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36話 ミアの想い2

 男爵家で庭師をしていたxxxx君の家は、ミアの屋敷から歩いてすぐの場所にあった。

 ミアの家は貴族としてはそれほど裕福ではなく、庭の手入れを毎日頼めるほどの余裕はなかった。 だから、xxxx君の両親あ屋敷の庭を整えるのは”たまに”で、それ以外の日は畑で働いていた。


 けれど、ミアの家は男爵家で(くらい)も低く、二人はまだ幼い子どもだった。 だからこそ、身分の差よりも「近所の友達」としての距離感のほうが強かった。


 ミアはよく、xxxx君の家に遊びに行った。

 おばさんが焼いてくれたスコーンの甘い匂い。 畑の土の匂い。 汗だくになって遊んだ帰り道の夕焼け。 どれもが、胸の奥に温かく残っている。


 その温かさが、目の前の“幼い自分たち”を見ることで一気に蘇った。


 子どもの頃の自分たちを見つめているうちに、ミアの表情は少しずつ曇っていく。

 最初は微笑んでいたのに、次第にその笑みが消え、胸の奥が重く沈んでいく。


 (……そうだ。あの頃は、礼儀作法も勉強も嫌いで、よくxxxx君の家に逃げ込んでいた。 おばさんのスコーンが嬉しくて……あの家が好きで……)


 思い出すほどに、心が締め付けられていく。 なぜなら、この後に起こる“忘れられない出来事”まで、鮮明に蘇ってしまったからだ。

 穏やかな記憶の色が、ゆっくりと濁っていく。 胸の奥に、冷たい影が落ちる。

 ミアの視線は、幼い自分たちを見つめながらも、どこか遠くの“痛みの記憶”へ引きずられていく。



 視界がジジッと揺れ、田園の風景が溶けるように消えた。 次に現れたのは、色のない世界、まるで記憶そのものが形になったような空間だった。


「父さん……母さん……」

「xxxxくん……」


 幼いミアの声が震えていた。

 目の前には、荒らされた家。 そして、もう彼のものではなくなった畑が広がっている。


「家も、畑も……なにもかも、全部奪われた……」


 幼馴染の少年xxxxは、両親を失った。

 村では「馬車の事故に巻き込まれた不幸な事故」と語られていたが、それは叔父夫婦が仕組んだと聞いた。

 偶然その事を知ってしまったxxxxは、必死に周囲へ訴えた。


「父さんと母さんは事故なんかじゃない! 叔父さんたちが――!」


 しかし、誰も彼の言葉を信じなかった。 むしろ周囲は、親を失った悲しみで混乱し、叔父夫婦を逆恨みしているだけだと決めつけた。


「叔父さんが嘘をつくはずないじゃないか」

「わがままを言って困らせるな」


 叔父夫婦は、あたかもxxxxを気遣う“善良な親族”のように振る舞った。


「これからの事は、俺たちを信じて任せておけばいいからな」

「私たちを本当のお父さん、お母さんと思って甘えてくれれば嬉しいわ」


 村の大人たちの前では涙まで見せ、周囲の信用を完全に勝ち取った。 その“気遣うふり”は見事で、誰もが叔父夫婦の言葉だけを信じ込んだ。

 そして、両親の死の悲しみにつけ込むように、叔父夫婦は家も畑も奪い、さらに借金までxxxxに押しつけた。

 少年が必死に訴えれば訴えるほど、周囲は彼を“問題児”として扱い、叔父夫婦の言葉だけを信じた。


 ミアも必死になって、xxxxの言葉を信じてと訴えた。 しかし、男爵家の、しかもまだ小さい女の子の言葉なんて、誰も信用してくれなかった。


 むしろ――

「xxxxがミアまで騙して、叔父夫婦を陥れようとしているんだ」

 そう決めつけられた。


 ――自分が男のなら…… 大人なら…… ウチが男爵じゃなくて、伯爵くらい偉かったら……

 でも、そんな事を願っても意味が無い。



 周りの人間の言葉は、理不尽にxxxxの心をゆっくりと壊していった。

 絶望したxxxxは、次第に自暴自棄になっていった。


「大丈夫だよ……きっと、なんとかなるよ……」


 私はxxxxの言葉を聞いてと訴える。


「xxxxくんは、ウソをつくような子じゃないよ、絶対あのおじさんたちが悪い事をしたんだよ」

「ミアちゃん、もういいよ」


 幼いミアは震える声で言った。 自分でも根拠がないことはわかっていた。 それでも、彼を一人にしたくなかった。

 しかし、少年はミアを見た瞬間、堪えていた感情が溢れた。


「貴族様は気楽でいいよな! …ミアちゃん、 …いやミア様、もういいです」

「そんな、私は……」

「ほっといてくれ!!」


 その言葉は、刃物のようにミアの胸を刺した。

「……っ」


 ミアは何も言えなかった。 否定したかった。

「わかるよ」と言いたかった。 でも――言えなかった。

 自分は貴族の娘。 彼の苦しみを本当に理解できるのか。 自分の言葉は、ただの“綺麗事”ではないのか。



 ミアは唇を噛みしめた。 痛みで血の味がした。

 少年は泣きながら背を向けた。 ミアは追いかけたかった。 でも足が動かなかった。


 (私は……なにもできない……)


 その瞬間、幼いミアの肩が小さく震えた。 涙をこらえるように、必死に顔を上げていた。

 現在のミアは、その姿を見て胸が締め付けられた。


 (……あの時の私は、こんな顔をしていたんだ……)


 その後にxxxxの両親の死は事故ではなく、叔父夫婦が仕組んだ事が分かった。 叔父夫婦は多額の借金を一気に清算するためにためにxxxxの両親の殺害を計画したのだ。

 すべてはxxxxが、周囲に訴えていた通りだった。


 しかしその時にはxxxxは周りの誰も信じられなくなっていた。

 そして、彼は、自ら命を絶った。


 ミアはその知らせを聞いた時、胸の奥が裂けるように痛んだ。


 そして世界に向けてひとつの誓いを立てた。

「いつか、悔しい想いで泣き叫ぶしか出来ない世界なんて、私が必ず無くすよ」


 その言葉を口にした瞬間、ミアはふと気づいた。

 ああ、そうか。私は別に地位とか名誉とか、そんなものはどうでもよかったんだ。


 ただ――

 xxxx君のように、理不尽な思いをする人がもう誰一人として生まれない世界を作りたい。

 その願いこそが、自分の根っこにあるものなのだと。



 気づくとミアはヴォルカニア火山の中腹に立っていた。

 さっきまで過去の記憶に沈んでいたはずなのに、目の前には変わらず溶岩粘体(マグマスライム)が、どっしりと存在している。

 ミアは腕に浮き出た文字、 ”資格欲する者、周りの者へ示したい事を示せ” その言葉を見た瞬間、胸の奥に沈んでいた記憶が、はっきりと浮かび上がった。


「……そうだ。私は誓ったんだ。 xxxx君みたいな、理不尽な思いをする人がもう誰一人として生まれない世界を作るって。 あの時、確かにそう決めたんだ」


 ミアが山頂に向かって一歩踏み出す。 それを待ってたように溶岩粘体(マグマスライム)がゆるりと動き出した。


「ミアちゃん、危ないよ」

 アウレリアが慌てて声を上げる。 けれどミアは振り返り、静かに微笑んだ。

 

「大丈夫、この子が、案内してくれるって、分かるから」


 その言葉には、不思議な確信があった。

 ミアは迷いなく歩き出す。 マグマスライムはその後ろを、まるで道案内のようにゆっくりと進んでいく。

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