名前のない違和感
気にしなくていいはずなのに、なぜか引っかかることってありますよね。
次の日の教室は、いつも通りだった。なのに、どうしてか少しだけ落ち着かない。
「おはよ、澪」
いつも通りの声に、ほっと息をつく。やっぱり、考えすぎだよね。そう思った、そのとき。
「あ、紬!」
教室の後ろから呼ばれて、紬が振り向いた。
「今いい?」
軽く手を振るその子の方へ、紬は迷いなく歩いていく。
……あれ。
気づけば、その後ろ姿を目で追っていた。昨日の別れ際が無意識に頭の中に浮かぶ。いつもなら、こういうときも隣にいるはずなのに。
授業が始まっても、ノートの上の文字は、ほとんど頭に入ってこなかった。チョークの音も、先生の声も、どこか遠くで鳴っているみたいで。気づけば、視線は何度も、斜め前の席に向いてしまう。紬は、さっきの子と小さく話していて、そのたびに、楽しそうに笑っていた。
なんで、こんなに気になるんだろう。ペンを持つ手が、少しだけ止まる。
「朝日奈」
ふいに名前を呼ばれて、はっと顔を上げた。
「これ、答えてみて」
「……え、あ……」
黒板を見ても、何の話をしていたのか分からない。一瞬の沈黙。クラスの視線が集まるのがわかって、心臓が変に跳ねる。
「……すみません、わかりません」
小さくそう答えると、
「ちゃんと聞いとけよー」と軽く流されて、授業は続いた。
キーンコーンカーンコーン
チャイムの音が鳴って、ようやく授業が終わる。
、、、長かった。ノートを閉じながら、無意識に小さく息をついた。きっと、紬がまた話しかけてくる。いつもみたいに、「さっきの問題さ〜」とか、どうでもいい話をして。そしたら、さっきのことも、ちょっとは気にならなくなるかもしれない。
そう思って、ペンを置いて顔を上げた、そのとき。
「紬、ちょっといい?」
さっきの子の声がした。
「あ、うん」
紬はすぐに立ち上がって、当たり前みたいにその子の方へ行く。
「ねえねえ、このあとさ——」
楽しそうに話しながら、二人はそのまま教室を出ていった。
……え。
何も言えないまま、その背中を見送ることしかできなかった。さっきまで、あんなに普通に話していたのに。
なんで。机の上に置いたままの手を、ぎゅっと握る。
別に、約束してたわけじゃない。ただ、いつもそうだっただけ。それだけなのに。
「……はは」
小さく笑ってみるけど、うまくいかない。こんなの、
気にする方がおかしいのに。なのに、胸の奥が、じんわりと痛んだ。
澪の違和感は、これからどうなるのか。
次もぜひ読んでいただけると嬉しいです!




