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33話 ヴォルカニア火山1

 視界の端に走った、あの淡い金色の文字――

 ――《魔力視(クロノビジョン) レベル……2》

 あの文字は一体……


 授業前の教室は、昼下がりの光が差し込み、窓から柔らかな風が吹き込んでいた。

 生徒たちはいくつかのグループに分かれて、ざわざわと話し合っていた。


 そんな中でセレナは、周囲の声も届かないほど、あの光の文字の意味を考え込んでいた。


(あの文字……なんだったんだろう。

 クロノビジョンが、レベル2……?)


 セレナが光の文字について考えこんでいた静かな時間は、乱暴な声によって無遠慮に踏み荒らされた。


「よう、女ぁ、子連れで勉強とは熱心だなぁ」

 教室の入口に立ったダリオが、にやつきながら絡んでくる。


「私になんか用?」

 セレナは露骨に不機嫌な顔を向けた。

 その横でミリアも、獣のように鋭い目でダリオを睨みつけた。

 その視線に、ダリオは一瞬だけ怯んだ。 だがすぐに強がって見せた。


「お、生意気にも俺に反抗するか、だが俺は寛大だからな。 我が伯爵家が掴んだ情報を、お前らにも“特別に”教えてやろう」

 得意げに胸を張るダリオ。


「今までその所在が分からなかった四神だが、ヴォルカニア火山の噴火で、“炎帝イグナ=ラヴァル”がその火山にいるらしいことが分かった」


「四神? あれって伝説や物語の類じゃなかったの」

「炎帝って事は……他の三神もどこかで見つかったのか?」


 ダリオの言葉は、教室中を一瞬で蜂の巣をつついたような騒ぎへと変えた。

 ざわめきが教室中に広がり、セレナもアウレリアも思わず息を呑む。


「王家はすぐにでも火山周辺を閉鎖するだろう。だが、その前に俺は炎帝の所に行く」

「フォスティーナ侯爵家としても、この機会をむざむざ見過ごす訳にはいかないなぁ。 よし、俺たちも行って見るか、なぁステラ!」

「なんで俺まで……」

「私も炎帝の(ぬし)になる事を夢見てきたんですもの、ダリオに後れを取るわけにはいきませんわ」

 ルキアーノ、ベリッサもそれぞれヴォルカニア火山に出向く気満々だ。

「あっあの、アウレリア様。あの…」


 ミアがもじもじと声をかける。 その呼び方を聞いて、アウレリアはくすっと笑った。 ミアが”アウちゃん”ではなく、”アウレリア様”と呼ぶときは、決まって頼みごとがある時だと知っていた。


「分かってる… ミアもヴォルカニア火山に行きたいんでしょ。 ならお兄様とは別に私の名前でフォスティーナ侯爵家騎士団の一部を出すわ。 一緒に行きましょう」

「ミアとアウレリアだけでは心配なので、私も同行します」

 エミリアが静かに言葉を添える。


「私とミリアも行くよ。 美味しいお弁当持っていこうね」

 セレナが明るく笑い、ミリアもこくりと頷いた


「あうちゃん、エミっち、セレナも……ありがとう」

 ミアは胸の前でぎゅっと手を握りしめた。

 それを見ていた、ダリオは鼻で笑いながら言い放つ。


「他の貴族や名のある冒険者どもも、閉鎖前にダメもとで挑むだろうよ。 だが、炎帝の(ぬし)になるのは俺だ。 ロセッティ伯爵家の名にかけてな」




 三日後、セレナたちはヴォルカニア火山の麓にある小さな村へ到着した。

 村には宿泊施設など“おしゃれなもの”は一切なく、セレナたちとフォスティーナ侯爵家騎士団は広場の一角にテントを張っていた。

 少し離れた場所には――

 ルキアーノとフォスティーナ侯爵家騎士団の別動隊

 ダリオ率いるロセッティ騎士団

 ベリッサとノクティア騎士団


 それぞれが陣を構え、火山麓の村は一夜にして“貴族三家+騎士団の前線基地”と化していた。

 火山の噴煙は遠くからでも見えて、空気にはかすかに硫黄の匂いが混じっていた。



 ルキアーノが率いる”フォスティーナ侯爵家騎士団”の天幕へ、一人の男がそっと近づいた。


「誰にも見られなかっただろうな」

「安心しろ、監視が厳しいのはルキアーノ様の周りだけだ」

「それならいい…… 若からこれを預かっている。 ルキアーノ様がご学友に属性魔石を渡したら、こっそりすり替えろという命令だ」

「これは……?」


 男が受け取った魔石は、魔力が溢れていた。 しかし、そこから感じる属性は、火ではない。

 怪訝な顔をした男に、魔石を渡した側が低く告げる。


「水の属性魔石だ」

「水の…… なるほどな」

 その瞬間、男は“若”――ダリオの意図を理解した。


「承知した。 この魔石は必ずステラと言う生徒に渡すと伝えてくれ」



 ヴォルカニア火山には火の魔力が溢れていた。 

 そのため――

  魔力量が弱い騎士団員は、火山に入っただけで苦しそうにしている

  魔力が強くても、属性の相性で負荷が変わる


 特に負荷が大きいのは火属性以外の者たちだった。

  風属性・大地属性 の セレナリア、アウレリア、レオ、リーナは抵抗力が弱く、顔色が悪い

  水属性(火と反属性)のステラードは抵抗力がほぼなく、立っているだけでも相当の負荷がかかっている


 逆に火属性の ルキアーノ、ダリオ、ベリッサ、ミアは

 まるで何も感じていないかのように平然としていた。 火山は、属性の差を容赦なく突きつける場所だった。


「ルキアーノ様、この後ヴォルカニア火山での行動について、騎士団との話し合いがあります。 ご参加ください」

「ああ、そうか。 ならステラも呼ばないとな」


 ルキアーノがステラを呼ぼうとした瞬間、騎士団の一人が慌てて彼を静した。


「ルキアーノ様のご学友は、御気分が悪そうでした。 おそらく、この場所は”火”属性の魔力が強すぎるため、体調を崩されたのかと思われます」

「……そうなのか? さっき見た時はそんな風には見えなかったが――」

 ルキアーノは少し考え込むと、すぐに指示を出した。


「よし、君。この属性魔石をステラに持って行ってくれ。 そうすればかなり楽になるはずだ」


 騎士団員は丁寧に受け取り、深く頷いた。


「承知しました。こちらは私からお渡ししておきます。 ルキアーノ様は、どうかお早く騎士団との話し合いの場へお越しください」


 そう言って、騎士団員はルキアーノを会議の場へ急がせた。

 その手には、本来ステラが受け取るはずだった“火属性魔石”がしっかりと握られていた。

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