18話 属性アップ訓練(炎帝編)1
「ここが俺様が"炎帝"の主になる訓練場か……」
ダリオが紅蓮場、通称"地獄の演習場に入ると、自信たっぷりに、そう言い放った。
足を踏み入れた瞬間、肌を焦がす熱気が全身を包む。地面の裂け目から紅蓮の炎が噴き上がり、空気そのものが揺らめいて見える。まるで大地が呼吸するかのような灼熱の試練場だった。
眼前に広がる光景は、まさに”地獄”という言葉そのものだった。
「えー、ここは火の属性強化を行う訓練場、通称”紅蓮場”です。 訓練場は常に地面から炎が噴き上がっていますので、気を抜くと大やけどをしますから、常に十分注意してください」」
「うわー、転んだら真っ黒こげだ」
訓練所を見た生徒が、素直に感じた感想を言う。
「私としたことが、これを皆さんに渡すのを忘れていましたね」
そう言って講師は赤の魔石が嵌った"ブレスレット"を1人ひとりに手渡していった。
「これは地面から噴出する炎から自動で身を守る火の魔術が発動する仕組みになってます。 いわば”炎版の安全結界”ですね」
講師の言葉に一部の生徒たちは疑問に思い尋ねた。
「どうして水じゃないんですか?」
「どうしてって、水なんか出たら高温の水蒸気になって火膨れになるじゃないですか。火なら空気の密度が低い方に流れるから魔力が高ければ問題ないです」
ダリオが講師の説明を聞いて、不敵な笑みを浮かべ「つまりこの訓練場より魔力が低い奴は淘汰されるという事か」とつぶやいた。
ルキアーノ、ミア、ベリッサも講師の言葉の裏を読み取ると、笑顔に隠されたドス黒い思惑に気をし引き締めた。
地獄の演習場に一歩足を踏み入れると、地面からの熱で周りは常に高温となっていた。
その場に留まるだけで体力がガンガン削られていく。だが演習場の熱は魔力によるものだ、それ以上の魔力を放出し続ければ、熱が発生する事はないため、演習場以上の魔力を放出し続ける必要がある。
この演習場はある人物のギフトによるものだという。 大層性格がひねくれた人物だと思った。油断していると地面から噴出する炎によって火傷を負う。 嫌なら過剰に魔力を放出し続ける事になる。
「なにそれ、面白そう!!」
ミアが演習場の仕組みを聞くとワクワクしだした。 厳格で彼女の後ろにブンブンと振っている尻尾が見える。
「訓練舐めてんじゃねぇ、遊び感覚なら今すぐ帰れ!」
ダリオがミアの言葉を聞いて、叱責した。
「ふぁ~~、かったるいなぁ。手っ取り早くリタイヤしちゃうかな…」
ルキアーノは相変わらず、やる気0の様だった。
「…訓練なんてかったるい事、やっていられるか!」
ダリオがルキアーノの言葉を聞いて、ひよった。
(来ましたわ――!属性別の強化訓練、名付けて”ルキアーノ様ラヴラヴ、親密になっちゃう?大作戦”の時が!!)
ベリッサが微塵も表情を変えず、しかし頭の中では18禁のピンクの妄想が大暴走していた。
演習場にダリルが躊躇なく入って行く。魔力を放出しなければ、入った瞬間に黒焦げになる。
「へへん、この訓練は必要最小限の魔力を見極めるのがコツと見た!」
ある男子生徒が意気込んで訓練場へ足を踏み入れた。 言うだけあって、彼の足元には地面からの熱をぎりぎり遮断するほどの魔力が纏われている。 彼の放出魔力のコントロールは見事だった。
その瞬間、地面の割れ目から火柱が噴き上がった。
「うわっちゃーー!!」
火柱は彼の放出魔力をあっさりと突き破り、彼の体は炎に包まれた。
ドサッ。
しかし、倒れた彼は命どころか火傷ひとつ負っていなかった。 その光景にダリオたちは驚いた。
「君たちの配ったブレスレットは、命が危なくなると咄嗟に魔力を吸いあげ、防御魔力を自動で展開する仕組みになっている。 まあ急に魔力を持っていかれるから昏倒しちゃうけど、死ぬよりはましでしょ」
講師はなんでもない事のように言った。
訓練場は先へ進むほど、地面から噴き上がる火柱の数も間隔も増していく。
だが、講師の説明を聞いたダリオは逆に闘志を燃え上がらせていた。
「死なねぇなら問題ねぇ。むしろ燃えてきたぜ」
ダリオは地面からの火柱をものともせず突き進む。 常に火柱が出ても問題ないほどの魔力を放出し続け、その勢いはまさに力押しそのものだった。
その姿を見たベリッサは、感心したように小さく頷く。
「なるほど……これは魔力量を効率よく使う訓練じゃなくて、魔力量そのものを増やす訓練…… なら、常に全力で挑むのが正解ね」
「よっ! とっ! はっ!!」
ミアは2人の考えのさらに斜め上を行っていた。 火柱が噴き出す“場所”と“タイミング”をあえて狙い、その瞬間をピンポイントで踏み抜いていく。
一見すると遊んでいるようにしか見えない、ダリオなら確実に怒鳴り散らすような行動だ。
だが、火柱の発生を見切る観察眼、瞬時に威力を測り、それを上回る魔力を放つ瞬発力。
そのどれを取っても、ミアの魔術的センスは現時点でダリオとベリッサを上回っていた。
「よっ……こっちかな? いや、あっちが……」
一方のルキアーノはミアとは真逆のアプローチだった。
地面から噴き上がる火柱を、まるで散歩でもしているかのようにゆったりと、しかし確実に避けていく。
その動きがあまりに滑らかで遅いせいで、逆に“余裕で避けている”ようにしか見えなかった。
その光景を見たベリッサは、思わずうっとりと見惚れていた。
「ルキアーノ様は、行動まで優雅ですわ……!」
ごおおおぉぉぉぉ!!
突如ベリッサの足元から轟音とともに火柱が噴き上がった。
「きゃぁああ!!ベリッサさんの足元から巨大な火柱が!!!」
誰もが、ベリッサのリタイアを覚悟した。 しかし、ベリッサの目にはルキアーノの姿しか見えていなかった。
ベリッサの目には、もはや危険な訓練場の光景など一切映っていなかった。 噴き上がる火柱は、彼女にとっては情熱的なイルミネーションにしか見えず、灼熱の地面すら、ルキアーノと歩く特別なデートロードに変換されていた。
「まあ……なんてロマンチックな演出でしょう…… ルキアーノ様となら、この炎の道も手をつないで歩けますわ……♡」
周囲が悲鳴を上げる中、ただ一人、ベリッサだけが命の危険すら“恋のスパイス”に変換していた。
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