赤坂 安子という女
嫌、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
「だから、保科さん」
「.......」
わからない。
何を言ってるの。
あれが、違くて何。
どうして。
苦労したのに。
わざと嫌がらせしてあの男、神山を追い出したのに。
全部、上手くいくはずだったのに。
何で。
何で。
何で
嫌だ。
「私、保科じゃなくて赤坂です」
「え、いや保科さん...」
「赤坂です」
こりゃだめだ。といって、どこかの職員が保科の家の玄関から立ち去った。
□
家の中で、一息つく。
そういえば。
あの家賃、どうなったのかしら。
タンスの引き出しを開けて通帳を確認する。
ー赤坂銀行通帳
保科 安子
あ。
安子は、通帳を思わず地面に落とした。
あ。
あ?
いや。
わからない。
黒木さんに電話して、落ち着こう。
「もしもし、黒木さん...私、保科」
「.......誰」
「え......黒木さん...」
「えっ、黒木? 違いますけど」
安子は、黙って通話を切った。
もう、なにもわからない。
□
「安子ちゃん」
「おい安子」
「安子ぉー」
気がついたら病院のベッドの上だった。
「あれ」
おじいちゃん、おばさん。親戚の兄さん。
ベッドで目が覚めた安子に声をかけてきた。
「みんな...」
「みんな、安子のことを心配したぞ」
そうなんだ。
安子は、胸の苦しみが軽くなった気がした。
ふと窓の外を見た。
外はまだ暗かった。
しかし、月明かりが辺りを照らしていた。




