表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

源氏名は『セナ』♪

無難に派遣の仕事を終え、金曜日の夜。

 私は在籍している西麻布の隠れ家的会員制ラウンジへと向かう。

 ここは私服OK、ヘアセット不要。キャバクラのような仰々しさとも違う、独特の緩さが肌に合う。


 二十一時の出勤直後。店内は驚くほど静かだった。

 週末だし、ラウンジの客はアフター狙いが多い。早い時間帯は、嵐の前の静けさ――要するに、暇なのだ。


「セナさん! 今日店長のお客様がVIPで来るから着いてね」


 『セナ』。お店で使う私の源氏名。


「はーい、了解です♪」


 店長の言葉通り、私は待機席でスマホをいじる。

 時給は日払い、バックは週払い。送りがあるから終電は気にしなくていい。

 条件は最高。……ただ、高級店ゆえに基本が『個室』なのが唯一のぴえんポイント。


 そして――二十三時を過ぎたあたりから、店の空気が一変した。


「セナちゃん、VIP個室! 三名様。かなり出来上がってるから気をつけて」



 来た。アフターを餌に、あわよくば『お持ち帰り』を狙う男たちの、どす黒い欲望が店内に充満し始める。

 二十四時過ぎ。ここからがサキュバス(私)のゴールデンタイムだ。


 個室の重い扉を開けると、高級シャンパンの香りと、隠しきれない下心が充満していた。

 そこにいたのは、二次会、三次会を経て理性のタガが外れたIT系の若手社長たち。


「おっ、いい子来た。ねぇ、この後空いてる? アフター行けるよね?」


 挨拶もそこそこに、値踏みするように肩に回される腕。

 個室という密室で、ねちっこく、しかし大胆に距離を詰めてくる。


(……ふぅん。アフター狙いの執着心。これは……かなり『濃い』わね)


「はじめまして♪ アフターですかぁ? 嬉しいですけど誘うの早くないですか? ふふふ、私を連れ出すの、結構高いですよ?」


 私はあえて男の胸元に指先を滑らせ、魔力を一気に流し込む。

 権能――【虚栄の暴走ラグジュアリー・ハイ】。


「イケメンだし、無理に連れ出さなくてもフィーリング合えば♡ とりあえずカンパーイ♪♪」


 深夜特有のハイテンション。そこに魔力を乗せれば、男たちの自制心は簡単に吹き飛ぶ。

 

「……ハッ、そうか! おい、とりあえずシャンパン! アフターなんてケチなこと言わねぇよ!」


 暗示にかかった男たちは、競い合うようにボトルを抜き、自分の成功譚マウントを語り始めた。

 個室は、誰の目も気にせず彼らが『全能感』に浸るための聖域へと変わる。

 私はその中心で、彼らから溢れ出す『特濃のエゴ』を、至高のデザートとしてドレインしていく。


 一時間後。

 満足げに(洗脳されたとも気づかず)フラフラと帰っていく男たち。

 アフター? 行くわけないじゃない。彼らは今、脳内で私と最高の夜を過ごしたつもりになっているのだから。


 私はバックの額を計算しながら、迎えの車に乗り込んだ。

 

「お疲れ様でしたー」


 深夜三時の西麻布。

 家近くのコンビニで車を降ろしてもらい、新作のスイーツを買い込む。

 

 ふふふ。

 次は、どの毒を喰らってあげようかしら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ