒たちが次々とギフトを発動し、講師が淡々と結果を読み上げていく。
「次、レオ・カンピオーニ」
「はい! 剣豪!」
(おっ、レオは大地属性の“剣豪”か)
レオがギフトを発動した瞬間、足元の床石がわずかに沈み、重力が増したような圧が空気を満たした。
大地属性の剣豪は、使用者の耐久力を魔力で強制的に底上げするギフトだ。
レオの身体の周囲に、土砂のように重く濃い魔力が渦を巻き、皮膚の下へと沈み込んでいく。
筋肉が膨張するわけではない。 だが、骨格そのものが強化されていくような鈍い音が、レオの体内から微かに響いた。
「レオ・カンピオーニ。耐久力上昇、283から450を確認」
剣豪は属性に応じたステータスが平均1.5倍になる。
その基準を踏まえると、レオの伸び幅は異常だ。日頃の研鑽の成果なのだろう。
「次、ステラード・バレリーニ」
「おっ、軟弱野郎はどんなギフトなのかなぁ?」
レオがこれ見よがしに俺を煽ってくる。 だが、いちいち相手にしても仕方がない。俺は軽く息を整え、魔力の流れを一点に集中させた。
「はい、深淵拘束」
ステラがギフトを発動した瞬間、空気が一度“沈黙”し、次の瞬間、銀色の光が弾けた。
訓練場の空中に、細く長い銀の鎖が十数本、無音で生成される。
一本一本が生き物のように蠢き、訓練場に漂う魔力標識へと正確に伸びていく。
ジャラララ―――
金属音に似た魔力の共鳴音を響かせながら、鎖は次々とマーカーを捕縛していく。
「え~と、ステラ・バレリーニ……魔力標識30個捕捉まで、4.8秒…」
「はん、どんなギフトかと思ってみていれば、ブンブンと周りを飛ぶコバエを捕まえるだけかよ」
レオがステラの成績を馬鹿にする。
講師が、それを訂正して、ステラの優秀さを説明する。
「いや、ステラ―ドのギフトは、使用者の敏捷性を引き上げる物だ。魔力標識を30個全てを5秒足らずで補足するのは、一流の冒険者と比べてもそん色ない速さだ。
「だっだが、いくら素早く補足しても、倒せなければ役立たずだ。 それに主を守る騎士は時として自らを盾にする。そんな時こそこの強靭な肉体が…」
面白くないレオは、負け惜しみで、自分の方が優秀だと言い出す。
「次、セレナリア」
「は~い! いっくよ~!|《宵闇切断》!」
ひときわ明るい……いや、軽すぎる口調でセレナがギフトを発動した。
「セレナリア。耐久値上昇、278から…よっ462を確認」
「462? さっきのレオを超えたぞ」
その瞬間、周囲がざわつき始めた。 レオは口をパクパクさせ、言葉にならない声を漏らしている。
「セレナすごーい!」
「462って何それ!?」
「やば……」
称賛の声が一気に広がる。
「ぐ、ぐぬぬ……平民ごときが俺を上回るだと? この野蛮な平民が!!」
レオが悔しさを爆発させていると、背後から冷たい声が降ってきた。
「レオよ。まさか……あの貧弱はおろか、平民の女にも負けるなどということはないと信じているぞ。
このダリオの周りに立つ者は、優秀でなければ務まらないのだから」
「も、もっもちろんです、ダリオ様! 見ていてください、必ずや……!」
すっかり見せ場を奪われたレオは、講師に食ってかかった。
「今のは本気じゃなかった、もう一度測りなおせ。 俺のギフトの“本当の力”を見せつけてやる!」
あまりの勢いに、講師は渋々うなずくしかなかった。
「……もう一度だけだ。それ以上はやらないぞ?」
「ああ、それで十分だ!」
レオは鼻息荒く振り返り、ステラとセレナを指さした。
「そこのお前ら、格の違いを見せてやるからな!」
読んでいただきありがとうございます。面白いと思ったら星の評価を貰えると嬉しいです




