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変わる世に置いてゆかれて

平家山門連署

敬白うやまってもうす、延暦寺をもって氏寺に准じ、日吉の社をもって氏社として、一向天台の仏法を仰ぐべき事。

右当家一族の輩、殊に祈誓する事あり。旨趣如何者ししゅしかんとなれば、叡山は是桓武天皇の御宇、伝教大師入唐帰朝の後、円頓の教法を此所にひろめ、遮那の大戎を其内に伝へてよりこのかた、専ら仏法繁昌の霊崛れいくつとして、鎮護国家の道場にそなふ。方に今、伊豆国の流人源頼朝、その身の咎を悔いず、かへッて朝憲を嘲る。しかのみならず、奸謀にくみして同心をいたす源氏等、義仲、行家以下党を結ンで数あり。隣境遠境数国を掠領し、土宜万物を押領す。これによッて、或いは累代勲功の跡をおひ、或いは当時弓馬の芸にまかせて、速やかに、賊徒を追討し、凶党を降伏すべき由、いやしくも勅命をふくんで頻りに征罰を企つ。爰に魚鱗鶴翼の陣、官軍利をえず、星旄電戟の威、逆類勝つに乗るに似たり。若し神明仏陀の加被にあらずは、いかでか反逆の凶乱をしづめん。是を以て一向天台之仏法に帰し、不退日吉之神恩を憑み奉るのみ。何に況や、忝く臣等が曩祖を思へば、本願の余裔といッべし。いよいよ崇重すべし、弥忝敬すべし。自今以後山門に悦あらば一門の悦とし、社家に憤あらば一家の憤として、おのゝ子孫に伝へてながく失堕せじ。藤氏は春日社興福寺をもッて氏社氏寺として、久しく法相大乗の宗を帰す。平氏は日吉社延暦寺をもッて氏社氏寺として、まのあたり円実頓悟の教に値遇せん。かれはむかしの遺跡なり、家のため栄幸を思ふ。これは今の精祈なり、君のため追罸をこふ。あおぎねがはくは、山王七社王子眷属、東西満山護法聖衆、十二上願日光月光、医王善逝、無二の丹誠を照して唯一の玄応を垂れ給え。然れば則ち邪謀逆臣の賊、手を君門につかね、暴虐残害の輩、首を京土に伝へん。仍て当家の公卿異口同音に礼をなして祈誓如件きせいくだんのごとし


従三位行兼越前守 平朝臣通盛

従三位行兼右近衛中将 平朝臣資盛

正三位行左近衛権中将兼伊予守 平朝臣維盛

正三位行左近衛中将兼播磨守 平朝臣重衡

正三位行右衛門督兼近江遠江守 平朝臣清宗

参議正三位皇太后宮大夫兼修理大夫加賀越中守

平朝臣経盛

従二位行中納言兼左兵衛督征夷大将軍 平朝臣知盛

従二位行権中納言兼肥前守 平朝臣教盛

正弐位行権大納言兼出羽陸奥按察使 平朝臣頼盛

従一位 平朝臣宗盛


寿永二年七月五日     敬白うやまってまうす

北陸で勝って進撃してくる木曽義仲。この相手に共に平家と戦ってくれるのか?京よりも先に木曽勢と対することになる比叡山の協力は本当に見込めるものなのか?

僧兵3000、信徒が集まる信教都市・坂本。近江国の大地の中に巨大な面を占める琵琶湖、その水運を握る堅田の衆。味方になれば心強い。しかしそれはあくまで平家の希望だ。澄んだ眼で見渡すなら共同戦線の望みは大きくない。それが目に映らないようにしている。そして比叡山に書状が飛んだ。

「平家のお歴々の連署が入ってますな。」

またも山門の大衆が集められた。しかし相談ではない、檄のためである。

「平家はまだ京に留まれると思っておるのか。」

「いくらなんでも事態が見えていないのではないか。」

「山門の意思は固まっているのに、哀れ。」

平家の要請を突っぱねる、この方向に揺らぎはない。それを知らしめるそのための集まりだ。

「、、、、、、、、、。」

座主明雲は一言も発しない。心の中は乱れている。平家は治天下の経験を積み重ねている。この世の平安を少しでも保つのなら彼らだ。しかし巨星清盛がいない平家は、、、、。義仲とその軍勢がその器量がないと思っても力が足りるのか?正直な思いだ。頼朝はもっと知りがたい。奥州の秀衡は遠すぎる。誰も頼るに足りない。その中で山門と坂本の信徒を導く自分の力はその世の中でもっと頼りない。

“何とするべきなのですか、、、お示し下さい、、、。”

仏の姿を心に描く。それは数多の命を背負った自分への問いでもある。

「座主、この返事には。」

声が聞こえた瞬間、痛みとともに決断が押し出された。

比叡山延暦寺は事態に不干渉。如何なる勢力にも中立。

宗盛殿、許してくだされ。進んでくる木曽勢との対峙も苛烈をきわめるであろう。その事態を衆を率いて切り開くために、山門は味方せず。集まった衆に意思が示された。それは平家の京からの撤退が歴史上、決定的になった瞬間だった。


「山門、不参加、、、、、。」

呻くように宗盛は言った。やんぬるかな、我等が何をした、天下が保たれたのは誰のお陰と思うか、、、心が乱れてそれ以上は言葉が続かなかった。一同、沈み込む。


「それでは清盛が御霊だとか、仏のようなモノだというようなものでは?」

範頼は言った。義経が頼朝との雑談で聞いた在りし日の清盛の治天下が話の中で出たからだ。

「兄者は今は亡き清盛を買いかぶりすぎている。父の仇だぞ。」

義経の目に映る清盛は一介の武士に過ぎない。狡猾で好色な。

「在りし日の入道殿は平家の軍勢も朝廷の官吏も商人も、僧も全てを取り込んだ大きなモノとなっていた。この日本の何処にいても見えるような。それをめがけ人々が集まり、声に応じて動き、動かなかったりした。どちらにしてもそこら中が突き動かされ、かき回されて、、、、世が姿を変えていった。、、、その様なモノに憎しみも怒りも、もはや持てぬ。」

頼朝がからかっている様子はなかった。心から言っている。

「梶原等が吹き込んでいるのか?由無し事を。」

義経は訳の分からぬことを言われて愉快ではない。

「大仏や御霊、、、、。」

範頼の頭に奈良の大仏の如き巨大な清盛が小人のような民草が集まって足にすがるのを微笑みながら、時に怒り、手で弄ぶ様が描かれた。その巨大な手が山を崩し、指で道を擦り天下の景色が変わってゆく。そんなあり得ない光景。

「大仏だろうが、御霊だろうが、我が武で討ち取りたかったものよ!」

義経が激して言った。


木曽勢が進む。平家勢が逃げた北陸道を京に向かう。

「旭将軍様ぁ、スゴイですねぇ。」

山吹が側でつぶやく。道沿いの民や領主が糧品を争って献じている。どうせ強いて徴収されるなら、こっちから献納した方が残る分は多く保てる。勝てば官軍、力こそが正しさ。覇者に睨まれることをしてはならない。

「四郎、後ろで休む。何かあったら呼べ。」

比叡山の協力を約束させたので京への途上にこれといった障りはあるまい。惰弱の平家が京で最後の決戦を挑んでくるのか?それはあるとは思えない。ならしばしの休み。狼とて狩りがないなら寝転んでいることが多いからな。


「兄者、平家の立つべきところはこの京の都。いかに苦しくともここで!」

平知盛は重い空気を割って献策した。しかし京では童までもが「またも負けたか平家の侍!」と嘲っている。禿かむろ達から知らせが数え切れないほど挙がっている。平家を誰も恐れなくなっているのだ。

「これで戦うのか、、、、、。」

馬面が呻く。彼らにとって京こそが生まれ育った地だ。しかしここで今、戦うことの不利を説く声は多い。少し前には思いもしなかった。まさかその地を離れるか、否か、という日が来るとは。蒼海変じて桑畑となる、というが世の転変がこれ程とは。

7月25日の未明、静かに法住寺殿から人が出た。鞍馬の山に供一人だけを付けて後白河法皇が出発したのだ。法皇の五感では収まらない部分が都に居続けることの危険を捉えた。とにかくこの場から逃れて鞍馬に籠る。生き残れば何とかなるだろう。それだけを思っての天狗の素早さであった。

「平家山門連署」

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