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22話 属性アップ訓練(水母編)2

 エリアスが迫りくる深牙水獣(ディープ・ファング)を、手も触れず一撃で倒すさまを見た女生徒たちが黄色い声を上げる。

「きゃーー!! かっこいい!!」


 その声を聞いた男子生徒が、むっとした顔で呟く。

「俺だって……襲われないって分かってるなら、あれくらい!!」


 そう言ってエリアスの真似をしてみるが、結果は散々だった。

 魔力を込めるタイミングが少しでも早いと、水球が膨らむ前に深牙水獣(ディープ・ファング)が突っ込んできて弾かれてしまい、逆に遅いと魔力を込める前に衝突してしまい、水球の魔力が削られてしまう。


「なんでだよ……どうして弾けないんだよ!」

 男子生徒の苛立ちが声に滲む。


 ステラも同じように試してみたが、やはり簡単にはいかなかった。

 ほんのわずかなタイミングのずれが、結果を大きく左右する――その難しさを痛感する。


 明らかにエアリスの魔力制御は常軌を逸していた。 これはギフトなのか? と考えが行きついた時、視界の隅に淡い光が灯り、文字が浮かび上がる。


 ――《魔力操作 2/5》


 それは一瞬だけ表示され、すぐに霧のように消えた。


 何故か、魔力制御の方法が手に取る様に…いや魔力の流れが見えるように分かる…


 しかし

 ――《魔力視(メモリアルビジョン) ……エラー》 


 ステラが困惑する中、またエラーの文字が出てそれは失敗した。


 (僕のギフトは深淵拘束(アビス・バインド)だ、こんな能力は知らない…… 知らないはず……)


 しかしステラはしらないはずのその文字を見るとなぜか懐かしいような… そんな感情が沸き上がった。 ……疑問を持ちつつ、湖の中心に歩いてゆくと、前方に渦巻き、水上竜巻(ウォータースパウト)が発生していた。



 ステラは疑問を抱えたまま、ゆっくりと湖の中心へ歩を進めていった。 水球の内側は静かだが、外の湖はどこか感じが違う。 魔力の流れが、さっきまでとは違う。……そんな微かな違和感を感じた。


 足を一歩踏み出した瞬間、前方の水面が低く唸りを上げる。


「……え?」


 湖面が中心に引き込まれていき、渦が発生した。 渦はみるみるうちに大きくなり、中心から水柱が立ち上がった。


 水上竜巻(ウォータースパウト)……


 轟音とともに、細い水の柱が空へ向かって伸び、周囲の水を巻き上げながら回転し始め、水球の外側に叩きつけられる水飛沫(しぶき)が、ステラの視界を覆い隠した。


「な、なにこれ……!」


 生徒たちの悲鳴が後方から聞こえてくる。

 だが、渦の轟音にかき消され、言葉の形だけが空気を震わせて消えていった。


 ステラは思わず息を呑んだ。


 目の前で暴れ狂う水上竜巻ウォータースパウトの正体は、湖に溶け込んだ魔力の濃淡が中心に近づくにつれて、急激に変化し、魔力の“落差”が原因と思われる。


「うわー、流される!」

「きゃーー!!魔力のコントロールが……」


 悲鳴が交錯する中、甲高い破裂音が響いた。

 パリーーン!


 魔力制御に失敗した生徒の水球が弾け飛んだのだ。

 水球が消えた瞬間、守りを失った生徒へ向かって、巨大な影が跳ね上がった。深牙水獣(ディープ・ファング)が襲い掛かってきたのだ。


「食われる!」

 そう思った瞬間、生徒の腕輪が強く光り、魔力が一気に吸い取られた。

 魔力切れを起こした生徒はその場で意識を失ったが、腕輪が自動で防御魔法を展開し、水球に包まれたまま砂浜へと運び出された。


 もちろん、その生徒はリタイアとなった。

 だが、もし水中で深牙水獣に襲われていたら命はなかっただろう。 そう考えれば、リタイアで済んだのはむしろ幸運と言えた。


 生徒たちが次々とリタイアしていく中、ステラはある人物から目を離せずにいた。 ……エリアスだ。

 彼は、水上竜巻(ウォータースパウト)の領域に入っても、まるで平然としたまま、襲い掛かる深牙水獣(ディープ・ファング)を次々と弾き飛ばしていた。


「相変わらずエリアスは、すげえなぁ」

「うん、深牙水獣(ディープ・ファング)を弾くタイミングを完全に掴んでいるよね」


 周囲の生徒たちは感心したように彼を褒めているが、その言葉を聞いたステラは、むしろ息を呑んだ。

 (“相変わらず”……? そんな簡単なものじゃない)


 湖に溶け込んだ魔力は、水上竜巻(ウォータースパウト)に近づくほど急激に変化する。その不安定な魔力の流れの中で、正確なタイミングで深牙水獣(ディープ・ファング)を弾いているのだ。

 その難易度は普通の生徒どころか、熟練の魔術師でも難しいレベルだ。


 正直今の自分のレベルでは……いや、全生徒どころか講師を含めても、あのレベルの魔力コントロールが出来る人間は他に居ないだろう。

 (エリアスは何者なんだろう……)


 ステラがそんな思いを抱いていた、その矢先……


 エリアスが水上竜巻(ウォータースパウト)の領域を通り抜け、後は”中心まで進むだけ”という段階で……

「ボク、リタイアします」

 あっさりと、そう宣言した。


 その瞬間、ステラだけでなく、周囲の生徒たち全員が驚いた。


「本当にいいのかね?」

 講師が念のため確認する。 しかしエリアスはあっけらかんと答えた。


「はい、問題ありません」


 揺藍湖(アビス・レイク)のクリア最有力候補が、まさかのリタイア。 あまりにあっけないエリアスの言葉に、ステラは思考が追いつかず、ただ呆然と立ち尽くした。




 揺藍湖(アビス・レイク)の中心へ近づくにつれ、湖面の揺らぎが不自然に静まり返る。

 まるで巨大な何かが、湖底で息を潜めているかのようだ。


 ステラは足を止め、思わず息を呑む。


 湖の奥底で、ぼんやりとした光がうごめいていた。 最初は小さな灯りのようだったそれが、次第に輪郭を持ち始める。

 水面の下から、巨大な影がゆっくりと浮上してきた。

挿絵(By みてみん)

 半透明の膜が揺れ、内部に浮かぶ複数の魔力核が青白く明滅する。 光は鼓動のように強弱を繰り返し、そのたびに湖底が淡く照らされた。


「……大きい……」

 ステラがつぶやく。


 直径四十メートルはあろうかという巨大な水棲の魔物、その下から伸びる四十〜六十本の触手が、湖水をかき混ぜるようにうねり、水流が逆巻いて周囲の水球を揺らす。

 触手一本一本が生き物のように蠢き、まるで獲物を探すかのように空間をなぞっていた。


 内部の魔力核が一斉に強く光り、次の瞬間湖面が盛り上がり、巨大な水母が完全に浮上した。

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