24話 属性アップ訓練(巌王編)1
大地属性の訓練場全体は、岩盤で作られた巨大な迷路、それがこの巨岩の試練坑だ。 特筆すべきは構成している岩盤は音をたてて動く。 その為道順を覚える事は意味をなさない。
巨岩の試練坑と他の訓練場で違う所は、戦闘でのリタイアよりも巨大な迷路を抜けられず、諦めからのリタイアが一番多いと言う点だろう。
「……うわ、なにこれ。地形、完全に迷路じゃん」
「いや迷路どころじゃないよ。あの岩、普通に十メートル以上あるし……影が深すぎて中が見えないんだけど」
「……ほら見て。風が抜けてる。奥、めちゃくちゃ広いよこれ。 ていうか、音が反響してる……誰か、今、叫んだ?」
「やめてよそういうの! もう帰りたい……」
生徒たちが口々に感想を漏らしていた。 その様子はまるで観光地に来た旅行客のようで、緊張感よりも好奇心が勝っているように見える。
そんな同級生たちを横目に、アウレリアがセレナへと声をかけた。
「ふふ、セレナさんはどうです? こういう場所、お好きですか?」
しかしセレナは浮かない顔をして、首を横に振った。
「好きじゃない……。私がいた村の近くにも、こんな岩の迷路みたいな場所があったんだけど……」
セレナが言い淀んだ、何か思い出したくない記憶を思い出してしまったような…そんな感じだった。
「迷路に迷って帰るのが遅くなって…… その日の夕食を食べそこなったの。それ以来迷路は大っ嫌い!」
セレナがぷいっと横を向いて言い切ると、アウレリアは思わず吹き出した。
「だって! あの日の夕食、ニードルアーマーのシチューだったの! あれ、村でめったに出ない御馳走なのに……!」
セレナは拳をぎゅっと握りしめ、今にも泣きそうなほど悔しそうだ。
その必死さに、周囲の生徒たちが思わず苦笑した。
そんな中、講師が軽く咳払いをして口を開いた。
「セレナリアはラホ村の出身だったね、そう言えば…… 彼は前に”サイズが小さい迷路”を作った事があると言ってたなぁ」
「え?誰がそんなことを?」
「ん?この巨岩の試練坑を作った卒業生だよ」
それを聞いたアウレリアとセレナが驚く。 しかしセレナは、驚きよりも“確かめるような”表情を浮かべていた。
彼女はゆっくりと巨大迷路の壁へ歩み寄り、そっと手を当て、指先から魔力を流し込んだ。
ゴゴゴゴッ!!
大地が震え、岩盤がうねるように動き出すと、通路が組み替わり、迷路の形がまるで生き物のように変化していく。
「え? えええっ!? ど、どういうこと……!?」
アウレリアが完全に混乱する。
セレナは壁から手を離し、少し得意げに言った。
「あ、やっぱり、ラホ村の迷路と同じだ。 ラホ村の迷路も、中で魔力を使うと壁がそれを吸収して、それをきっかけに迷路が組み変わる仕組みなんだよね。 だから、ここも同じかなって思って試してみたの」
“なんでもないこと”のように説明するセレナに、アウレリアはぽかんとする。
そのとき……
「セレナさん、でしたかしら?」
澄ました声が割り込んだ。 声の主は、リーナ・メルヴィ。
メルヴィ子爵に溺愛され、世間知らずで有名な令嬢だ。
「ワタクシ、普段は平民の言葉など耳に入れないのですけれど…… 特別に聞いて差し上げますわ。 この迷路について、他にも何かご存じなのでしたら教えてよろしくてよ」
リーナの言葉を聞いたアウレリアが「また始まった……」と困った顔をした。
リーナはさらに続けて……
「特にこの土埃を綺麗になくす方法などあれば、速やかにワタクシに教えなさい、平民」
胸を張り、当然のように命じるリーナ。 セレナはぽかんとしつつも、どこか呆れたように瞬きをした。
「ちょっと! 聞いてますの??」
「え? あっごめんごめん。 本物の悪役令嬢の言葉を聞いて感動してた」
「だっ……誰が悪役令嬢ですって?」
「“聞いて差し上げますわ“とか、“教えなさい“とか?」
セレナがリーナの口調を真似て肩をすくめる。
「ぶほっ! ごほっ、ごほん……!」
アウレリアが口元を押さえきれずに噴き出した。
「ちょ、ちょっと! ワタクシはそんな……そんな大げさではありませんわ!」
リーナは真っ赤になって抗議するが、その“否定の仕方”がまた見事に悪役令嬢ムーブで、アウレリアは再び肩を震わせていた。
「いいから、ワタクシの質問に答えなさい! 土埃がひどくてワタクシ耐えられませんの!」
「ん? そんなの無いよ。 ……代わりにこんな仕掛けなら……」
セレナはなんてことないみたいに言うと、再び壁に手を当てた。
今度はアウレリアもにも分かるほど、はっきりとした強い魔力が流れ込んだ。
次の瞬間――
ゴゴゴゴゴッ!!
迷路を形作る巨大な岩盤が、まるで生き物のように高速で動き出した。 通路がねじれ、壁がせり上がり、足元の地面まで震える。
「えっ……ええええっ!? な、なにが起きてますの!? ワタクシ聞いてませんわよ!!」
リーナはスカートを押さえながら後ずさり、顔は真っ青、声は裏返り、完全にパニックだ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! ワタクシはこういう“地面が動く系”は無理ですの! 止まりなさい! 今すぐ止まりなさいって言ってますのよ、この迷路!!」
迷路に向かって命令するが、当然止まるはずもない。
「アウレリア! アウレリア! ワタクシ、埋まりますわ! 潰れますわ! 粉々になりますわ!!」
「うん、やっぱりラホ村の迷路と同じだ。 この動き方、そっくり」
「そっ……そっくりとか言ってる場合じゃありませんわぁぁぁ!!」
リーナの悲鳴が迷路に反響し、さらに混乱を煽るように響き渡った。
その騒ぎの最中、講師がようやく腰のポーチを探り、黄褐色のブレスレットをいくつも取り出した。
「はいはい、みんな落ち着いて。 これを腕につけなさい。 緊急時には自動で外へ転移する安全装置だ」
「せ、先生!? もっと早く言ってくださいまし!!」
リーナが泣きそうな声で叫ぶ。
「いやぁ、こういうのは“危険を体験してから”の方が覚えがいいからねぇ」
「覚えなくてよろしいですわぁぁぁ!!」
講師はリーナの絶叫を軽く受け流しながら、生徒たち一人ひとりにブレスレットを配っていく。
アウレリアは震える手で受け取り、セレナは物珍し気に眺めていた。
ブレスレットを配り終える頃になって、ようやく岩盤の動きが弱まり、迷路全体が静けさを取り戻し始めた。
それでも完全に止まるまで、一時間近くかかった。
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