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14、答えが分かっている問題


 結は帰宅すると慌ててリビングを片付け、木製の4人がけダイニングテーブルに2人分のお茶とお菓子を用意した。


 結の両親は共働きでまだ帰宅していないため、結は今家にひとりきりだった。


 父はいつも夜中遅くに帰宅し、母も帰宅するまでまだ1時間位は時間がある。


 京人が家に来たら二人きりだと思うと、結は緊張でどうにかなりそうだが、母がいるよりは話しやすい気がした。


 京人とどんなことを話そうかとあれこれ考えているうちに、インターホンが鳴った。


 念の為、インターホンのモニターに京人が映っているのを確認してから、結は慌てて玄関に向かった。


 結が玄関のドアを開けると、京人が結に手を振り、微笑んだ。京人はマスクをしていたが、それでも目元の様子で表情は分かる。


 京人は帽子を外してきたようで、服装も先程とは違うTシャツに身を包んだラフな姿だった。


(わざわざ着替えてきたのかな?)


 結は不思議に思いつつ、「どうぞ」と入室を促し、来客用のスリッパを勧めた。


 京人は「お邪魔します」と言って家に入り、結が玄関のドアを閉めるのを確認してから、マスクを外し、ズボンのポケットに仕舞った。


 そして家に上がろうとして、ふと何かに気付いた様子で急に立ち止まった。


「結ちゃん、もしかして今家にひとり?」


「? そうだよ。」


「ごめん、これは僕が迂闊だった。」


 京人は申し訳なさそうな顔をした。


「お母さんには、僕が来ること連絡した?」


「うん、さっき一応LIMEしておいたよ。」


 帰宅していきなり家に京人がいたら、母が腰を抜かしかねないと思って、結は京人が来る旨を事前に連絡していた。


「そっか……良かった。」


 京人はホッとした様子で胸をなで下ろし、急に真面目な顔をした。


「いい? 結ちゃん。家にひとりの時に、僕以外の男を家に入れたらダメ、絶対! オーケー?」


「? うん、分かった。」


 京人でなければ当然家には入れていないが、京人の勢いに押されて、ひとまず結は頷いた。


「一翔もダメ、絶対! オーケー?」


(呼び捨て!?)


 何故ここで一翔が登場するのか、結にはさっぱり分からなかったが、ここでも京人の勢いに押されて、とりあえず結は頷いた。


「? うん、分かった。」


「結ちゃん。男は、結ちゃんが考える何万倍もろくでもないことしか考えてないから。絶対信用しないで。ろくでもないから!」


(2回言った……!)


「そうなの……?」


「そうなの! 事実だから。」


 それでは、京人もろくでもないことばかり考えていることになるのでは? と思った結だが、京人があまりに必死なので、そこは突っ込まなかった。


「ふふっ……分かった。」


「もう、結ちゃん……。笑うところじゃないんだって。」


 京人はいまいち納得がいかない様子だったが、ひとまず靴を脱いで家に入った。


 京人は洗面所で手を洗うと、リビングに入った。背が高い京人がいると、部屋が途端に狭くなったように感じた。


「あ、そうだ。これ良かったら食べて。」


 京人は紙袋を結に差し出した。中身を見ると、お菓子のようだった。


「ありがとう。……どうぞ、座って。」


 結がそう声をかけると、京人は「ありがとう」と言って、ダイニングルームの椅子に腰掛けた。


 結も京人にもらった紙袋を机に置き、京人の向かい側の席に座ると、事前に用意しておいたお茶とお菓子を勧めた。


「ありがとう、わざわざ用意してくれたんだね。急に来てごめんね。」


「ううん、久しぶりに会えて嬉しかったから、来てくれてよかった。」


「……そっか、ありがとう。僕も、嬉しかった。」


 京人は穏やかに微笑むと、ズボンのポケットから自分のスマートフォンを取り出した。


「それじゃあ忘れないうちに、LIME交換しよっか。やりかた分かる?」


「ごめんね、分からないかも……」


「大丈夫だよ。ちょっと見せてもらってもいい?」


「うん。」


 結が頷くと、京人はサッと席を立ち、結の左隣の椅子に座った。


(え!? 近っ!)


 結は京人に自分のスマートフォンを渡そうと思ったのだが、京人は隣から直接操作方法を教えてくれるつもりらしい。


「まずアプリを開いて……」


「うん。アプリを開いて……」


 不慣れな操作についていくのに必死な結は、オウムのように京人の言葉を復唱した。


 京人はそんな結を微笑ましく思い、つい吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。


 必死な結の邪魔をしないように、どうしてもにやついてしまう自分の口元を、何かを考え込むふりをして左手で隠した。


「開いたらトーク画面になるから……」


「うん。開いたらトーク画面になるから……」


「あれ? ちょっと待って!」


 京人がいきなり焦ったような声を出したので、何かまずい操作をしてしまったのかと、結は焦った。


「何?! 私、間違えちゃった?」


「あ、いや……ごめん。トーク画面が見えちゃったんだけど、もしかして結ちゃん、連絡先お母さんしか登録してない?」


「ううん、お父さんも登録してるよ。メッセージ送ったことないけど。」


「くっ…! あ、いやごめん! 笑ったらお父さんに申し訳ないね。」


「え、なにか変だった?!」


 どうして京人が笑ったのか分からず、結は頭の中が疑問でいっぱいだった。


「いや、ごめん。トークがお母さんしかなくてビックリして。友達とか登録してないの?」


「? うん。まだ買ってもらったばかりだから、お父さんとお母さんしか登録してないんだ。」


「一翔も?」


「? うん。」


 なんでまた一翔君? と結は不思議に思ったが、京人は心底安心したように笑った。


「そっかー。よかった!」


「一翔君、いい子だよ?」


 何故かは分からないが、一翔を警戒している様子の京人に、一翔は決して悪い子ではないと知ってほしくて結は一翔を擁護した。


「『いまは』ね。いつまで『いい子』でいられるかは、誰にも分からないからね……。」


 京人は微笑んでいるが、目が笑っていなかった。


 それでは、まるで一翔がこれから悪い子になるような口ぶりではないかと結は思ったが、京人があまりに真剣なので、口にしなかった。


「それにしても、家族以外で初めて登録してもらえるなんて、光栄だなあ。」


 嬉しそうな京人にそう言われて、結は少しだけ恥ずかしくなった。そんな結を見て、京人はなぜか満足気な顔をしている。


「それじゃあ、続きをやろうか。」


「うん。」


 それから程なくして、二人は無事、お互いの連絡先を交換することに成功した。


 京人は元々座っていた結の向かい側の席に戻り、二人はお茶を飲んで一服した。


「はい、それではここで、結ちゃんに問題です。」


(!? ……なんか始まった!)


 突然、謎の問題が始まって結は動揺し、京人の顔を見ると、予想に反して京人はひどく真剣な顔をしていた。


(え……何?)


「結ちゃんは恋愛禁止のアイドルです。……だけど、好きな子ができてしまいました。結ちゃんならどうしますか?」


(何、この問題……)


 結はなんと言うべきか分からずに京人を見つめたが、京人は依然として真剣な顔で結の答えを待っている。


 はぐらかしてはいけない空気を感じた結は、真剣に答えを考えた。


「もし、私だったら……」


「うん。」


 京人はその先の答えを促すように相槌を打った。その表情は、結にはなぜか少しだけ悲しそうに見えた。


 まるで、結の答えがもう分かっているかのようにーー。





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