23話 属性アップ訓練(水母編)3
「でかい…」
40メートル級の本体から伸びている触手が湖の中を漂っている。 その全長はおよそ倍の80メートルにも届くほどだった。
完全に日が落ちた揺藍湖では”ジェルド”の魔力核が青白く脈動し、幻想的な光を放っている。
「この揺藍湖の主ともいえる、大水母。 通称” ジェルド”だよ。 こいつの特徴は……」
講師が、説明しかけた、その瞬間……
水上竜巻の領域を突破した数人の生徒が、我先にとジェルドへ挑みかかった。
「アクア・ショット! アクア・ショット!!」
「穿て! ハイドロ・ランス!」
大量の水魔法が一斉に放たれ、ジェルドへと殺到する……が。 ジェルドの魔力核が一瞬、強く光る。
次の瞬間、放たれた魔法はすべて掻き消えた。
「!?魔法が消えた??」
「弾かれたとかじゃなくて?」
「違う、当たる直前に"ふっ”と消えたんだ」
魔法が霧散した直後、湖面がぐらりと揺れた。
ジェルドの巨大な本体が、ゆっくりと、しかし確実に怒りの色を帯びて脈動する。
四十メートルの胴体から伸びる触手が一斉に逆巻き、湖水をかき混ぜるように渦潮が生まれた。
「な、なんだ!? 水流が……!」
「ちょっ、足場が――!」
次の瞬間。
ドンッッ!!
湖面の下から、一本の触手が水柱を突き破って飛び出すと、まるで大砲の砲弾のような速度で、生徒の一人に襲い掛かった。
反応する間もなく、触手が空気を裂く。
バギィィィン!!
堅い何かが砕かれる音が響く。
「ぎゃっ――!?」
「うそ……防御ごと砕かれた!?」
さらに、ジェルドの魔力核が再び光る。 今度は淡い青ではなく、濃い紫の脈動。
ステラが叫んだ。
「みんな伏せろ! “魔力の衝撃波”が来るぞ!!」
しかし、その声はわずかに遅かった。
ジェルドの周囲に漂っていた水球が、まるで意思を持ったかのように一斉に震え始める。
次の瞬間……
ズドォォォォン!!
水球が一斉に破裂した。 破裂した衝撃波が、周囲の生徒たちをまとめて吹き飛ばす。
「うわあああっ!!」
「耳が……っ、なにこれ……!」
湖面は荒れ狂い、触手は次々と水上へ突き出し、まるで“侵入者を一掃する”かのように暴れ回る。
ジェルドの魔力核が、暗い湖の底で不気味に脈動し続けていた。
揺藍湖にとけ込んでいる魔力は、ジェルドにとっては自分の手足のようなものだった。 魔力核が脈動するたび、湖の魔力が吸い寄せられ、ジェルドの周囲に水球として凝縮されていく。
その水球はただの水ではない。 内部にジェルドの魔力が編み込まれた、“魔力の塊”そのものだった。
そして、魔力核が一定の波長を出すと、水球は耐えきれずに内側から破裂した。
それはまさしく、湖に仕掛けられた魔力機雷。
破裂の瞬間に生じる衝撃波は、水属性の魔力を帯びた“圧縮水流”となって四方へ拡散し、生徒たちの防御魔法を容易く吹き飛ばした。
衝撃波が収まり、湖面に一瞬だけ静寂が戻った。
「終わった??」
誰かが、フラグを立てる。
「……おい、あれ……光が強くなってないか?」
誰かが震えた声で言った。
湖の魔力が、ジェルドへ吸い寄せられていく。 水面が沈み込み、湖全体が巨大な呼吸をしているかのようだった。
バチィィィィン!!
水中で何かが“破裂”したような音が響き、ジェルドの魔力核が紫紺の光を放った。
その瞬間、ジェルドの触手がすべて硬直し、一斉に形を変えた。
先端が槍のように尖り、一部は刃のように扁平化し、また一部は鞭のようにしなり、まるで“武器”そのものに姿を変えた。
「触手の形が……変わった……?」
形が変わっただけではなかった。
すべての触手に雷光のような魔力の筋が走っていた。
バチバチッ!!
全ての触手は圧縮された魔力を纏っていた。
「まずい! あれに触れてはだめだ」
一目見た瞬間、ジェルドの触手の危険性を視たステラが理解する。
(……僕は今、何を言った??)
自分の言葉にステラが困惑する。 ……その時視界にあの文字が走る。
――《魔力操作 2/5》
ジジッ………… ――《魔力視》
ゴウッーー!
突然ステラの周りに魔力の激流が視えた。
「くっ! なんだ? いったい…」
ステラがジェルドの魔力の激流に翻弄される。
まるで暴風雨に外に出て風に体が持っていかれるような、圧倒的な力。
ステラが魔力の流れに抗おうと魔力を流すが、ジェルドの魔力に押し返され、魔力が逆流してくる。
荒れ狂うジェルドの魔力にステラは戸惑うが、そんな事はお構いなしにとばかりに押し潰されそうになる。
魔力核から触手に流れる膨大な魔力を、ステラは必死に抑えようとした。
だがジェルドはさらに強く抵抗し、互いの魔力がぶつかり合い、お互いを飲み込もうとするような緊迫感が全身に走った。 湖そのものが、ステラを呑み込もうとしているかのようだった。
水面が激しく渦を巻き、無数の触手が魔力を練り上げ始める。 制御不能な魔力が荒れ狂い、ステラの限界はすぐそこまで迫っていた。
ダメだ抑えられない。 諦めが頭をよぎった、その瞬間。
ジェルドの体内を流れる魔力が、ふっとステラの手のひらに納まったように、”静まった”。
まるでギフトで“操るように、ジェルドの魔力が脈動し、ステラの意志に従う。
自分の手を見つめ、ステラは震える声を漏らす。
「なんだ…この…力は…」
次の瞬間、巨大な魔力の奔流はステラの操作に従い、ジェルド自身の魔力核へと逆流し……
ジェルドは、自らの魔力核の暴走で自滅した。
その一部始終を、興味深げに見つめていた生徒が一人いた。
「どうだい? 君の父親の力の一端を見た感想は… もっとも、君にはまだ早いか」
エアリスの声は、興味と期待が入り混じった、薄い笑みを含んでいた。




