初幕
神聖教会に繋がりそうなものは捨てた。
白い聖服は最初に脱いで、ズタズタに切り裂いて、最後に燃やした。
けれども、白いリボンだけはちぎれないし、燃えもしなかった。捨てたはずなのに、いつの間にか、髪に巻き付いていた。
その所為で、髪の毛は白いまま。年若で白髪なのは、聖職者以外、滅多にいない。
白いリボンがなければ、聖職者ではないと堂々とできるけど、それも叶わない。
それよりも何よりも、自分の名前が分からない――というか、咽喉まで名前が出かかっているのに、そこから言葉が出てこない。響かない音は言葉にならず、文字すらも浮かんでこない。
「瞳は――瑠璃色か。髪の色は……思いだせないや。一先ず、ルリ……と名乗るのは、ダメだ」
湖の水面に映る、紫がかった青の中に金色の粒が混じっている瞳は、生まれながらに持つ、唯一の自分を表す色ではあるが、『瑠璃の聖女』と呼ばれていたのに、『ルリ』を名乗るのは安直すぎる。
「ん~、あっ、そうだ! ラピスにしよう! 最初の『ラ』だけは同じのような気がするし」
瑠璃の聖女改め――ラピスは、白い髪を憎い白いリボンでひとつにお団子のように纏めた。
近くで拾ったフード付きのローブを身に纏い、白髪が見えないように、フードを深く被った。
ローブの中に手を入れて、腰のウエストポーチがあることをしっかりと確認して、ラピスは立ち上がった。
「材料があれば、このボロボロのローブも錬金で作ったのにな~もう!」
自慢の錬金術をもってしても、白いリボンは廃棄できなかったことも思い出して、鎮まった怒りが再燃した。
「腹立つな~。ムカつく。頭にきたよ、もう~」
怒りが身体中に飛び火したラピスは歩みを止め、ダンダンと音を響かせて地団駄を踏んだ。
怒りを一通り発散させると落ち着きを取り戻し、再び歩みを進めた。
「先ずは、このリボンをどうにかしたいな」
歩く先に、三つに連なる山が見える。
「故郷を思い出すな~。そういえば……お兄ちゃん、居たよね? 名前思いだせないけど、髪色だけはお兄ちゃんと一緒だったのは、憶えてる。よし、お兄ちゃんも探そう!」
もうひとつ、思い出した。少しずつ、自分を取り戻していくようで、不安に押しつぶされそうになっていたラピスの心に希望の星がひとつ煌めいた。
ラピスは、ウエストポーチを大事そうに抱えながら、連なる山に向かっていった。




