15話 属性アップ訓練(風皇編)1
十年前、教会が「四神の主に選ばれる可能性が高いのは、四神と同じ属性を持ち、なおかつ属性値の高い者だ」と発表した。
その影響は学園にも及び、四神の主候補を育てるための特別カリキュラム──属性訓練ブートキャンプ が組まれるようになった。
学園としては、四神の主が一人でも自校から誕生すれば、これ以上ない宣伝になる。
その思惑が透けて見えるほど、キャンプの内容は“過酷”という言葉で済ませていいのか迷うレベルで、容赦がない。
名目上は「新入生の属性理解と基礎強化」だが、実態は“将来の四神候補をふるいにかける選抜訓練”。
新入生たちは、入学早々このブートキャンプに放り込まれることになる。
寮の廊下では、マルコがレオに小言を続けていた。
というのも明日からの一週間、新入生を対象に、それぞれの属性を強化するため”属性訓練キャンプ”が行われるのだ。
「いいか、キャンプ中は生水を飲むな。ちゃんと煮沸するか、最低でも蒸留してからにしろ。それから――」
「あーーもうっ! お前は俺のオカンかよ!」
「お前は何事も大雑把だから、私がこうして注意してやっているんだ」
しかしレオにとっては、相棒の説教はもはや聞き慣れた言葉だ。 右から左へ、綺麗に流れていく。
「それと、この“属性訓練ブートキャンプ”は甘く見ていると痛い目を見るぞ」
「へいへい、分かった分かった」
「本当に分かっているのか? このキャンプは属性ごとに“火・水・風・土”で完全に班が分かれる。 レオが寝坊しても、朝起こしに行く俺はいないんだぞ」
「だからお前は俺のオカンかってーの!」
そのやり取りは寮の廊下に響き渡り、通りかかった生徒たちの耳にもばっちり届いていた。
「……え、あいつ、毎朝起こされてんの?」
「マジでオカンじゃん」
ひそひそ声が背中に突き刺さり、レオはみるみる顔を真っ赤にする。
「ち、違ぇし! ただの注意だし! おいマルコいい加減な事を言うな!」
「いい加減なのは貴様の私生活だ」
必死の弁解もむなしく、周囲の視線は完全に“世話焼かれ系男子”を見るそれだった。
中央ゲートを囲むように円環状に配置された“四属性訓練場”は、北東の高台にそびえる旋風の塔、火山帯外縁で火柱が噴き上がる紅蓮の熔獄演習場、魔力満ちる湖畔の深潮の揺籃湖、そして地下に広がる岩迷宮巨岩の試練坑から成る、四大属性を体感できる巨大訓練エリアだ。
マルコ・フェルニオは訓練メンバーと共に、旋風の塔 の入り口に立っていた。
見上げた瞬間、誰もが息をのむ。 塔は地面から空へと突き刺さるようにそびえ立ち、その上層部は途中にかかった雲に完全に飲み込まれていた。
どれほどの高さなのか、下からでは想像すらできない。 まさに“圧巻”という言葉がふさわしい光景だった。
「えー、ここは風の属性強化を行う訓練場、通称”旋風の塔”です。 塔の周囲は常に強風が吹いていますので、気を抜くと下に落ちますから、登る際は十分注意してください」」
「先生、万一落ちたらそこでリタイアですか?」
最も気になる点を、一人の男子が恐る恐る尋ねた。。
「あ、そうでした。 私としたことが、これを皆さんに渡すのを忘れていましたね」
そう言って講師は緑の魔石が嵌った"ブレスレット"を1人ひとりに手渡していった。
「これは滑落した時に地面が近づくと自動で浮遊の魔術が発動する仕組みになってます。 いわば”命綱”ですね」
講師の言葉に生徒たちはみんな安心しきった顔を浮かべた。
だがマルコがふと講師の顔を見た瞬間、ぞくりと背筋を冷たいものが走った。 笑顔の裏にドス黒い何かを見た気がしたのだ。
それに気づいたのはマルコだけではなかった。アンナもエミリアも講師のただならぬ雰囲気に気が付いていた。
風属性強化のためのブートキャンプが始まった。
旋風の塔 を登るには、周囲を吹き荒れる風に抗い続けなければならない。
つまり頂上に到達するまで、絶えず風の魔力を放出し続ける必要がある。
さらに、この吹き荒れる風そのものが、塔を造った人物のギフトによるものだという。 耐えれば耐えるほど風属性の魔力が強化される、実にえげつない仕組みだ。
「つまり頑張れば頑張るほどきつい訓練なわけね。いやらしい仕組みねー」
エミリアが塔の仕組みを聞くと感想を漏らした。
(いやらしい……いやらしいって……そんな、まだ心の準備が……)
アンナは盛大に誤解して、ひとりで顔を赤くする。
「ふん、なるほどな、つまり最後まで耐え抜けば、そいつは一番のご褒美(魔力の属性強化)が貰えるってわけだ」
(耐えたらご褒美……って、マルコったら……もしかしてドが付くほどのMなの……?)
アンナの誤解はさらに加速した。
講師が淡々と付け加える。
「塔の敵はなにも風だけじゃないぞ。ゆめゆめ肝に銘じておくことだ」
そして、訓練が始まった。
「はぁ……はぁ……も、もう駄目だ……!」
生徒の一人がついに魔力切れを起こした。 その瞬間、彼を叩きつけていた風が異様に膨れ上がった。
ごうっ――!
次の瞬間、足元から突き上げるような風が彼の身体を持ち上げ、まるで風に意思があるように、塔の外へぽいっと放り投げられた。
いや、この風そのものがギフトであることを考えれば、”落ちた者を排除する”という動きを見せても不思議ではなかった。
塔の外へ放り出された生徒は、悲鳴を上げる暇もなく急降下していく。 風が肌を切り裂くように叩きつけ、景色が一瞬で遠ざかっていく。
「う、うわああああああああああ――!」
落下した生徒の目に地面が迫る。 「あっ、死んだ…」そう思った瞬間、ぱん、と緑色の光が弾けた。
生徒の腕に装着された浮遊魔術ブレスレットが反応し、彼の身体をふわりと包み込むように減速させる。
落下の勢いは殺され、生徒はまるで羽毛のようにゆっくりと地面へ降りた。
「……た、助かった……」
地面に着いた彼は、膝から崩れ落ちるように座り込み、胸を押さえながら荒い息を吐いた。
顔は真っ青で、全身が震えている。
(よ、よかった……でも……落ちる瞬間のあの声……怖すぎる……)
アンナは胸を押さえ、震えを隠すように唇を噛んだ。
「ふむ、ブレスレットは正常に作動したようだな」
マルコが冷静に分析する。
「……今の、見た?」
エミリアが眉をひそめる
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