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この度、妹にペットされまして……双子の兄弟は先輩の大根と妹を愛育しながら旅をする!  作者: 三田黒兎素
第7章 かいほう

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かいほう1

 黒熊の魔獣を倒し回収した後、魔力回復薬で魔力もある程度回復したのを確認し、ヒナタが奥に繋がる部屋の扉を開けた。


「特に、危険はなさそう」


 ヒナタは顔だけを部屋の中に入れて覗き込んだ。

 魔獣の気配はなかった。罠の類もあるようには見えなかった。

 真っ白い空間の中央に、ガラス箱で封印されたダンジョンコアがあった。

 ただそのガラス箱は、祝福の時に見たよりも大きく、ヒナタが足を抱えて座るとすっぽりと入りそうだった。ガラス自体も頑丈なのか、ダンジョンコアの禍々しさもほとんど感じられなかった。


「でも、ちょっと待って――誰かいる」


 早く部屋の中に入りたいとヒナタを背後から押し入ってこようとするフウタとミヒメを、ヒナタは身体強化させて制止した。


「人、か?」


 隙間から顔だけを覗かせて、フウタも部屋の中を見回し、ダンジョンコアのある場所を確認していた。

 ダンジョンコアを封印しているガラス箱のすぐ傍に、灰白色の塊が見えた。その塊はローブのようで、元は茶色だったのだろう、所々に茶色が見えるものの、被った泥が乾燥して、灰白色に見せていた。

 ローブからはみ出ている二つの手がガラス箱を守るように抱えているのが見えた。

 灰白色の塊は僅かの動きも見えなかったが、警戒しながら、ヒナタは部屋の中へと入っていった。そのすぐ後ろから、どらちゃんを肩に乗せたミヒメと手をつなぐフウタが続いた。くぅちゃんが最後に入ってくると、扉が勝手に閉まった。


「若い女性というか、少女? ただ――息はしていないみたい」


 ダンジョンコアを封印しているガラス箱に寄りかかりながら、両手で抱え込んでいるフードから覗く顔は、あどけない。年の頃は、自分たちと同じくらいだろうとヒナタは推測した。


「その割には、顔色は悪くないな。なんか人形っぽい感じ?」


 頬の赤みはないが、蒼白すぎるというわけでもなかった。腐敗もしていない。少女の時間だけが止まっているかのような感じがした。フウタの言う通り、人形という言葉がしっくりした。


「だとしたら、仮死状態――っ!?」


 風が吹いたわけでもないのに、フードがはらりと落ちた。髪の色が露わになった。


「――聖女!?」

「なんだって、こんなところに――!?」


 後頭部でひとつに丸くまとめている髪の色は、多少薄汚れてはいても、真っ白に違いなかった。

 薄汚れた中で、聖女の髪を纏める白いリボンだけが、淡く光っていた。それだけが異様に見えた。


「ミヒメ――っ!?」

「ヒメちゃ――ん!?」


 ヒナタとフウタは、聖女から距離を置こうと後ずさるも、ミヒメはフウタの繋いだ手をするりと放して、聖女へと近寄っていく。

 慌てて掴みなおそうとするフウタの手は空振り、肩を掴んで制止しようとするヒナタの手も躱していく。まるで見えない何かが邪魔しているような、ミヒメの意図が働いているのかもしれないが、どらちゃんだけは、相変わらずミヒメの肩の上に居た。

 ミヒメが聖女に手を伸ばした。


 ミヒメの手が聖女の白いリボンに触れたその時――白いリボンは黒い炎に包まれ、一瞬にして消えた。


 聖女のお団子にしていた髪の毛はパサリと音を立てて解け、癖のないストレートのように真っすぐに落ちていくと、髪の色が徐々に赤く染まっていった。

 その赤は珊瑚のような色で、どこかで見たような気がして思いだそうとしたが、時が止まっていたかに見えた少女の閉じている瞼がピクピクと動くのを見て、記憶を探るのは止めた。

 ヒナタとフウタは掴み損ねた手をミヒメの両脇にそれぞれの手を入れて軽く持ち上げ、自分たちの方へと引き戻した。彼女から見えないように、ミヒメをヒナタとフウタの背中に隠した。


「……ん? ここは……あれ? 髪が赤い。え? そうだよ、赤い髪だった。珊瑚みたいで、お揃いだねって、それで――!?」


 今まで息も止まっていたというのに、それは幻だったとでもいうように、少女の声は掠れもなく、流暢に言葉を紡いでいく。

 目を開けて確認したのが腰まで伸びた自身の髪の色で、ミヒメたちを気にする様子は一切なかった。というよりは、気づいていないようだった。


「あれっ、ない!? なくなった?? あの忌々しい白いリボン、消えた……やった~あ? んん??」


 彼女はキョロキョロして白いリボンを探すのに夢中になっていたが、何処を探しても見つからないと分かると、自分が見られているという視線にようやく気付き、ヒナタとフウタの方に顔を向け、見上げた。


「……双子? じゃなくて、あなた達、誰なの? 此処に何の用? もしかして――コレは絶対に渡さないんだから!!」


 こちらが返事する隙も与えず彼女は息をつく暇もないくらいによく喋り、最後にはヒナタたちを睨みながら、ダンジョンコアを封印しているガラス箱に抱き着き、最後には威嚇する。


「君こそ、こんなところにダンジョン作って、どうするつもりなわけ?」


 ヒナタは少し前に出て、彼女からの注意を自分だけに向けさせ、フウタは身体の位置を変えながら少し後ろに下がり、ミヒメを守るように立ち塞がった。


「素材が欲しくて? 作りたいものがあったから、素材が欲しかったのよ。でも、ダンジョンなんか作ったことないし、失敗したと気づいた時には、神聖力もほぼ空っぽになっちゃうし、魔力も底をつくし、おまけに――ギュルルルルル……あっ、やっ!?」


 つっけんどんな話し方ではあったが、空腹に耐えきれなかった彼女のお腹は、何よりも自己主張した。

 余程の空腹だったのか、部屋の中に響くくらいに大きな音が鳴った。

 彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせながら、片手だけはガラス箱を離さずに、もう片方の手でお腹を押さえて、身体を丸めた。


「お姉ちゃん、お腹すいてるの? 元気になるミミのおやつ、食べる?」


 フウタの後ろからミヒメが顔だけをひょっこりと出していた。少しばかり沈黙している間に、ポシェットから元気になるヒマワリとカボチャの種が入った収納袋を取り出していた。


「ミ――ッ!?」


 すぐさま後ろを振り向いたヒナタは、ミヒメが顔を出していることに気づき、諫めようとしたが、知らない人間の前で名前を呼ぶのは不味いと口を閉じた。その代わりに、フウタの後ろに隠そうとしたが、身体が棒のように固まって動けなかった。

 それはフウタも同じで、不自然な形で固まっていた。目だけを動かして、ミヒメの居場所を確認するしかできなかった。


「あのね、お腹すいてるとね、悪いことばかりかんがえちゃうんだって。だから、お腹をみたしてあげると、よいかんがえがうかんでくるって、お母さんが言ってたよ。だから、これ食べて、元気になってね」


 固まったままのフウタとヒナタも通り越して、彼女の目の前までスタスタと歩いて行き、収納袋の中から、ヒマワリとカボチャの種を一粒ずつ取り出した。


「お姉ちゃん、手、だしてくれる?」


 彼女はミヒメの言う通りに、素直に手を出した。

 すれ違ったときに見た、ミヒメの瞳は柘榴だったから、彼女にも『お願い』が発動していたのだろう。

 空腹すぎて、身体が正直になるあまりに、思わず手が出たのもあるだろうか。

 実際、あの種は元気が出る。相乗効果もあるのか、この部屋に入る前にも魔力回復薬と一緒に食べたときも、魔力の回復も早まることを実体験していた。

 種を受け取ったものの、反対の手はガラス箱から離すことはできず、ミヒメの柘榴をじっと見ていた。

 ミヒメはそれを気にした風もなく、あげた元気の種をすぐに食べてくれないのは、ダンジョンコアがあるからだと思ったようで、身体ごとダンジョンコアの方へ向けて、しばらくじっと見つめていた。


「あのね、ここに眠ってるお姉ちゃん、起きたいって。解放してほしいって言ってる」


 理由は分からないが、彼女はダンジョンコアを守ろうとしている。ミヒメが伝えてくる言葉にダンジョンコアを見る瑠璃色の瞳が切なそうで、そして、後悔の色も垣間見えた。


「……あなた、浄化できるのね」

「うん。ミミ、できるよ」

「そう――それじゃ、お願い」


 彼女は手の中の種を口の中へ掻っ込み、何度かかみ砕いた後、呑み込んだ。そして、ガラス箱に両手を添えると、ガラス箱は跡形もなく消えて行った。残ったのは、ダンジョンコアだけで、すこし宙に浮いて、ふよふよと漂っているように見えた。

 ミヒメは手に持っていた収納袋をポシェットに仕舞うと、両手でそっとダンジョンコアを包んだ。

 ダンジョンコアがパリンと割れると、白い煙のようなものが現れ、人の形になっていった。

 透けて見える瞳は朱色で椿を想像させるような優美な女性だった。髪の色はライムだろうか。


『ありがとう』


 口の動きから、そう聞こえた。椿の女性は、瑠璃の彼女を見ていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 瑠璃の彼女も椿の女性を見ていた。大粒の涙を流しながら、謝罪を繰り返していた。


「助けてくれてありがとう……」


 最後には感謝を。

 二人のお別れは済んだのか、椿の女性はミヒメを見て微笑むと、消えて行った。

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