37話 ベリッサの想い(欲望)1
《《 アンナ視点 》》
ベリッサたちは一人を除いて、意気揚々とヴォルカニア火山の頭頂部へと続くAルートを進んでいた。その一人とはアンナ・ミラージュ、巨岩の試練坑でセレナを運命の王子様と心に刻み込んだあの日から、胸の鼓動が落ち着く気配を見せない。
(はぁ…… もし、アウレリア達とヴォルカニア火山を登っていたら、今頃はセレナさんと楽しいピクニックを満喫できたのに……澄んだ空気(熱風)を吸って、見晴らしのいい風景(岩だらけ)を眺めて、私の手作りのお弁当をセレナさんに…)
「あ~~ん!!」
「――キャッ! なっ何ですの突然!!」
「えっ、あ、その……すっすみません!」
気が付きとベリッサさんのほっぺにマイフォークをぶっ刺さしぐりぐりとしていた。
まさか“セレナさんにお弁当を食べさせる妄想”の延長でやってしまったとは、口が裂けても言えない。
(ど、どうしよう……何か誤魔化さないと……!)
「こ、このヴォルカニア火山で叫ぶと、願いが叶うって噂があって……」
「え? その話本当ですの?」
「はっはい…… なので、美味しいお菓子を食べたいなぁと考えていて、つい”あ~~ん”とフォークを……」
「ルキアーノさまぁ〜〜〜っ!! ピーで、ピーを、ピーですわ」
ベリッサが即座に叫んだ。
我ながら、無理があるなと思いましたが、頭の中がピンク一色のベレッタ様は多少強引でもルキアーノ様補正されてしまいますね。
ノクティア騎士団の一人が苦しそうに膝をつき、ズキズキと痛む腕を押さえた。 そこには赤黒く焼けた跡とともに、拒絶を示す文字が浮かび上がっていた。
”資格無き者、炎帝への謁見叶わず”
「お嬢様、どうやら我々では、ここから先はお供する事は出来そうにありません。 どうかご容赦を」
「はぁ? このごつごつした山道を、自分の足で登れですって? ノクティア伯爵家令嬢のこの私に、泥臭い山登りをしろとでも?」
騎士は悔しげに唇を噛んで、不満を顔に出さないように必死に抑えた。
「いえ……ですが。 我々は魔力がお嬢様ほど高くないため……」
「……はあ、解りました。 ここから先は、私のような”選ばれた人間”しか進めないとなれば、仕方ありませんわね」
不満たらたらと言った態度を隠しもせず、女性騎士の背中から降りたベリッサは、スカートの裾をつまんで乱れを整え、ふん、と鼻を鳴らした。
騎士たちが引き返した地点を越えてしばらく進むと、腕にズキズキとする痛みが走った。 袖を捲ると腕に、火傷のような痕が文字となって浮かびあがていた。
”資格無き者、炎帝への謁見叶わず”
「ベリッサ様、私の腕にも文字が…」
「……本当だわ、私の腕にも文字が出ました。 ベリッサ様のスカートが風で捲れるたびにそちらに意識が引っ張られてしまい、気づくのが遅れてしまいました」
もはや、自分の癖を隠そうともしないリーナを、アンナは違う意味で感心していた。
――ベリッサが腕の文字を確認するとそこには二人とは違う文字が浮かんでいた。
”資格欲する者、自らが望む欲望を示せ”
その文字が消えた瞬間、目の前の溶岩が盛り上がり、火属性の魔物、炎蜥蜴が現れた。
炎蜥蜴は皮膚にあたる、表皮が極端に火属性が高く、火属性魔法はこちらにはね返ってきてしまう。 倒すには、反対属性、特に水属性が有効だ。
しかし、リーナ、アンナは腕に浮かんだ文字の通り、魔法が発動出来なかった。
唯一魔法を使えるベリッサが、前に出て、愛の獄炎葬を放つ。
爆音とともに、彼女の足元から黒い炎が噴き上がる。 だが、ダメージを与えるどころか、炎蜥蜴は獄炎葬を返してきた。
「私の愛を返すとは、なかなかやりますわね! しかし私が身を焦がすのはルキアーノ様の愛だけです」
リーナとアンナは”何言ってるんだ、こいつは”とでもいいたげな目でベリッサを見つめていた。
愛の獄炎葬が消えると、炎蜥蜴の尻尾が、ベリッサに巻き付いた。
突然の事に、ベリッサは対応できず、炎蜥蜴に取り込まれてしまった。
「きゃっ!……」
「「ベリッサ様!!」」
ベリッサの救出をはなから放棄したリーナとアンナは、三流営映画を見るような、関心が薄い目でその光景を見つめていた。
《《 ベリッサ視点 》》
一瞬、時間が巻き戻ったような感覚が、ベリッサを包んだ。
「……あれ?? ここは……」
目を開けると、そこに広がっていたのはノクティア家の庭園。 色鮮やかな食虫植物が咲き乱れ、子供の頃は餌を忘れると毎週一人は庭師が行方不明なった…… そんな思い出すら、今の彼女には懐かしい。
伯爵令嬢の趣味が食虫植物という時点で、すでに令嬢としてはもう終わっているのだけれど。
「お兄様…… どこですか? お兄様ぁ~」
庭の隅で、一人の小さな令嬢が涙で顔を濡らしながら周囲を見回していた。 心細くて仕方がない様子で、必死に誰かを探している。
その姿を見つけたベリッサは、ためらいもなく声をかけた。
「貴女、誰ですの? 私の庭で鳴かないでくださいまし。 せっかくの綺麗な花が、貴女の辛気臭い泣き声で台無しですわ」
「うっ……うん…… ごめんなさい……」
少女は涙を拭いながら、小さく謝った。
「それで? 貴女はどこの誰ですの? 私はノクティア伯爵家のベリッサと言いますの」
「わっ私は……アウレリア、アウレリア・フォスティーナといいます。 今日はお兄様と一緒に…」
(フォスティーナ? 今、フォスティーナと言ったんですの? フォスティーナ侯爵家と言えば、王国の四大貴族の一つ……!)
自分が思い上がった態度を取っていた相手が、より上位の四大貴族の令嬢だと気づき、ベリッサは一瞬だけ顔を強張らせた。
そのとき――
「おーい、アウレリア、いるか―?」
背後から聞こえた少年の声に、ベリッサがビクッと反応した。
振り返ると、そこには幼い頃のルキアーノ様が立っていた。 やや茶色がかった赤い髪、整った顔立ち、鍛えられた均整の取れた体。 そして笑うと白い歯が覗き、周りを明るくする少年。
ベリッサの”モロどストライク”だった。
そして、ルキアーノ様に釘付けになっている少女、赤のドレスの裾をぎゅっと握りしめ、目を大きく見開いてルキアーノ様を凝視している。 十年前の、自分だった。
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