30話 セレナ救出作戦3
匂いの元をたどると、それはジュージューという何かが焼ける音だった。
その正体を目の当たりにした瞬間、アウレリアは……
「おうぇぇええ~~ げほっ! げほっ! 」
「あうちゃん! しっかり!! 傷は浅いよ」
「アウレリアは怪我なんてしていません…… えずいた原因は――あれです」
エミリアが指さした先には、”火であぶった巨大な蜘蛛の姿焼き”
香ばしい匂いの正体は、まさに魔物の料理(と思われる)だった。
「蜘蛛の姿焼き……? これは誰が焼いたのでしょう……?」
「うぷっ…… エミリア、それを私の視界に入らないように遠くに捨てて下さい」
「え~~、アウちゃん。 これ、美味しそうっすよ」
「ミア、それをこっちに持ってきたらフォスティーナ侯爵家の全力を持って貴女を貴族界から抹殺して差し上げます」
「ミア、悪い事は言いません。命が惜しいなら、アウレリアを虫で揶揄うのはやめておきなさい」
エミリアの言葉で、アウレリアの顔を見た瞬間、命の危険を感じたミアは、首がもげるほど激しく頷いた。
名残惜しそうに巨大蜘蛛の姿焼きを片付けるミアが奥の方から何かが聞こえて来ることに気づいた。
ジャリッ、ジャリッ。
と言う足音とともに、暗がりから人影が現れた。
「キャッ! ちょっちょっとあなた、何て姿で……」
「アウレリア、近づいたらダメです。 あれは人ではありません」
「え?」
思わず近づこうとしたアウレリアが、エミリアの言葉で止まった。
そして、目を凝らして少女の姿を見ると、確かに人の形をしている。
だけど、肌はところどころひび割れ、乾いた土のように崩れかけていて、まるで、土で作られた人形のようだった。
ぎいぃぃん!!
突然なにかを弾く音が響く、その音の正体はステラのギフトだった。
空中に生成された、細く長い銀の鎖が少女から伸びた髪の毛を弾いていた。
「アウレリア、離れろ!」
「え? え?」
謎の少女が、アウレリアたちに突っ込んでくる。
こちらに向かってきながら、髪の毛が鞭のようにしなり、アウレリアやルキアーノ、ステラ達に襲い掛かる
突進してくる少女を、ルキアーノが初級魔法の火球弾で迎え撃つ。
「くっ こいつ何者だ? こんなところに学園の生徒がいるとは思えないが……」
「ルキアーノ様、危ないですわ。 食らいなさい! 愛の獄炎葬ですわ」
ベリッサが両手に魔力を集めると、赤い魔力が渦巻き収束してゆく。
凝縮した熱量が空間を歪ませ、黒炎が渦巻きながら上昇してゆき、一気に巨大な火柱となり少女が炎に包まれた。
ゴオオォォォーー!!
「ちょっ… ベリッサ嬢、まだ敵と決まったわけじゃな…」
「敵ですわ、ルキアーノ様を誑かす可能性があるモノは全て私の敵なのです」
「いや、そうじゃなくて、上級魔法なんて、明らかに話を聞くつもりないよね?」
ベリッサの獄炎葬が消えると後には、正体不明の少女はまるで何もなかったようにその場に立っていた。
「……ノーダメージって、マジかよ」
その事実にルキアーノが驚愕する。
少女はふと周りを見回し、何かに気づくとステラへ歩いていく。
「っ! こいっ! ……深淵拘束」
ギフトが発動し薄暗い空間に、ステラの銀の鎖が生成される。 しかし、先刻と同じように銀の鎖は少女に髪に弾かれてしまう。
「ここまでか……」
覚悟を決めて目を瞑るが、いつまでたっても攻撃される気配はない。 恐る恐る目を開けると、少女はステラの胸元に顔を寄せ、くんくんと匂い(魔力)を嗅いだ。
「えっ……な、何してるんだ……?」
少女はステラの魔力の匂いを確かめるように、もう一度くんくん、と嗅ぎ、そのままステラの服を指で掴んだ。
「……な、懐いてる?」
アウレリアがぽつりと呟く。
「危険よ! 排除すべきだわ! さっさとやっつけましょう!」
ベリッサが空気を読まずに叫ぶ。
ルキアーノは少女とステラを見比べ、ベリッサの言葉を否定する。
「いや……襲ってこないなら、まず話を聞くべきだよ。セレナの事を知っているかもしれないしね」
アウレリアもルキアーノの意見に賛同する。
「セレナのこと……何か知っているかもしれないし」
少女はステラの袖を握ったまま、側から離れそうになかった。
「私は反対です、そんな正体がわからないメス! さっさと燃やすに限りますわ!!」
「メスって… 」
ベリッサの苛烈な言葉にルキアーノが困惑した顔を浮かべる。彼女はなおも、少女の排除を主張しようとする。 その時――。
「その子を苛めちゃだめーー!」
巨岩の試練坑の広大な下層に、セレナの声が響き、謎の少女がその声に反応する。 少女は顔を上げ、セレナの姿を見つけると、とてとてと小さな足取りで近づき、そしてステラにしたように、セレナにくっ付いた。
その様子はまるで、失われた大切な人にようやく出会えた子どものようだった。
「セレナ、無事だったのね」
崩落の瞬間から張り詰めていた緊張がほどけ、アウレリアは安堵の息を吐いた。 生きていてくれたという、そんな顔だった。
多分、言葉では生きていると強がっていても、心の中では不安で押しつぶされそうだったのだろう。
「セレナ、無事だったんだね、でも一緒に落ちたあのデカい奴はあっちで粉々になっていたよ。 ……いままでどこに行っていたの?」
「そうっす、落ちたところには蜘蛛の魔物しかいなかったから、アウちゃんが大変だったんっす」
”蜘蛛の魔物”という言葉を聞いた瞬間、アウレリアが「うっ…」と青ざめた。 ミアの何気ない一言が、あの地獄絵図を思い出させたのだろう。
それでも他の皆は、セレナの無事を心から喜んでくれた。
「えっとね、私、落ちたあと、この子に助けられたみたいなんだ。 目が覚めたら砂の上に寝かされてて、周りに細かい何かの残骸が山のように積もってて…… まるでお姫様みたいって思っちゃった」
セレナの言葉に、アウレリア達は一瞬固まった。
(それは切り刻まれた虫の死骸で、お姫様じゃなくて、完全に“虫に殺されかけた被害者”だよ……)
と全員が心の中でツッコミをしたが誰も口には出さなかった。
「で、お腹がペコペコだったから、『食べられる魔物はあっちにいる』って教えてくれたの。
だから狩りに行ったんだけど……気づいたら、その子いなくなっててさ。 それでね、こっちの方から音がしたから来てみたら――みんながいたってわけ!」
セレナの言葉に、アウレリア達は、「セレナらしい」と半ば呆れ顔だったが、当の本人は褒められていると勘違いした。
「それで、この少女みたいな姿のこの子はなんなの??」
「なんとなく、セレナとステラに似てるような…… 気のせいっすかね」
「セレナとステラさんには懐いていたようですが……」
「そうだな、おいステラ、お前本当に心当たりはないのかよ」
「……知らん、見たこともない」
皆が謎の少女についてセレナに聞くが、セレナ自身も詳しい事はわからないらしく、というよりセレナにとってはご飯を言教えてくれる親切な子くらいの認識だった。
そんなほのぼのな空気の中、一人過激少女が主張する。
「危ないですわ! こんな得体のしれないのはさっさと燃やすに限りますわ!!」
ベレッタの言葉に、皆が「あ~~、これ面倒くさい人だ…」という顔をした。
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