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16話 属性アップ訓練(風皇編)2

 万一の事態が起きても命は助かる。 そう分かっていても、訓練はあくまで個々の実力勝負だった。


 塔を駆け上がる螺旋の道には、ところどころ不自然な穴が空いている。

「なんだ、この穴……?」


 マルコが不吉な予感に眉をひそめた瞬間、穴の奥から突風が炸裂し前からの風に抗っている状態で突然の下からの風に思わず体が平衡感覚が崩れよろめく。


「きゃあああああ!!」

「うおおおっ……ぎゃああ!!」


 突風にあおられ、女生徒のスカートが一斉にめくれ上がった。 悲鳴を上げながら必死で押さえる女生徒たち。 

 そして……その光景に気を取られた男子生徒たちは、足元をすくわれて塔からぐらりと落ちかけた。


「スカートがめくれた瞬間、意識が全部そっちに持っていかれる……この魅力に抗えるか? いや、抗えない!(反語)」

「そうだとも! これはもう本能なんだよ、本能!」

男子たちが熱く語り合っていると……


「……あー、お前ら。 熱く語ってるところ悪いんだけど」

 マルコが冷静な一言でその“熱い魂の叫び”をぶった切った。


 彼が指差した先には……


 こめかみに青筋をを浮かべ、引きつった笑顔のまま……、女生徒たちが、ゆっくりと男子生徒へ近づいてきた。 その姿に、男子生徒たちの顔が一瞬で青ざめる。


「……見たわよ、アンタら」

「風でめくれたのは仕方ないけど、ガン見は別問題よね?」

「落ちた? 知らないわよ。勝手に落ちただけでしょ?」

「むしろ落ちたくらいで許されると思ってるのが甘いのよ」


 一歩、また一歩と迫る女生徒たち。 男子生徒たちは一瞬で青ざめ、背筋を凍らせた。


「ま、待て! 俺たちはただ……」

「言い訳は聞いてないわ。覚悟、決めなさい?」


 塔の上から、男子の悲鳴と女生徒の怒号が響き渡った。


「なんて恐ろしいトラップだ」

 マルコがぼそりと感想を漏らした。


 その横で、アンナは顔を真っ赤にして両手で覆いながら、震える声で漏らした。

「み、みんなのスカートが……見ちゃいけないって分かってるのに、つい目が……。あ、でも……あのアーマースピナーのバックプリント、可愛いかも」


 エミリアはというと、静かにとんでもないことを言っていた。

「みんなスカートの中を見られたのに、どうして殴ったり蹴とばしたりしないのかしら。 ミアなら今ごろ、相手の記憶が吹っ飛ばして、私がミアの暴走を止められるのに…」



 訓練も折り返しに入り、すでに生徒の半数ほどが脱落していた。 もっとも、その内訳はというと、圧倒的に男子の脱落者が多い。

 体力そのものは男子のほうが勝っているはずなのに……原因は、どう考えても別のところにあった。


「ふぅ~、やっと休める……」

「もう無理! 魔力がすっからかんだ……!」

 

 生徒たちは折り返し地点の踊り場に、へたり込んだ。


「誰が休憩場と言ったかね?」

 講師が、にやりと笑みを湛えながら不吉な言葉を告げた瞬間……


 足元の大地が、低く唸るように震え始め、次第に土が盛り上がり、ひび割れが走る。 盛り上がった土塊が、まるで内側から押し広げられるように脈動する。 弾け飛んだ岩片が周囲に散り、土と岩が吸い寄せられるように集まっていく。

 やがて、それらは全身の輪郭を形づくり、ひとつの“巨人”としてまとまり、大地の震えが止んだとき……


 そこには、さっきまでただの地面だった場所から立ち上がった、無骨な石の巨人がいた。



「では――ここからは実戦形式だ」

講師が1つ手を打つと、足元の魔法陣が淡く光り始めた。


「安心したまえ。ここで出現するのは“今の君たちの魔力量に合わせて調整された”疑似魔物だ。 魔力反応を読み取り、自動で強さが調整されているゴーレムになっている」


 説明が終わるより早く、三人の前の地面が盛り上がり、石の巨体が立ち上がった。 その頭上には、魔力で形成された数字が浮かび上がる。


 マルコの目の前のゴーレムの頭上には……LV 67 。

 エミリアの前には……LV 62 。

 そしてアンナの前には……LV 71。


 その事実にアンナが大きな衝撃を受けた。


 マルコの魔力量が高いのは、なんとなく分かっていた。 彼のゴーレムが私より上位で出現したのは、想定の範囲内だった。


 だが…… エミリアのゴーレムが、自分どころかマルコよりも上のランクで出現した。

 その事実が、アンナの胸を鋭く刺した。


 日頃からふざけてばかりで、真面目に訓練しているようには見えないエミリア。

 一方、自分はベリッサ様のグループで、毎日欠かさず鍛錬を積んでいる。


 なのに――差はほぼ10。


 アンナの顔から血の気が引いた。 ”エミリアよりも自分が劣っている”という現実を、数字が容赦なく突きつけてくる。


「こんな鈍間、目を瞑ってても楽勝だ!風刃裂(ウィンド・レンド)

 空気を刃状にして飛ばす、マルコの風属性の初級魔法。


 プシュ!パシュ!

 だがゴーレムの分厚い土の体を、わずかに削っただけで終わる。


「これでも食らいなさい!爆風衝(ブラスト・インパクト)

 空気の塊を上から叩きつける、エミリアの風属性の中級魔法。


 ズウゥゥン!!

 しかしゴーレムの頑強な体にダメージはなく、鈍重なゴーレムには効果が薄かった。


風牢獄(ゲイル・プリズン)!」

  渦巻く風の壁で相手を閉じ込める、動きを一時的に封じる。

 アンナはその隙に横目でマルコとエミリアの様子を確認した。


 二人とも自分のゴーレム相手に手こずっている。他の生徒たちも同じで、周囲を見る余裕はなさそうだ。

 それを横目で見た瞬間、アンナの脳裏に“ある考え”がぬるりと浮かんだ。

 (……いまなら、風魔法が当たっても“事故”として誤魔化せるかもしれない)


 胸の奥で、どす黒い感情がゆっくりと顔を覗かせる。

 エミリアのゴーレムが自分より上位だったという屈辱。 日頃ふざけてばかりの彼女に負けたという現実が、アンナの思考をじわじわと侵食していく。


 (でも……もしバレたら……)

 理性がかすかに引き止めるが、その声はあまりにも弱く、どす黒い衝動の前では頼りなかった。


 アンナは唇を噛みしめた。


 ……自分はもう、ライバルを蹴落とすことを躊躇していない。


 気づかないうちに、心の奥底で“誰かを傷つけても構わない”という線を越えていた事に、ひやりと背筋が凍り付いた。

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