いつも通り、じゃなかった日
いつも通りの放課後が、少しだけ変わる回です。
よければ最後まで見ていただけると嬉しいです!
「あれ、澪、結局抹茶にしたの?」
紬が不思議そうにのぞき込んでくる。
「そうだよ。一口いる?」
そう言うと、紬は待っていたみたいにぱっと顔を明るくして頷いた。その瞬間、また、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
どうして、こんなことで。
「じゃ、もらうね」
紬はそう言って、私の手元のお菓子に顔を近づける。思ったよりも距離が近くて、ほんの少しだけ息が触れた気がした。
「……っ」
変な声が出そうになって、慌てて口を閉じる。
「ん、おいしい」
何も気にしていないみたいに笑う紬に、私だけが、さっきよりもずっと落ち着かなくなっていた。
「澪もチョコ食べる?」
「え、あ、うん……」
差し出されたそれを受け取るとき、指先が少しだけ触れて、それだけで、また胸が騒ぐ。
「ねえ澪」
紬が、ふいに声を落とした。
「なに?」
できるだけ普通に返したつもりだったけど、少しだけ声が硬くなる。
「うちさ」
ほんの少しだけ間を置いて、紬はいつもより小さな声で続けた。
「ちょっと気になってる人、いるんだよね」
その瞬間。さっきまで確かにあったはずの温度が、すっと引いていく。
「……へえ」
自分でも驚くくらい、あっさりした声が出た。
「どんな人?」
聞かなきゃよかったのに、そう思う前に、言葉が出ていた。
「んー、なんていうか……」
紬は少しだけ考えるように視線を上げて、
「一緒にいると、楽しい人」
そう言って、いつもみたいに笑った。それが、自分じゃないことくらい、わかってるのに。
胸の奥が、じんわりと痛む。
「そっか」
それだけしか、言えなかった。最悪だ、道路を見つめながら目の奥が熱くなっていくのを感じた。
「あ、やば。もうこんな時間じゃん」
紬がスマホを見て、少しだけ慌てた声を出す。
「ほんとだ」
つられるように画面を見ると、いつもより少し遅い時間だった。
「ごめん、今日ちょっと寄るとこあるから、ここで別れてもいい?」
その言葉に、一瞬だけ反応が遅れる。
「……あ、うん。全然いいよ」
できるだけ普通に答えたつもりなのに、どこかぎこちない気がした。
「ありがと!じゃあまた明日ね」
軽く手を振って、紬はいつもと違う方向へ走ってく。その背中を、ただ見ていることしかできなかった。たったそれだけの話が、どうしてこんなに引っかかるんだろう。
「……そっか」
小さくつぶやいた声は、すぐに車の音にかき消された。ポケットの中から抹茶味のお菓子を取り出す。甘いはずなのに、なぜか、少しだけ苦かった。
抹茶味にしたのは、紬が喜ぶ顔が見たかったから。
そんなことを思っていた、ほんの数分前の自分が、少しだけばかばかしく感じた。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます!これからも読み続けてくれると嬉しいです!!




