かいほう6
「――レインさん、メチャクチャ強いんだから、自分の兄ちゃんに連れて行ってもらえ。オレたち、家族でのんびり旅してるし、オレたちも自分たちを守るので精一杯なんだよ……」
ヒナタとのやり取りを見て、ラズリアには争いごとは無理そうだと、魔獣と遭遇しても闘えないと、フウタはそう判断した。足手纏いだと付け加えたかったが、さすがに言い過ぎになるかと口を噤んだ。
ミヒメを守るのだって大変だというのに、ミヒメですら戦闘に参加しているというのに、足手纏いになるだけだと、ヒナタも心の中で大きく肯いていた。
「あんたさ、闘えるのか? 殺気を向けられても怯えるだけだし……興味のある事には恐怖すらも吹き飛ぶみたいだけど、簡単に拘束されちまうし、咄嗟に動けないんじゃあ、連れてくのは無理だ」
「あたしは……あたしは……た……」
ラズリアも分かっているのだろう。嘘でも否定もできず、肯定もできずに、その先に続く言葉を出そうとしては飲み込んでしまい、最後には口を閉ざしてしまった。
泣いてしまえば弱いだけだと、闘う力はないのだと肯定してしまう、それだけは嫌だと唇を噛んで涙を流すまいと必死で堪えていた。
「近くの村までは連れて行ってやるから、そこでレインさんが来るのを待ったらいいんじゃないか?」
フウタは優しく諭すようにラズリアに語りかけながら、ヒナタの方に目だけを向けると、ヒナタも同意だとしっかりと頷き返した。
「い、嫌! 嫌よ!! 連れてってよ、お願いだから!! あたし、何でもするから、お願い……連れてって……うわ~~~~ん」
ラズリアは地面に顔を付けて懇願する。最後には堪えきれずに涙も決壊した。嫌だ嫌だとワンワン泣き続ける。泣いていることがばれていても、泣いてはいないと必死に隠そうと地面に顔を押し付けてイヤイヤしていた。
フウタはヒナタと顔を見合わせて、お手上げだと合図を送るも、ヒナタも困った顔をするだけで、首を横に振るだけだった。
慰めることはしない。勘違いさせるわけにはいかない。連れていくとは絶対に言えないのだから。
泣き止むのを、旅には同行できないのだと本人が受け入れるのを待つだけだった。
ひとしきり泣いて冷静になればと思っていたが、土塗れでフウタを見上げるラズリアの顔は、般若のように恐ろしかった。
「連れてってくれないなら、あんたたちが『まおう』と『まおうのペット』だと言いふらしてやる。あたしを置いていったこと、後悔させてやるんだからね! あたしだって戦える。錬金を嘗めるな~!!」
ラズリアの瑠璃の瞳は怪しく光った。
「何っ!?」
「うわっ!?」
「わん!?」
細い針のようなモノが、ミヒメ以外の首元の太い血管を狙うように浮いていた。その針の色は、それぞれが持つ髪や毛と同じだった。針のように伸びた毛が凶器と化し、持ち主に攻撃しようとしていた。
「動いたら――刺す。ねぇ、妹ちゃん、お兄ちゃんたちを助けたいよね? 助ける代わりに、ラズリアお姉ちゃんを一緒に連れてってあげてって、お兄ちゃんに言ってくれない?」
ラズリアは、ミヒメのすぐ傍にいるフウタの首元の銀の針をこれ見よがしにユラユラと揺らして、ミヒメを脅す。
「ふうちゃ……」
「大丈夫だ」
言葉では気丈を装ってはいても、フウタの背中はびっしょりと汗をかいていた。その様子を間近で見ているミヒメには、フウタの言葉を信じることはできなかった。
「あの女……外道すぎる。こんなことになるなら……」
ヒナタは金の針が自らを攻撃しようとしている中、フウタと同じく背中に冷汗をかきながらも、ラズリアを睨みながら、歯ぎしりをしながらぶつぶつと呟いている。大事な弟妹が危機に晒されているというのに、手も足も出ない己の不甲斐なさを痛感し、自分にもラズリアにも腹を立てていた。
「ヴー、ヴー」
白い針に首の急所をを狙われているくぅちゃんは小さく唸り声を上げながら、ラズリアの隙を狙っていた。
どらちゃんは目から涙を零していた。葉っぱと身の間が急所なのか、そこに緑の針を向けられている。
生体に反応しているのか、巣箱の中にいるモモちゃんにも、出入り口の辺りを黄と黒が混じった針がジリジリと小さな音を立てながら、狙いを定めていた。
「お兄ちゃんたち、助けないの? このままだと、みんな怪我しちゃうよ?」
ラズリアは右の口角を上げて、ニタっと笑う。
ミヒメは顔を俯かせ、フウタの腰を掴みながら震えていた。
恐怖に震えていたのもあるが、それだけではなく、怒りからも震えていた。
大切な家族を傷つけようとするラズリアに強烈な怒りを感じていた。手足の末端に流れる血や気のエネルギーが細胞を包む水を通して、お腹から胸、胸から頭へと昇っていく。
どうしたら家族を助けられるのか、ミヒメは必死に考えていた。そして、答えは見つかった。
「ゆるさない」
ミヒメは顔を上げて、ラズリアを睨んだ。
「なっ!?」
その瞳はおどろおどろしいほどの柘榴だった。
「家族はミミが守る――ペット!!」
その声は、凍えるほどに冷たかった。
「うぐっ!?」
ペットの従属魔法は強力だったのだろう。胸の苦しみに耐えられずに、ラズリアの顔は再び地面とお見合いした。
上空から真っすぐに降りてきた虹の柱は、ラズリアの胸の辺りを突き刺し、消えていった。
地面から覗くラズリアの横顔は、苦しそうであったが、満足そうに笑ってもいた。
こうしてラズリアは、愛でたく? ミヒメに『ペット』された。




