ストナン!?キモッ
GW明けの派遣。
無機質なオフィスでExcelを叩く、
定時。即、脱出。
そして待ちに待った土曜日。
表参道の予約したテラス席。
同じ会社のリカとサユリと一緒に
推しキャラのコラボイベント。
テーブルには、アクスタと並んだ『賞味期限5分の限定生ミルフィーユ』。
「……先週のギャラ飲み、マジで事故だったわ」
リカがストローを噛む。
ハイブラで固めた武装。でも中身は、まだ「人間」を真っ当にやってる真面目な子。
「不動産系の地主3代目。最初は紳士ぶってたのに、酒が入った瞬間に『君の家賃、俺が払ってあげようか?』って。真顔。きっつ……」
「クソマウント。絶滅すればいいのに」
サユリが淡々と返す。
二人の周りが、澱む。不快感と自己嫌悪のミックス。
前の私なら、ここに「共感」っていう泥を混ぜて、一緒に沈んでた。
けど。今の私には、その澱みが「上質な口直し」にしか見えない。
「リカ、ちょっと貸して」
「え?」
隣に座って、肩に触れる。
――。
指先から魔力を通して、一瞬。
「……あれ。なんか、急に軽くなった。憑き物が落ちた感じ」
リカの瞳から濁りが消える。
こびりついてた「言葉の毒」を、私の魔力で根こそぎ吸い取った。
「あの男のこと、どうでもよくなったわ。私、あんなのに時間使ってたのバカみたい」
ついでにサユリの指先にも触れて、負のオーラを回収。
……うん。お友達の毒、少し甘酸っぱくて良い。
「なんか最近変わったよね。発光してない?」
「気のせい。……ほら、ミルフィーユ溶けるよ。今日は奢るから。昨日の夜、ちょっと臨時収入があったし」
「マジ? ギャラ飲み? それとも仮想通貨?」
「秘密。……ちょっとした、臨時収入♡」
昨夜、レンというクソホストから吸い尽くした精気。
それのおかげで私のコンディションはピークだし、友達もリフレッシュ完了。
――。
カフェを出て、私たちはタクシーを拾った。
渋谷のマルイ付近で降りる。
表参道の洗練された空気が、スクランブル交差点に近づくにつれて、湿度を帯びた欲望に変わっていく。
案の定、獲物を探す目がこちらを向いた。
「ねえねえ、三人組? これからどこ行くの? 俺らと飲み行かない? 奢るよ」
いかにもなストナン。
数こなしてます感を出した、薄っぺらな笑い。
せっかく推しに癒やされた気分が、一瞬で冷めていくのがわかった。
リカとサユリが、無視して足早になる。
(ノイズは、消す)
私は歩みを止めず、すれ違いざまに指先を弾く。
――。
「……あ。……あぁぁああ!!」
声をかけてきた男が、突然、自分の手で口を押さえてその場にしゃがみ込んだ。
自尊心の核に、これまで自分が消費してきた「嘘」をすべて突き返してやった。
「……気持ち悪い。俺、なんでこんなこと……。っていうか俺、生きてる意味あるのかな……」
連れの男も、スマホを落として呆然と自分の手を見つめている。
ナンパのテクニックも、安いプライドも、すべてが虚無に食いつぶされていく。
「「……ふふ、あははは!」」
振り返りもしないリカとサユリが笑う。
渋谷の喧騒の中で、その笑い声だけが澄んで響いた。
「何あれ。キモ!一緒にいるとレアなやつ見れウケるw」
「ふふふ。そうね、そうだね! そうかもね」
笑う二人を見ながら、思う。
港区という名の戦場で、女の子たちの「笑顔」という領土を死守するためにこのチカラ使おう




