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19/22

視聴者6:住田梨花

 笑って見てたはずなのに、気づいたら黙り込んで見入っていた。

 NHK『プロフェッショナリズム ― 仕事の流儀:一ノ瀬直也という現象』。

 画面の中の彼を、ビジネスのパートナーとして、冷静に見るつもりだった。

 なのに――胸の奥がざわつく。


「…… “直也さん” 。」

 その呼び方が聞こえた瞬間、心臓が跳ねた。

 あの声。

 あの温度。

 そしてあの抱擁。

 テレビ越しでも伝わる、柔らかい空気。

 彼を迎えたあの少女――義妹。

 たしか、一ノ瀬保奈美さんというお名前と聞いている。


 ――きれいとか、可愛いとか、そういう次元じゃない。

 女子高生らしい幼さがあるのに、立ち居振る舞いがまるで “完成されている” 。

 素のままなのに、あの人の隣に自然に存在している。

 まるで、最初から “あの位置” に立つように生まれたみたい。


(……圧倒的。)

 嫉妬よりも先に、分析が働いた。

 ビジネスパートナーとして冷静に整理するなら、

 “家族” というラベルは、どんな女性より強い。

 恋愛感情を抜きにしても、彼の人生そのものに刻まれるポジション。

 敵に回していい存在じゃない。

 ――むしろ味方にするしかない。


 私は背筋を伸ばした。

 彼の義妹は、私にとっても “守るべき人” になる。

 彼女がいれば、彼は壊れない。

 彼女を守る立場でいられれば、私もまた彼の信頼圏にいられる。

 ――戦略的にも、感情的にも、それが正しい。


 けれど。

 問題は、別にいる。


 滝沢ミラ。

 あの人、どこまで踏み込む気?

 ステージで「尊敬している」なんて言葉を口にしながら、あの目線。

 恋をしている女性の瞳だって、あれ以上の熱は出せない。

 ミラは世界の表舞台を知っている。

 だから怖い。

 彼女が動けば、世界の “光” が一気にそっちに向いてしまう。


 私はソファに背中を預けて、息を吐いた。

 自分でも、少し笑ってしまう。

 ……ねえ、私、何と戦ってるの?

 恋愛でもなく、政治でもなく、理想でもなく。

 ただ、彼の隣に立つ “理由” を探している。


 お祖父様――五菱商事会長。

 その背中を見て私は育ってきた。

 理想を語る者を軽んじず、守ることの大切さを知った。

 今、お祖父様は一ノ瀬直也の理想を、いや、存在そのものを信じている。

 だったら、孫である私は、それを現実に変える役割を果たさなきゃ。


 ―― “最も重要なパートナー” として。

 誰よりも正確に、誰よりも長く。

 GAIALINQの未来の中で、彼の言葉を形にする存在として。


 私は立ち上がって、鏡の前に立った。

 黒のスーツに映る自分の姿。

 きれいに整った線を、もう一度だけ見直す。


 「……大丈夫。私は “ビジネスの顔” で勝つ。」


 口に出したその言葉が、部屋の空気を少しだけ締めた。

 これは恋じゃない。

 今はまだ恋だなんて認めるわけにはいかない。

 でも、確かに心が熱を帯びている。

 そしてその熱は着実に大きく、そして熱くなってきている。


 明日、彼に会う。

 GAIALINQの共創会議で。

 環境省や経産省の官僚がオブザーバーで参加する公的な場所になった。

 多くの経済系メディアの記者が常時貼り付いて取材する対象になった。

 そういう場所でまた直也さんと会える。

 そのときには、今日よりも、少しだけ強い自分でいなきゃ。

 

 ――自分以外の “守るべき誰かの笑顔” が必要になる――。


 その “誰か” というのは、少なくとも今、誰であるのかはもう分かった。

 あんな美しいラストシーンの笑顔――。


 いつか、その “誰か” が自分自身になるようにするには何が必要なのか。

 それは守られるだけでない、逆に、彼を守る側にも立てるだけの強さが絶対に必要だ。

 私にはそれができる筈、そうなれる筈だから。


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