29話 セレナ救出作戦2
学園奥にある四試の門 は、四属性訓練場の中央ゲートに繋がっていて、現在はセレナの事故があって封鎖されていた。 入り口には二人の守衛が立っていて、気づかずに訓練場に行くことは不可能と思えた。
「よし、ステラ任せた」
「深淵拘束」
ステラのギフトが発動し、空中に細く長い銀の鎖が生成される。 それは入り口の守衛二人に巻き付いて動きを封じた。
「なっ!、こっこれは……ギフトか!?」
「お前ら、学園の生徒だな。 これはどういう意味だ。 おい! 誰か――……」
ボグッ!
仲間を呼ぼうとした守衛の顔面に、アウレリアの拳がめり込んだ。 気絶した後もアウレリアは二人に馬乗りになりひたすら殴り続けた。
「えい! えい!」
「……アウちゃん、怖ええっす!!」
「ミア、見なさい。 一度決めた事は徹底的にやる。 侯爵家を敵に回すと人生が終わります」
「え? 何か言った?」
アウレリアが手を止めて額の汗を拭った。 額の返り血がさらに広がると、ミアもエミリアも何も言えなかった。
「よし、行くぞ!!」
ルキアーノの掛け声とともにセレナ救出隊は訓練場に移動し、巨岩の試練坑の巨大迷路に入って行く。
「ほえ―――、すっごいおっきい!!」
「旋風の塔も凄い高さだったけど。ここの深さも相当ですね」
ミアとエミリアが地面に開いた亀裂から下を覗き込む。
下から吹き上げる風はどこか不気味で、思わず身震いをする二人だった。
「ではミア、お願いしますね。一刻も早くセレナを助けなければいけませんから」
「あいあい、アウちゃん。 私にお任せあれ。 ん~みんなもふもふにな~ぁれ! |柔毛崇拝の本能《フサリティア」!!」
ミアのギフトが発動すると、全員の髪が、ふわっ、とアフロになった。
「……え、ちょっと待って、ギフトでって……」
「ルキアーノ様、似合ってるっすよ」
「こんなんなるなんて聞いてな~いい!」
もふもふの浮力に包まれながら、ミアが先頭に立って亀裂へ飛び込む。
アウレリア、ルキアーノ、エミリア、ステラ、そしてベリッサが続いて飛び込み、アフロのふわふわした浮遊力でゆっくりと暗闇の底へ降りていった。
「セレナーー!! どこーー!!返事して!!!」
「せれなっちーー! 出てこーい! 今夜は絶品、魔物肉の姿焼きだぞーー!」
アウレリアとミアの必死……なのか微妙な呼びかけは、広い暗闇に空しく響くだけだった。
「誰か灯りを付けられないっすか? こう暗いとなんも見えないっす」
ミアが周囲の暗さに文句を言いかけたところで、ステラが「しっ!」とミアを制した。
みんなが息をひそめると、カサカサ……という何かが這うような音が聞こえた。
「今の音、何……?」とエミリアが小声で尋ねると、
「ちょっと待ってね。 今、灯りを付けるから」 アウレリアが光を付けた瞬間。
「vmdsdl,cvc@s;elcxl@!!!」
目の前には、無数の闇紡蜘蛛が岩壁に張り付き蠢いていた。
アウレリアの声にならない、絶叫が響き渡った。
「いっやぁああああああああ!!!!!!!!!」
次の瞬間、アウレリアは両手のスタッフを振り回し、目につく限りの闇紡蜘蛛を片っ端から叩き潰していった。
ドゴォ! ゴガッ! グシャッ !!
「ぎゃああああああああああああああああああ!!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
闇紡蜘蛛は弾け飛び、ちぎれ、転がり、文字通り原形を留めないほど潰した。
周りには脚が、腹が、頭が飛び散ると、さらにアウレリアの恐怖に拍車がかかる。
恐怖の連鎖によってアウレリアの闇紡蜘蛛大量殺戮は暫く続くのだった。
その光景を見た、エミリア、ミア、ルキアーノは揃って肩をすくめた。
「あ〜……ですよね〜」
「アウちゃん、虫だけはほんと無理っすからね」
「知ってたけど、我が妹ながらここまでとは……」
一方、初めてこの“アウレリア”を見た者たちは完全に固まった。
「うわぁ……」
「ひ、ひいぃぃ……」
暗闇の底に、アウレリアの絶叫と蜘蛛の潰れる音が響き渡った。
ようやくバーサク・アウレリアが収まり、静寂が訪れる。
(なんですの? なんですの? なんなんですの??あれは!!)
灯りによって周りの様子を確認すると、巌王と思われる巨大な岩の塊があちこちに散乱していた。
そしてある一か所をミアが指さしてアウレリアとエミリアの二人に促す。
「うへぇ~、アウちゃん、エミっち、これ見てよ。」
ミアが指した先には細切れになった闇紡蜘蛛が山のように積み上がっていた。
暗闇の暗殺者と言われる魔物は、原形を留めないほど粉砕されていた。
「……誰がやったんすかねぇ、こいつは不意を突いて襲ってくる厄介なヤツっすけど」
「それをこんなに…… 残骸を見る限り、かなりの数をひたすら切り刻んだみたいだけど、セレナ一人だけで、こんな真似は――」
その言葉を遮るように、アウレリアが声を上げた。
「そっそれより、セレナを探すために奥に進みましょう!」
この場にずっといれば、また闇紡蜘蛛が襲ってくるかもしれない。 アウレリアはここにはとどまりたくなさそうで、すぐにも移動しようと言ってきた。
「わたくしも、ここから移動する事をご提案しますわ」
「おっ俺も、ここに居ると見たくない妹の姿を見ると言うか…何というか……」
「……僕も、とばっちりが怖いかな?」
ベリッサ、ルキアーノ、ステラもすぐに移動する事に賛成した。
三人の顔には、明らかにバーサクモードのアウレリアの方に恐怖を感じているらしかった。
ぐううぅぅぅ~~
「あはは、お腹が鳴ったっす」
「そう言えば、セレナさんの救出でドタバタしてて、まともに食事も取っていなかったですね」
ミアが照れくさそうにお腹を押さえ、エミリアも思い出したように頷いた。
その時、洞窟の奥から、ふわりと香ばしい匂いが漂ってきた。
その匂いに、ミアがぱっと顔を上げた。
「アウちゃん、エミっち。奥からいい匂いがしてくるっす!」
「何を馬鹿な事…… ミアがお腹が減りすぎて ……本当ですね」
エミリアが半ば呆れながら言いかけて、しかし次の瞬間、鼻で匂いを確かめ、目を見開いた。
香ばしい匂いは、確かに奥から流れてきていた。
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