17話 属性アップ訓練(風皇編)3
エミリアがゴーレム退治に夢中になっているのを確認すると、アンナはそっと立ち位置をずらし、エミリアとゴーレムが一直線に重なる角度へと移動した。
「風牢獄《ゲイル・プリズン》!」
「きゃあぁぁぁ!?」
アンナが発生させた風の壁をわざとずらし、エミリアの背中を押し出すように風圧をぶつける。
エミリアがぐらりと揺れ、塔の縁へと押し出された。
(エミリアさん、ごめんなさい!! でも落ちてもブレスレットがあるから大丈夫……よね)
しかし、文句を言いながらもエミリアは滑落を警戒して位置を変えた。
その様子を見たアンナは、むしろ焦りを深める。
(警戒されちゃった……。こうなったら、確実に仕留められる殺傷力の高い魔法でやるしかないわね)
自分の思考が物騒な方向へ転がっていることに、アンナはまったく気づいていなかった。
しかたなく、アンナは次のターゲットをマルコへと移した。
だが――今回はうまくいかない。
というのも風牢獄で押し出そうとしても、マルコは塔の端に近づかず、明らかにアンナを警戒している動きだった。
(見られてた……?)
「こうなったら、特大の風牢獄で逃げ場をなくして押し出す!」
「きゃー、手が滑っちゃったぁ!」
しかしマルコは、ゴーレムよりもアンナを警戒しているため、やはりうまくいかない。
「お、お前! 目的の趣旨が違っているぞ!」
「もー、避けるな! 落ちろ! 潰れろ!」
いつの間にかアンナは、風牢獄から爆風衝へと魔法を切り替え、マルコを押し潰そうとするという、もはやモグラ叩きのような状態になっていた。
ドスーン!
ドス--ン!
グシャ! ドスーーン!
「避けるんじゃないわよ!!」
「無茶を言うな! 避けないと死ぬだろ!」
気が付くと、ゴーレムは全てアンナが潰していた。
「もーーー、アンナさん、気を付けてください。訓練だからって乱暴すぎます」
「らっ、乱暴……!?」
「そうだな。粗雑すぎる……」
「がっ、ガサツ……!?」
アンナがショックを受けたが、講師はまったく問題視していなかった。
「本来はゴーレム戦の後、仲間同士の戦いで“周囲を常に警戒すること”を教える予定だったんだが……
アンナ・ミラージュはすでにその目的を理解しているようだね」
「もっ、もちろんです! でなければ同級生を危険な目に遭わせるなんて……!」
アンナは全力で講師の言葉に乗っかった。
だが、エミリアとマルコからは……
「いや、あれは本気でやりに来てたよな……」
という呆れた視線が注がれていることは、言うまでもない。
「まっいいか。元より、ここには魔力の強化に来てるんだ。 結果強化出来ていれば文句はない。」
「…そうですね、ミアの暴走と比べれば、アンナさんの暴走何て分かりやすい分、対応が簡単です」
二人の言葉を聞いて、アンナは目を伏せ、そして思い出したように口を開いた。
「ベリッサさんと約束したんです。ベリッサさんが”炎帝”の主を目指して、私は風属性の”鳳凰”の主となるって。だから……」
その顔には、さっきまでの苦しげな影はもうない。悩みが無くなり清々しい笑顔が浮かんでいた。
「ありがとう、二人とも。私の為に…」
そう言った次の瞬間、アンナはスパイラル・ランス(貫通螺旋槍)をぶっ放した。
「「どわぁ!!!!!!」」
轟音と共に風の槍が通り抜け、地面に深い溝を刻む。 マルコは尻もちをつき、エミリアは髪を風で乱されながら目を見開いた。
「なっ何を…」
マルコが状況を理解できずに叫ぶと、アンナは心の底から不思議そうに首をかしげた。
「え??」
「「え?? ……じゃない!!」」
アンナはぽかんとしたまま、まるで”わけが分からない”という顔をした。
「だって、二人とも私が”鳳凰”の主になるために塔から落ちてくれるんですよね」
その言葉に2人が反論する。
「俺はダリルさんと一緒に主になる」
マルコは心の中で叫んだ。(なんで俺が落ちる前提なんだよ!)
「私だって、アウレリアさんとミアちゃんと一緒にって」
エミリアも負けじと反論する。(そもそも落ちる必要なんてどこにもないはず)
だがアンナは、二人の言葉を聞いてもなお、心の底から不思議そうな顔をするだけだった。
そんな空気をぶったぎったのは、風の塔の講師だった。
「このまま生徒同士で戦いを続けてもいいけどねぇ。最後の試練の相手を確認してからのほうがいいと思うけど」
「「「最後の試練?」」」
マルコ、アンナ、エミリアの三人が講師の言葉に反応する。
塔全体が低く唸り、揺れ始めた。 螺旋状に塔を上っていた通路が、まるで生き物のように軋みながら塔から乖離し、それらが組み合わさっていく。
そして姿を現したのは、巨大な蛇型のゴーレム。
石の鱗が擦れ合う音を響かせながら体をくねらせ、次の瞬間、信じられない速度で突っ込んできた。
「蛇型のゴーレム、通称”スネーク”だよ」
講師が説明するが、そんなものを聞いている余裕はない。
「なっ! はやい!! ぐっ!!!」
マルコが吹っ飛ばされ、続いてエミリアとアンナもまとめて弾き飛ばされる。
「きゃああ!!」
「ぐっ!!」
”スネーク”は、鈍重な見た目に反して異常な速度を持っていた。 風の魔法で加速しているのか、三人は避けるだけで精一杯だった。
迫る巨体に、エミリアが咄嗟に爆風衝を放ち、”スネーク”の巨体を一瞬だけ押し返し、巨体がわずかに揺らいだ。
その隙にアンナが風牢獄を展開し、エミリアと”スネーク”の間に空気の壁を作った。
直撃は免れたが蛇型は通常のゴーレムとは違い、速さが桁違いだった。
「このままだと、全員やられるのは時間の問題だ」
マルコが歯を食いしばりながら言う。
「でもどうするの? あの速さだし、まず足を止めないと」
エミリアが焦りを隠せない声で続ける。
「……私に考えがある。 ……けど、それには二人の協力が必要」
アンナは短く息を吸い、二人へ作戦を手短に伝えた。
その内容を聞いたマルコとエミリアは、互いにうなずき、すぐに行動に移した。
「エミリアが魔力を目いっぱい込めて爆風衝で”スネーク”の足をなるべく止めて」
「分かった、やってみるね」
「マルコは風牢獄で逃げ場を無くして、私に突っ込んでくるルートを作って」
「そんで、お前はどうするんだ」
「私は、突っ込んできたところに螺旋槍をありったけぶちこむ」
「半端な威力だと魔力の無駄使いだぞ」
マルコが苦言を呈するが、アンナは迷いのない瞳で言い返す。
「大丈夫。……私を信じて」
その言葉に、マルコは舌打ちしながらも風を操り始めた。
「もう、限界だよーー」
エミリアが泣きごとを漏らす。
その声を合図に、マルコが風牢獄でアンナまでの風の通り道を作った。
同時に、エミリアの爆風衝が消え、解き放たれたスネークが猛スピードでアンナに迫る。
アンナは迫り来る巨体を真正面から見据え、極限まで魔力を練り上げた。
空気が震え、槍の形をした風の刃が何本も現れる。 それらが螺旋状に回転し始め、回転は次第に加速、甲高い音が鼓膜を叩いた。
キイイイィィィーー!!
一瞬、音が途切れ、何も聞こえなくなる。 そして――打ち出した後に、遅れて爆音が届いた。
ボシュ!!
それが螺旋槍の発射音なのか、あるいはスネークの体に巨大な穴が穿たれた音なのかは分からない。
一つ言えるのは、スネークがただの土の塊に戻った事だった。
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