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20/22

視聴者7:滝沢ミラ

 最後のテロップが消えた瞬間、部屋の中が静まり返った。

 NHK『プロフェッショナリズム ― 仕事の流儀:一ノ瀬直也という現象』。

 ――タイトルからして危ういとは思っていた。

 けれど、実際に映像で見る彼は、それを超えていた。


 仕事の顔。

 世界の最前線で交渉する姿勢。

 そのどれもが、私が知っている “一ノ瀬直也” そのもの。

 けれど、番組の後半――。

 その映像を見た瞬間、心の奥に “ざらり” と何かが走った。


 夜の食卓。

 白い灯。

 “おかえりなさい” と、柔らかい声。

 ――彼を迎える少女。

 あの、優しい手の動き。あの抱擁。あの沈黙。

 その全部が、私の知らない彼だった。


(……誰?)


 そう思ったのも一瞬だった。

 ナレーションが告げた。

 “義妹”。

 名前は――直也さんから聞いた事がある。

 確か名前は、一ノ瀬保奈美さん。


 息が止まるような美しさだった。

 それは単に顔の造形じゃない。

 “家族” という絶対的な距離の中でしか生まれない温度感。

 守られて、信頼されて、そして信じている。

 その関係の強さが、画面越しにも伝わってくる。

 まるで彼女だけが、一ノ瀬直也の世界で “呼吸を許された存在” のようだった。


 ――あまりに危険。

 でも、敵にはできない。

 むしろ、一番味方につけなければならない。

 彼を動かす力の源が彼女なら、私が彼の “外” で支えるためには、その核を理解しなければならない。

 それが、この世界で彼と関わるということだ。


 ソファの肘掛けに腕を置いたまま、私は指先でワイングラスを転がした。

 ふと、思い出す。

 GAIALINQメンバーの女性たち。

 新堂亜紀。

 宮本玲奈。

 神宮寺麻里。

 それからRICOさん。


 映像に出てきた女性――住田梨花。

 それぞれが、彼の違う側面を引き出している。


(でも、同じ “戦場” を知っているのは、私だけ。)


 サステナブル。

 誰もが口にするけれど、本気でその理念と現実の狭間で生きている人間は少ない。

 私は、世界中の舞台でそれを経験してきた。

 理想を語りながら、現実の資本や政治と対峙する日々。

 直也さんも同じ場所に立っている。

 だからこそ分かる。

 私たちは、ただの夢想家ではない。

 現実を踏みしめながら、未来を描く同士。

 ――その誇りがある。


 けれど、その誇りは、彼の “隣” を保証するものではない。

 仕事でいくら並び立っても、夜の光景に踏み込むことはできない。

 そこにいるのは保奈美さん。

 彼女の笑顔が、彼の全ての疲れを癒している。

 その事実が、痛いほどに分かった。


(……美しい子ね。)

 でも、負けない。

 私は私の世界で生きてきた。

 誰に媚びず、どんな視線にも怯えず、世界中の価値観の中で自分を確立してきた。

 あの子のような “守られるだけの存在” ではない。

 私は “一緒に戦える存在” 。

 彼が理念を語るなら、私はその理念を “伝える力” で支える。

 そして彼の笑顔を逆に守る側にも立つ。


 ワイングラスを置いて、立ち上がる。

 窓の外には、渋谷の夜景。

 街の灯りが、まるでステージの照明のように広がっている。


「……結局、勝負は“時間”ね。」


 彼のそばに、どれだけいられるか。

 同じ現場に、どれだけ立てるか。

 世界のどこにいても、彼と同じ速度で未来を見続けられるか。

 その“時間”を確保できるかどうかが、私の勝負。


 彼の理念を、世界に発信するための舞台はまだ広がっていく。

 GAIALINQも、Élan Mirableも、その先に繋がるはず。

 私はそこで、生きる。

 彼の隣に―― “世界” という場所で立つ。


 もう一度だけ、番組を再生した。

 保奈美さんの笑顔と、直也さんの穏やかな声。

 その光景を見ながら、私は静かに微笑んだ。


「……あの子と繋がり、絶対に、味方にしなければならない」


 その言葉が、夜の部屋に溶けていった。

 光を纏ったまま、私の中に小さく炎が宿っていくのが分かる。

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