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24、不思議な夢

 ベッドですやすやと眠る結は、不思議な夢を見ていた。


 まるで台風が直撃しているかのようにぐわんぐわんと揺れる電車の中で、結は振り落とされまいと必死で京人にしがみついていた。


「京人君、危ないからもう降りよう?」


 あまりの揺れに、結は恐怖を覚えて京人を説得するが、当の京人はどこ吹く風だった。


「この位なら、全然大丈夫だよ。」


「でも、すごい揺れだよ。」


「もしかして、結ちゃん怖いの?」


「うん……そうかも。」


「はは、そっか。」


 結は怖くて堪らないのに、なぜか京人は怖がる結を見て嬉しそうに笑っている。


「それなら、僕がお姫様抱っこしてあげるね。」


「え?! いや、そういうことじゃなくて……」


 否定も虚しく、結は京人にあっさりと抱え上げられた。


「危ないよ。両手が塞がっちゃうし!」


「……結ちゃんは、僕が嫌い?」


 京人のためを思って言ったことが別の意味にとられたのか、悲しそうな顔をした京人にそう訊ねられて、結は胸が痛んだ。


「そんなことない! ありえないよ。」


「僕は結ちゃんが一番好きだけど、結ちゃんはそうじゃない?」


「っ……! 私も……私も、京人君が一番大好き!」


 京人に誤解されたくなくて、つい叫んでしまった結は、すぐに恥ずかしくなって俯いた。


「はは、そっか! よかったー。」


 心の底から嬉しそうに笑う京人を見て、結は誤解が解けたようで安心したが、京人は予想もしない行動に出た。


「それなら、いいよね。」


 許可は得たとばかりに、京人は結を優しくベッドに下ろし、結は押し倒される形になった。


(なんでこんな所にベッドが?! ……あれ?)


 電車に乗っていたはずの結は、気付けば見知らぬ寝室に移動していた。


「ここはどこ……?」


「結ちゃん、何言ってるの? ここは僕達の家だよ。」


「僕達の……?」


 結が疑問に思うと、答えを示すかのように京人が恭しく結の左手を取り、薬指にそっと口付けた。


(えっ……!?)


 すると、結の左手の薬指には、きらきらと指輪が光っていた。


(あれ? 私、京人君と結婚したんだっけ……?)


「ほら、結ちゃんおいで。」


 京人は自分もベッドに横たわると両手を広げ、結に近づくよう促した。


「……うん。」


 確かにそんな気がしてきた結は、言われた通り京人に近づいた。


 まるでいつもこうしているかのように、京人は結を腕の中に閉じ込め、ぎゅっと抱きしめた。


(そっか……私達、結婚してたのか。)


 結はなんだか安心して、京人の背中に手を回した。


 京人は細身に見えるが、身体は意外にがっしりとしていて厚みがあり、抱きしめられると守られているような安心感があった。


(なんか……幸せだなあ。)


 結は無意識に微笑んでいたようで、それに気付いた京人も嬉しそうに微笑んだ。


「結ちゃん、もしかして明日の買い物のこと考えてた?」


「えっ……何だっけ?」


 頑張って思い出そうとするものの、頭に靄がかかったように何も思い出せず、結は申し訳なく思った。


「ほら、オセロだよ。」


「オセロ!?」


(どうしよう……本当に全く、思い出せない。)


「えっ、忘れちゃった? 結ちゃん言ってたでしょ。週末は2人とも仕事休みだし、ゆっくり過ごしたいって。それで、何をするか相談して、オセロになったよね?」


(なんで、オセロに……?)


 社会人とは無縁すぎる懐かしいワードが出てきて驚いたが、よくよく考えてみれば確かにそんな話をしたような気がしてきた。


 京人と遊ぶなら、確かにオセロも楽しそうだと思い、結は微笑ましく思った。


「ふふ、楽しそう。」


「よかった。オセロなら結ちゃんを膝に乗せたままでも一緒に遊びやすいもんね。」


「え……?」


「ほら、カード系のゲームだと、いつもみたいに結ちゃんを膝に乗せてたら、お互いに手札が見えちゃうでしょ?」


「いつもみたいに?!」


 自分たちは本当に、いつもそんなことをしていただろうかと結は恥ずかしく思ったが、言われてみれば、いつも京人の膝に乗っていたような気がしてきた。


「そっか……そうだったかも。」


(京人君くっつくの好きだし、結構甘えん坊だもんね。)


 その時、結はふと違和感を覚えた。


(……あれ? どうして甘えん坊だと思ったんだっけ。)


 つい最近、何かそう思うきっかけがあったような気がするが、何も思い出せない。


 なんとか記憶の糸を手繰り寄せようとする結を他所に、京人は頭の中で翌日の計画を立てているようだった。


「明日、楽しみだね。お昼ごはんはどこで食べようか? 久々にビュッフェもいいかもね。結ちゃんは何か食べたいものある?」


「私は……和食がいいかな。ぶりの照り焼きとか、豚汁とか。」


(……あれ? でも、最近どこかで食べなかったっけ。)


「いいね! じゃあ、明日は和食のレストランで食事しようか。」


「え……でも、京人君はレストランは駄目なんじゃなかったっけ……?」


「駄目? どうして?」


「だって……あれ? どうしてだっけ?」


 なぜだか京人とレストランに行ってはいけないような気がして結は焦ったが、どうしても理由を思い出せない。


「もしかして結ちゃん、明日は家でご飯食べたいの?」


「いや、私はどっちでもいいんだけど、京人君が……」


 結は必死で説得を試みるが、肝心の理由を思い出せない。


「僕はどっちでも大丈夫だよ。せっかくの週末だし、結ちゃんと一緒ならどこでもいいからね。」


(せっかくの週末……?)


 京人と話せば話すほど、違和感が増すばかりで、結は焦りが募った。


「京人君は週末も忙しいんじゃなかったっけ……? 何か用事があったような……」


「え、僕の用事? 何だろう。仕事じゃないし……」


「あれ? 京人君の仕事って……?」


 結婚しているはずなのに、不思議と京人の仕事のことを全く思い出せず、結は正直に尋ねた。


(でも、何かとても大事なことだった気がする。)


「爽やかな公務員だよ。」


「爽やかな……!?」


(普通、自分で言う?!)


 京人の言葉や職業に、結はどうしても違和感が拭えなかった。京人は果たしてそんな仕事をしていただろうか、と疑問には思うものの、どうしても正解が分からない。


(なんか、違う……。確かに京人君なのに、京人君じゃないみたいな……)


「そんなことより結ちゃん、そろそろ寝ないと、明日オセロ買いに行けなくなっちゃうよ。」


「うん……そうなんだけど……。」


 やはりどうしても違和感が拭えず、腑に落ちない。


「そもそも京人君って、オセロ好きだっけ……?」


「違うよ、結ちゃん。僕が好きなのはオセロじゃなくて、結ちゃんと2人でくっついていることだよ。」


「そっか……」


 京人のあまりにストレートな発言に、結は恥ずかしくなり、京人の胸に顔を埋めた。


「結ちゃん恥ずかしくなっちゃった? はは、可愛いね。」


「っ! ……おやすみ。」


 結は自分ばかりが翻弄されているような気がして悔しくなり、早々に眠ることにした。


「……おやすみ、結ちゃん。」


 京人はそんな結の態度すら可愛くて堪らないという様子で、結の前髪を横に流すと、額にそっと口付けた。


 その仕草があまりにも優しくて、結は何故か泣きたくなった。


 この夢は、実はほとんど京人の願望です。

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