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木曽入洛

王直は五島列島に拠点を置いて倭寇を率いて大陸沿岸部の脅威となった。もとは商人だったが、商売から締め出されると武を以て利を上げる様になった。

「明史」には1556年に明朝側の使者が五島列島の王直の元に行くと、王直は日本国内の政情の不安定さを伝えて、これを安定させるために皇帝の威光を以て島々の倭寇を除く事を訴えた。また「薩摩洲というものがありますが彼等は中国に侵攻しましたが、本心は朝貢と貿易にあります。それが出来れば、薩摩は積極的に倭寇を取り締まるでしょう。」と述べた。倭寇を下に置き、明朝に対して「王」を名乗っていた彼自身は倭寇ではないと思っていたようだ。明朝は王直配下の倭寇と戦いつつ、王直の母や妻子を杭州に好待遇で迎え交渉も進める等、硬軟織り交ぜた対応を進めてゆく。王直側も使節として配下を舟山の岑港に派遣した。これ一連の動きは王直も出馬する所まで続くが、騒ぎが起こり頓挫することになる。この頃には明朝側の防衛も整い、倭寇も撃破されることが増えて五島列島から出発した者が一人も帰らないこともあったので「島民は王直に怨みを抱くようになり」足元が揺らぎ、潮時と思い出していたのだろう。その後、誘い出された王直は捕らえられて人生を終えることとなる。その後、1562年には大府城の興化府が落とされたり倭寇の猛攻が続くが、日本の側でも「信長を討った阿奇支(あけち)を倒して」1586年に「平秀吉が信長の配下を全て配下に収めた」事で海賊行為(密貿易であれ襲撃であれ)に対しての取り締まりが強まり、貿易、略奪、叛乱の争乱の海だった東シナ海も荒波が収まる時期に差し掛かってゆく事となった。

「一番乗り、一番乗り、南から一気に入る。」

平家の都落ちを知って勇んで軍勢を急かして直ぐの早馬だった。“立ちはだかる者が居ないとはいえ法皇を守って北から進むので、叔父貴は南からいち早く。”との知らせだ。義朝の兄弟として生まれた自分も、もはや甥の義仲あっての武将となっている。敬意は払われているが。

「比叡山に法皇が居るから、寄るために先駆けを任せただけか?」

そして法皇を迎え終えて、前面に敵なしなら行家は“迷わず急げ”

「聞こえているかわからんが、地の源氏も勇んでいる。さっさと押さえねばならんだろうな。」

畿内の源氏が他からも進んできている。遅れると北から義仲が来た時に小競り合いが起きるかもしれない。ここは伝令の通りに足を急がせる。

それにしても法皇の居場所を嗅ぎつけ、すかさず手に入れるとは鋭い嗅覚。玉の力などは認めていないだろうに。餌として観てか。血を嗅ぎつけた狼の様だ。用心深くいかねばな。


牛車の周りを木曽勢が固めている。

「大将〜こんなんあとで付いて来させりゃ良いでしょうに。」

海野が義仲に言った。周りの侍が牛車の中を覗こうと集まっている。

「行家叔父貴が先に入るのであれば、焦ることはないだろう。」

法皇が24日に鞍馬に避難した後に移り移って延暦寺に居るのを聞いて殿上人や女御達も坂本に集まっている。これを引き連れて進むならまず、急げないだろう。

待つ間の手すさびではないが、木曽勢5万騎を背後に座主明雲以下、僧侶連に改めて協力を確約させた。京に足を置くなら、ここを固める必要がある。それを感じて山門に迫ったのだった。言質がとれた頃に今井が坂本の衆から物資の徴収を終えてやって来た。

「いつでも出立出来ます。」

「よし、叔父貴と洛中で合流だ。出るぞ!」

「「「「おおおおぅ!」」」」

町を震わせる鬨の声が挙がり休んでいた群れが動き出した。馳せ参じた近江源氏の山本義高が先頭で白旗を掲げる。5万騎と法皇、貴族連が京に進んでゆく。山城国に入って京近辺に迫った。平治の乱で源氏が敗れて都を追い出されて以降、24年ぶりに天空澄(インフィニティ・ヘブン)が畿内の空に翻った。


行家は宇治橋を渡った。その耳に“大江山から矢田義清が越えて来た”“摂津国や和泉国の源氏が平家が居ないと知って寄せて来た”と次々と報が入る。都は源氏のモノとなった。

“蓮華王院を確保”法皇は落ち着く先を都から外れた場所に求めた。北から京を通過した義仲5万騎が守る法皇がやって来た。三十三間堂として知られる寺院に入って落ち着くと外に侍る義仲、行家が呼ばれた。

木曽義仲は赤地の錦の直垂に唐綾威の鎧、太刀に切斑の矢を背負い、滋籐の弓を脇に挟んでいる。

源行家は紺地の直垂に緋威の鎧、金覆輪の太刀大中黒の矢を背負い、塗籠藤の弓を挟んでいる。

兜は脱いで大帯に掛けている。

「山門より京までの守護、ご苦労だった。お陰で騒乱の中、安泰に帰ることが出来たわ。」

法皇自身ほっとした顔で労をねぎらった。

こんなところで天下の舞台にあがれるとはな、、、やはり直に向き合うと御稜威というのだろうか心が浮き立つ、行家は体の火照りを感じている。自分はやはり古い者なのだろう。流石の義仲であっても、、、

「さっそくですが申し上げたい。」

ギクリッとした。急に何を言い出す。

「戦わずして逃げた平家がどう、というものありませんが、西海を漂う連中が高位顕職を帯びているのは滑稽。束帯衣冠もひと思いに脱がせて身軽にさせてやるべきかと。」

嗚呼言ってきた、いつかは言い立ててくるかと思っていたが席を温める暇もなくとは。

“義仲、御前だぞ。後日改めてにせい。”

行家は隣に囁くが聞いている素振りはない。

「ふむ、除目は行う時期があるものだが、、、、。」

山門に協力を改めて迫った時よりはるかに遠慮がない。まだ探っているようだった延暦寺に比べて要求を聞いて当然のような声色だ。なるほど北嶺と比べて皇統の威はその程度ということか。後日改めて、、、というならどうなる。この男に何をされる。

「都から落ちた者達だ。世を規則立てるため、、、解官することにしよう。詔は後で即、出すことにする。」

拒否は出来ない。しかし一分を示す、後で、がどの程度の一分か知らぬが言われたままに、というのは王として自らが飲めない。萎えそうになりながら何とか思えた。

「天下への号令はしかるべき用意が要るからな。」

平家であるなら、、、、と思わざるを得ない。迫るにしても皇室の威を傷つけない道を用意するものだろうが。苦く思いつつ、

「そういえば京での屋形であるが、義仲は六条西洞院、行家は儂がかつて使った法住寺殿が空いているから使うが良いぞ。」

話の先を変える。今日はとにかく退出したい。心を静めてこれからを考えたい。

「有難き幸せ!」

行家が殊に声を高くして答えた。この場はこれまで、どうも甥を早く退出させたいようだ。ああ、そうしてくれ。

「あと一つ。申し上げたい。」

義仲の声が響いた。また何を言われる?

「皇嗣のことにござる。」


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