かいほう4
「ダンジョンコアを……創る?」
「ええ、そう」
一度目を閉じて、再び目を開けた朱色の瞳は、ただただ悲しそうだった。
「今のダンジョンにあるダンジョンコアは全て――聖女の心臓なの。ビックリでしょ?」
おどけたように話す椿の聖女の声音は、ちっとも面白そうではなかった。笑顔も歪だった。
衝撃すぎて応えられないことも承知だったようで、事実をありのままに語り聞かせようとするかのように椿の聖女は話を続けていく。
「瘴気を溜め込んだ聖剣で聖女の心臓を貫くと、ダンジョンコアになるの。瘴気を溜め込む聖剣を聖剣だと言うのもおかしいけど、『錬金』と『鍛冶』のダブルスキル持ちが創った最高傑作の剣なのですって。始まりの魔王と呼ばれた聖女の心臓もダンジョンコアでもあるけど、あの聖女は、自分の心臓に瘴気を取り込んで浄化する聖女だったみたいでね、心臓も限界を超えて暴走した結果、聖剣で貫かれた――けれども、聖剣でも浄化できずに、逆に取り込まれてしまい、最後は聖女の心臓と聖剣が融合した。その結果、ダンジョンコアになった」
椿の聖女が話せば話すほどに、理解の範疇を超えていく。これ以上、聴きたくないと思いながらも、続きを聴きたくてたまらないという二つの感情がラズリアの心を支配していく。
「わたくしはね、何人もの聖女がダンジョンコアになっていくのを見てきたわ。何度も聖女の心臓を貫いてきた聖剣も今は限界を迎えてきていて、それで新しい聖剣を創れと、大神官長が命令してくるのよ。鍛冶は専門外だから、創れるはずもないのにね。本気を出せば創れるかもしれないけど、錬金術師として創ってみたい気持ちもないわけでもないけど、そんな気力は沸かないわ」
椿の聖女の朱色が、ラズリアに問うてくる。「創りたい?」と。
創りたいと思う。けれども、創りたくないとも思う。返事に困るラズリアを見ても、咎めることはなかった。
特に答えを求めていなかったのか、返答を促すこともなく、話は更に続いていく。
「現状、ダンジョンコアは必要だと思っているの。ダンジョンは貴重な資源の宝庫ですもの。だから、聖女の心臓ではない、ダンジョンコアを創りたいと思っているの。おかしいかしら?」
ラズリアは必死で何度も首を横に振った。声が出ない代わりに、椿の聖女の聖女の心臓を必要としないダンジョンコア創りを肯定しているのだと、自分も一緒に創りたいのだと、そう伝えたかった。
けれども、それは叶わなかった。
ラズリアが錬金スキルの後釜になったことで、ラズリアが優秀すぎたがために、そして、二人が出会うのが遅すぎたために、椿の聖女が目指すダンジョンコアを創ることは叶わなかった。
この時既に、椿の聖女の心臓は瘴気を取り込み過ぎていた。自らを実験台にしたことをラズリアは知った。
半月後――ラズリアの目の前で、椿の聖女の心臓は大神官長が持つ聖剣で貫かれた。
「お前の錬金術で、聖剣を創るのだ」
粉々になった聖剣だったものを残して、ラズリアに告げると、椿の聖女の心臓だったダンジョンコアを持って大神官長は去っていった。
あれからラズリアは、聖剣だったものを全て持ち帰り、調べた。あの聖剣は、まだ数回の余裕はあったにもかかわらず、それが使い物にならなくなったということは、椿の聖女が細工したのだろう。
聖剣を創るふりをして、作ったとしても、瘴気を満たす前に崩れてしまう聖剣ばかりを作り、大神官長たちを欺きながら、椿の聖女が残していった資料を基に、ダンジョンコアの研究に没頭していった。
何度実験しても、瘴気を取り込まなければならないことが判ったが、絶対に瘴気を自らに取り込まないと椿の聖女と約束したから、というのもあるが、聖女の心臓を必要としないダンジョンコアを創るためにも、瘴気を心臓に貯めること自体、本末転倒なのだから。
2年の月日が経った頃、ラズリアがまだダンジョンコアの真実を知る前に、椿の聖女が呟いていたことを不意に思いだした。
『あの場所を調べれば、解決の糸口が見つかるのではないかしら?』
あの場所というのは、恐らく――『始まりの地』だろうと。
其処にあるダンジョンコアを調べれば、聖女の心臓を必要としないダンジョンコアを創るヒントがあるはずだと閃いた。
善は急げと、幸運にも、椿の聖女だったダンジョンコアを持ち出すことに成功した。置いていくことはできなかった。封印するガラス箱がラズリアの作ったものだったから、見つけるのは容易かった。
盗むところを琥珀の神官長に目撃されたが、見なかったことにされた。
「実は、大神官長も知らない、隠し通路があるんだよね~。あっ、開けちゃった」
というよりは、逃げる手助けをしてくれた。
「これは独り言なんだけど、この道を通ると、行きたい場所に辿り着くと言われているんだよね。何処に出るからは、お楽しみ? 迷ってはいけないよ。行き止まりになってしまうからね。外に出るとしっかりと決めるんだよ。此処は始まりの聖女のダンジョンの一部のようなものだからね、聖女が導いてくれるよ、きっとね――さあ、お行き。『椿の』を解放してあげておくれ」
「はい、必ず――行ってきます」
そうして辿り着いた先は、スズナリダンジョンの近くだった。
椿の聖女のダンジョンコアが入った錬金鞄がブルブルと震えていた。
スズナリダンジョンが騒がしいような気がして、他の神官たちと鉢合わせしそうな気もして、慌ててその場所を離れた。
辺りを見回すと、少し離れた所に未開拓の森が見えた。
草木が生い茂った迷路のような森の中へ入り、湖に辿り着いた。




