でっち上げスピーチ
世間の人々によると、あらゆる事件は単純だと思うらしい。
「今度会議室で、メディア向けの意見を発表することになった」
「はあ」
「お前は、私が優秀で素晴らしい人間だとスピール出来るようなスピーチを作ってこい」
「はあ」
こんな無茶振りをしているのは、開発部長の黒木だ。
「社長に何度も却下されて、書き直し要求されたんだってさ」
秘書課の課長が説明をしてきた。
なるほど、それで営業部の神山に無茶振りをしてきたわけだ。
営業部の神山は、とりあえず適当に、賢そうに見えるスピーチを考えた。
新聞手に取って、少し読んで見る。
そういえば、会社の工業排水で病気になった人たちの補償金がいくらかかった、というニュースを思い出した。
そのニュースを少し弄って、補償金を心配するリスクを訴えるスピーチをでっち上げた。
出来上がったスピーチ文を、さっと黒木に渡すと、気に入ったらしい。
社長もokというわけで、一応、その場はやり過ごしたわけだが。
□
それから、どうなったって。
今でも、黒木は思いやりがあって優しい開発部長っていうイメージ保っている。
神山のでっち上げスピーチは、うまく行き過ぎてしまったようだ。
世間の人は、メディア向けスピーチが何度も推敲されていたなんて、少しも思わないらしい。
それから、世間の人って案外騙されやすいんだな、という印象に変わったわけだが。




