28話 セレナ救出作戦1
「よくやったわ、リーナ。 アウレリアは“愛する人”の妹。 殺したら、あの人が悲しむもの。
でもセレナなら……最近ぽっと出で、ルキアーノ様と仲が良くて目障りだったから。 ちょうどよかったわ」
生気の欠片もないリーナの肩に、ベリッサがそっと手を置く。
その声はリーナを庇うようでいて、言葉の刃は、リーナの心をズタズタに切り裂いてゆく。
「ベリッサさん、その…セレナさんは、目障りとかそんなんじゃなく、真っすぐで、魔物にも真っ先に向かって行って…」
「……リーナ! 私たちの目的は四神の主になる事よ。 そうすれば貴族社会で王家に次ぐ絶対の地位が約束されるわ。 ……そうなれば、たとえ侯爵家との婚姻でも――」
ベリッサのうっとりとした顔は、妄想の中で、ルキアーノとの結婚を思い描いているのだろう。
「でも、不慮の事故だったとしても、わたくし、こっ……殺しちゃうなんて……」
「……リーナ、貴女。 本当に”不慮の事故”だったの?」
「なっ何を、不慮の事故じゃなかったら、何だと仰るのですか」
リーナが心外とばかりに声を張り上げた。
かしベリッサは、その揺れを見逃さない。リーナの心の糸を、指先でそっと引き寄せるように操る。
「……本当は、アウレリアと仲良くなるセレナを見たくなかったんじゃなくて? 死んじゃえば、永遠に貴女のものになる… 違う?」
「わたくしはそんな事、望んで……」
「本当に?」
ベリッサの声は優しく、しかし確実に追い詰めてゆく。 リーナの胸の奥で、罪悪感と恐怖が絡まり、形を失っていく。
“そんなつもりじゃなかった”
“でも、あの時の自分は……”
“もし、心のどこかで――”
感情が入り乱れ、言葉が出ない。 リーナの瞳から、光がゆっくりと消えてゆく。
そのリーナの変化に満足したのか、ベリッサはほほ笑む。 まるで、思い通りになる人形を手に入れたかのように。
今、訓練場は巨岩の試練坑で起こった崩落で、完全に立ち入り禁止となっていた。
教室では、セレナを助けに行くと叫ぶアウレリアを、周りが必死に止めているのだった。
「私、セレナさんを助けに行きます! 行かせてください、お願いです!」
「アウちゃん、責任を感じているのは解るっすけど、生きているか分からないですよ。ここは学園に任せて大人しくしてるっすよ」
「そうです、アウレリア。今回ばかりはミアの言う事がの方が正しいです」
「こいつって……エミっち、ひどくないっすか?」
エミリアとミアが両側からアウレリアの腕を押さえる。
しかしアウレリアはセレナを探しに行かせてと叫び、二人を振りほどこうとする。
妹の必死な様子を見ていたルキアーノが、建て前を用意。エミリアとミアを納得させる。
「……そうだな、フォスティーナ侯爵家の人間が友人が危ない時に助けに行かないとなったら信用を失ってしまう。 ……どうだろうエミリアとミア、ここはアウレリアを行かせてやってくれないか」
「ちょ、ちょっと待つっす! アウちゃんを行かせるって……そんな簡単に決めていい話じゃないっすよ!? 崩落現場なんて危険すぎるっす!」
「……ルキアーノ様、気持ちは分かります。 でも、アウレリアを行かせるというのなら、私たちも覚悟を決めなければなりません。あの子は今、冷静ではありませんから」
ミアとエミリアが必死に言葉を重ねるが―― ルキアーノはその場の空気を断ち切るように、勢いよく立ち上がった。
「だったら、俺たちが一緒に行けばいいだけの話だ。 な!? 俺たちも救出に行くぞ! アウレリア一人で行かせられないからな!」
そして、迷いなくステラの肩を掴む。
「ステラ、お前もだ。行くぞ!」
突然の指名に、ステラは目を瞬かせた。
「……ルキアーノ……僕も行くのかい?」
「当たり前だろ。お前が一番冷静で、判断が早い。こういう時に必要なのは、お前みたいな奴なんだよ」
アウレリアは涙で濡れた瞳のまま、震える声で言った。
「……ルキアーノ様……ステラさん……ありがとうございます……」
(いや、まだ行くと言ったわけじゃないんだけど…… はぁ、これで行かないなんて言えないか)
セレナ救出作戦に同意したステラは、奇妙な違和感を覚えていた。 自分の気持ちが、”面識のほとんどない友達の一人を助けに行く”というものではなく。 かけがえのない、失ってはいけない存在を助けに行く…… ”という焦燥感に溢れていた。
(この感情はなんだ、あの平民は…… 一体僕のなんなんだ?)
自分でも説明できない思いに、ステラは戸惑いを隠せなかった。
講師たちに『学園で待機する様』と言われていたアウレリア達は、学園の目を盗んで独断で動くことにした。
爵位が高い”フォスティーナ侯爵家”の二人、アウレリアとルキアーノが動く為、色んな思惑が入り混じり反応は分かれた。
・後々の事を考えて、侯爵家に恩を売りたい者
・学園の指示に従う者
・明確に立場を示さず、日和見をする者
「くっ、予想外の展開だわ…… ”悲しむアウレリアを私が慰めて、ルキアーノ様に見せる。” そして私の慈悲深いところをアピールすれば、ルキアーノ様は私の素晴らしさに気づき、二人はそのままゴールイン。 将来、子供は男の子と女の子で―― ルキアーノ様、こんなところで、子供達が見ています… でも……」
ベリッサは、いつもの妄想全開。 しかしアウレリアの話を聞き、セレナが無事だったら、せっかくリーナを都合のいい操り人形にしたことが無駄になる。
もしセレナが無事なら、救出の混乱に乗じて始末する。 その目的のために彼女もアウレリアと共にセレナの救出に参加することにした。
寮の食堂の入り口ホールを入ってすぐ右の部屋に入ると、アウレリア達が集まって話し合いをしていた。 寮は基本男女が分かれている為、一緒に話し合うためにはこの場所しかなかった為だ。
コンコン、と扉を叩く音が響くと、中から声が返ってきた。
「……合言葉」
「……ご飯は三杯まで」
「入ってよし」
セレナらしい合言葉という事で、この言葉になったらしい。 本人が聞いたら”三杯じゃ足りない”
と真顔で言うだろう。
中ではアウレリア達がセレナ救出について話し合いをしていた。
「…じゃぁ、訓練場へのゲートはどうやって開ける? あそこは常時守衛がいるから、押さえておける人が居るかな?」
「じゃぁ、その役は僕がギフトで抑えるよ」
「なら下に降りる時は、私のギフトでみんなの髪の毛をふさふさにすればいけるっす!」
「いや、ふさふさって……どういう意味?」
エミリアが怪訝な顔で突っ込むと、ミアは人差し指を立てて得意げに言った。
「それは、秘密っす!」
ステラが守衛の足止めを、ミアが巨岩の試練坑下層に降りる時の役を申し出る。
「魔物がいたら、俺のギフトで守ってやるぜ!」
「ダリオ様、ここで恩を売っておけば将来、ルキア―ノ様が側近を選ぶときに、必ずダリオ様を選ぶでしょう」
「え?あ、おっおお、そうだな」
レオ、マルコ、ダリオが、ここぞとばかりにアピールをする。
「下に降りてからは、私に任せて下さいな、是非ともルキアーノ様の役に立ちたいのですの」
そして、ベリッサもしれっと参加表明をした。




