ダンジョン3
「まさか、迷路型のダンジョンだったとは……」
「また行き止まり……あ、でも、貴重な鉱石があるよ」
一本道かと思いきや、途中で道が分かれた。
今回のリーダーはミヒメということで、ミヒメの言う通りに進んでいったが、辿り着くのは全て行き止まりだった。
「う、ゔぅ~」
疲れもあるのか、ミヒメはくぅちゃんの上で上半身を倒し、伏せっていた。
「一旦此処で、休憩するか」
フウタは苦笑しながら結果箱を取り出して起動し、結界を張った。
洞窟のような場所では火を起こすと煙が充満して酸欠にもなるため、火が出ない魔導コンロでお湯を沸かし、茶葉とお菓子を取り出して、休憩の準備をしていた。
お湯が沸くのを待っている間、フウタは冒険者証の腕に装備している時計を見て、ため息をついていた。
「ヒナタも一旦、休憩しろ。今日は此処で野営にするから、一休みしろ!」
フウタは飽きれたような怒りも滲ませた声でヒナタを呼んだ。
お茶の用意をしている間中ずっと、ヒナタはツルハシで地面から出ている鉱石を採っていた。
「フウタ、見て――今度はヒヒイロカネだよ」
ヒナタは自身の頭くらいの大きさのヒヒイロカネを両手で抱えて、戻ってきた。
「コレ、フウタの収納魔法に仕舞ってくれる?」
「はいはい」
フウタの声音は投げやりでも、差し出されたオリハルコンを大切そうに受け取り、「はいは一回」と誰にも突っ込まれないのに寂しいなと思いながら仕舞っていく。
ヒナタは構うことなく、終始ご機嫌だ。
行き止まりに突き当たるたびに、珍しい鉱石が地面や壁から頭を出していた。
最初はミヒメもヒナタに付き合って、ヒナタ手製のツルハシで一緒に鉱石採取に取り汲んでいたが、途中からが、はじゃぎ疲れたようで突っ込む元気もなくなっていた。
ヒナタの収納魔法も小さくはないはずだが、鍛冶の道具など色々入っているらしく、入る場所がないと、フウタの収納魔法の方が大きいからと、このダンジョンで採取した鉱石の数々は全てフウタの収納魔法に収められている。
「収納袋も量産しないとな……」
まだ余裕はあるとはいっても、種類別に収納して、整理整頓したい。まだまだ増えるであろう鉱石の収納を考えると、フウタの頭は痛くなった。
このダンジョンはダンジョンコアを失えば、崩壊する。そうなると分かれば、今のうちに鉱石を採っておきたいというヒナタの気持ちも分からないでもない。
フウタも鉱石に興味があればヒナタに共感もできたが、ツルハシよりも包丁を握っていたいと思うのは、家事スキルの特性なのかもしれない。
包丁にもたくさんの種類がある。こと包丁に関しては、フウタも拘りが強かった――その全てはヒナタ手製ではあるのだが。
収納している何れかの鉱石は、フウタの包丁に変わるかもしれないと思うと、拒絶することもできなかった。
「ククッ」
積極的に家事を手伝うようになった時の事を思い出して、フウタの口から笑いが零れた。
「どうしたの?」
「あ、ああ……包丁のことでちょっと思いだして……」
「包丁?」
「子供用の包丁をジンじっちゃんに作ってもらっただろ?」
フウタがヒナタの空になったカップに天満草とヨモギなどをブレンドしたお茶を注ぎ、自分のも注ぎながら、過去の出来事を思い出していた。
「フウタ、何してるの?」
「見て分かんない? 研いでる」
フウタは自分用の包丁を研ぎながら、苛立っていた。
扱いが悪いのか、すぐに切れ味が悪くなる包丁に苛立ちが隠せなかった。
同じ包丁のはずなのに、ヒナタはサクサクとナイトが狩ってきた魔鶏を捌き切っていた。
魔鶏も同じ大きさだというのに、ヒナタはもう終わりそうだというのに、フウタは半分しか捌けていない。途中で切れ味が悪くなり、渋々研いでいたところだった。
「う~ん、指の力をもうちょっと強く入れて、刃の角度はもう少し下げて……」
ヒナタの言う通りにしてみるが、研ぐ滑りが悪くなった。もうちょっとがどのくらいの強さなのかが、フウタには理解できなかった。では、理解しにくかった。数字で何グラムで説明してくれたら、理解もできるのにとフウタは感覚的で大雑把すぎるヒナタの説明に苦しんでいた。
子供同士だと、後ろからも横からも手をまわして教えてもらうも、思うようにはいかず、喧嘩に発展しまう。
「こんな感じなんだけど……」
「いや、わかんねーよ」
「だから、こんな感じで……分かるよね?」
「分からないって言ってるだろ! そっちこそ、オレの言ってること、分からないのか!!」
見かねたナイトが仲裁に入り、解体し終わったヒナタの包丁をフウタが借りて、残りの魔鶏の肉や骨を斬っていくと、面白いくらいに肉も骨も斬れた。
ヒナタが研いでくれたフウタの包丁に取り換えても、同じくらいに切れ味が良かった。
「――あの時から、もう既にヒナタは鍛冶だったんだな」
「何が?」
「包丁を研ぐのが抜群に旨かったなって、話」
「あ、あ~そうだね。あの時に早く気づいていれば、フウタの小さな手に合う包丁も作ってあげられたんだけどね」
気づく機会はいくつもあったのだと思い返していくうちに、鈍感すぎた己にヒナタは落ち込んだ。
「オレにはコレがあるから、充分だよ」
ヒナタを労うように、フウタはヒナタ手製の包丁セットを拡げて見せて、爽やかに笑った。
「まあ、オレも成長期だからな、そのうち新しいの作ってくれよ。ヒヒイロカネでもいいし、さっき採ったアダマンタイトで作ってくれてもいいしさ」
「うん、作る! それじゃあ、もっと採らないとね。ヒヒイロカネ、採ってくる~」
残っていたブレンド薬草茶を一気に飲み干すと、ヒナタはツルハシを持って、元気に走っていった。
「オレも自分の分くらいは、採るかな~」
フウタも滅多に使わずに奥の方に仕舞っておいたツルハシを持って、ヒナタとは反対の壁に向かって、ツルハシを振り下ろした。
ヒナタ手製のツルハシは、面白いくらいに良く採れた。
夢中になっていたためか、ミヒメの『お願い』はスルーしてしまっていた。
「こんなもんかな――う、うっ!」
フウタは急に胸が締め付けられ、背中を丸めて蹲った。
「ふうちゃ、おなか空いた。ごはん」
頬を膨らませて怒っているミヒメがフウタの背後に立っていた。
とってもとっても強力な『お願い』がフウタを襲った。
「ミヒメ、ごめん。急いで作るから、ゆ、許して……」
「ヨモギ団子、作ってくれる?」
「わ、分かったから、『お願い』解いて……なっ!」
「やった~」
「ヒメちゃ~ん、ご飯できるまで、こっちでヒヒイロカネ採ろう~」
「ヒヒイロカネ、採る~」
ヒナタがミヒメの気を逸らしてくれたので、フウタの胸を縛る締め付けが解けた。
ヒナタも共犯のようなものなのに、自分だけが『お願い』に遭うのは納得できないと憤るフウタではあったが、ミヒメに気づかなかったのも悪かったと反省しながら、夕食作りに精を出していった。




