ダンジョン2
胡桃の木で囲われた入り口に足を踏み入れると、大人が3人並んで歩けるくらいの広さがあり、前方へと続いていくトンネルのような道が見えた。所々に光苔が生えており、トンネルの中は明かりを灯さずともよく見えた。
先ずは安全確保とばかりに、ヒナタは魔導鞄から取り出した鉄鎚で壁と地面を叩いていき、フウタは先端に雑巾のような布を取り付けた頑丈そうな長い棒で、天井を突いたり、布で擦ったあと、汚れ具合を確認していた。
「崩れる心配はなさそうだよ。そっちは?」
「天井も問題なし。毒物の反応も無い」
「ウォン」
「くぅちゃんも大丈夫だって」
光苔の匂いを嗅いでいたくぅちゃんにも異変は見られず、くぅちゃんの頭に乗って辺りを見回していたどらちゃんからも危険だという合図はなかった。
ダンジョンに入ると同時に、ミヒメの瞳も柘榴から元の紫陽花に戻り、いつもの愛らしい無邪気な妹の姿に戻っていた。
強制力が立ち消え、自らの意思で動けるようになったヒナタとフウタは、ホッと一息ついていた。
「このままダンジョンコアの所まで進んでいって、ヒメちゃんがダンジョンコアを浄化するのでいいかな?」
「いいんじゃね? こんな山奥の僻地でダンジョン維持もあったもんじゃないし、最初からなかったことにしたら、誰も文句も言えねぇし、あちらさんに把握される前に消してしまおうぜ――って言っても、オレたちじゃなくて、ミヒメだけど……」
「ミミに任せて! ミミのお仕事だもんね」
ミヒメはハニーダンジョンのダンジョンコアを浄化してから、それが使命だと確信したようで、張り切っていた。
「――見たところ、出来立てのダンジョンみたいだから、ネームドとかの強い魔獣はいないと思うけど、気をつけて行こうか。さてと、魔物の気配は――」
「奥に小物が数匹といったところだな。序盤としては、妥当なところか」
「それじゃあ、ミミが先頭~」
ミヒメはそう言うなり、勢いよく駆けて行った。
足の速いくぅちゃんがミヒメに並走している。尻尾もブンブン振っていて、闘志が漲っているのが窺えた。くぅちゃんの頭の上に乗っかったままのどらちゃんの葉っぱも、くぅちゃんの動きに合わせて揺れていた。ちなみに、モモちゃんは、くぅちゃんの首輪に下がっている巣箱の中で待機中だった。
「小物はできるだけ手を出さないようにして、危なくなったら、手助けしていこうか」
「ミヒメもやる気になってるしな」
ヒナタとフウタは、いつでも手助けできる距離を保ちつつ、ミヒメたちの後を追った。
ミヒメは、ワートル村を旅立ってから、積極的に戦闘に参加するようになった。それまではどちらかというと、足止めなど兄たちのサポート的な立ち位置だったが、最近は、影魔法の影を鋭い槍のように急所を突き刺すなど、先頭に立つことも増えた。
「風を操る兎と猫の魔獣か。どちらも一突き――ミヒメも強くなったな」
「ボクたちの出番、なかったね」
本当は手が出そうになった。けれども、ミヒメに強制的な『お願い』を発動されたら、ヒナタもフウタも手も足も出せなくなる。
その時にもし、ミヒメが自分の力量を誤ったら――そう考えたら、いつまでもミヒメを後方で支援させるだけにしていては、戦う術が狭まってしまう。力量も知らなければ、無謀な挑戦をしてしまうかもしれない。
それに――これまで想像もしなかったネームドとの遭遇。今後も遭遇しないとは限らない。ネームドなど今の自分たちでは歯が立たない、それが痛いほどに実感してしまった。
自分たちの身ですら守れないのに、ミヒメも守れないでは、本末転倒だ。
だから、ミヒメが前線に立つことを認めた。ミヒメにも自衛できる手段を持たせなければならなくなったから。
「――悔しいな」
「全くだよ」
ミヒメに危害が及びそうになると、くぅちゃんが盾となり、襲ってくる魔獣を鋭い爪で切り刻んでいく。超音波口撃で敵の動きを止めたり、氷塊にして、ミヒメが止めやすいようにサポートもしている。
くぅちゃんも変わった。
最初の頃は、後方でミヒメを乗せているか、傍を離れずにぴったりと寄り添っていた。超音波口撃を憶えてからも、どちらかというと、臆病さで前に出てこようとはしなかったが、今は前線でミヒメと共闘している。
くぅちゃんは、忠実に主人を守る家族の姿をヒナタとフウタに見せていた。
「ボクたちの方がお兄ちゃんで、先輩なのに~」
「オレたちも負けてられないぞ――そろそろ、ミヒメたちの動きのキレも悪くなってきた。加勢するぞ!」
戦況を観るのは、フウタの方が上手かった。
「ラジャー」
フウタにも負けられないと、逸早く、ヒナタは飛躍した。
先を進むにつれて、小型の魔獣から、狼や豹といった中型の魔獣も現れるようになってきた。
風に加えて、土属性の魔法を操ってくる魔獣も出てきた。
瞬発力を活かして、盛り上がった土を踏み台にして、ヒナタはミヒメが居る場所まで一気に飛んだ。
フウタも負けじと足元に扇風を巻き起こし、風をバネにして跳ね上がっていった。




