表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
曹操軍の雑務係、気づけば天下統一に貢献していました  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/56

第五十五話 不純な外貨

太行山脈の北端。


峻と郭嘉が率いる小規模な偵察隊の前に、

一団の騎馬民族が現れた。


精悍な面構え、毛皮を纏った異質の装束。

盧景が最後の賭けとして呼び寄せた、

北方の力だ。


「……峻、あれは厄介だぞ。

烏桓うかんの連中だ」


郭嘉が珍しく、

酒を飲まずに目を細める。


「あいつらには、

中原の理屈も曹操様の威光も通じない。

通じるのは力と、目の前の略奪品だけだ」


だが、峻は動じなかった。


彼は馬を降りると、

地面に一枚の大きな白い布を広げた。


そこには、峻が昨夜のうちに書き上げた、

巨大な「一覧表」が記されている。


「……何をしている、

峻殿。彼らと話をするつもりか?」


韓恢かんかいが困惑気味に尋ねる。


「話ではありません。……『査定』です」


峻は歩み寄り、

烏桓の首領格の男の前に、

その一覧表を突きつけた。


もちろん、言葉は通じない。


だが、峻が用意したのは、

「言葉」ではなく「図記号と数字」だった。


峻は、一俵の米、一束の絹、

そして一頭の羊を、図で示した。


そして、盧景が彼らに約束したであろう、

「報酬」の横に、赤い墨で大きく「×」を描いた。


「……っ、貴様、何を!」


通辞(通訳)を介して、首領が怒声を上げる。

峻の喉元に、湾曲した刀が突きつけられた。


峻は瞬き一つせず、事務的な声で答えた。


「盧景に約束された報酬は、

すべて『不渡り』です。


……なぜなら、彼が管理していた資産は、

三日前に私がすべて差し押さえ、

曹操様の蔵へ移したからです」


峻は、次の一行を指差した。


そこには、盧景が提示した額の

「二倍」の数字と、

曹操の印章が押された、

「正規の契約書」があった。


「盧景の主は、貴方たちを『捨て駒』として、

略奪の果てに見捨てるでしょう。

……ですが、私(曹操軍)は違います」


「貴方たちの騎馬が、

冬を越すために必要な『塩』と『穀物』を、

向こう三年に渡って安定供給する

『定期契約』を提案します」


首領の動きが止まった。


略奪は一時の快楽だが、

峻が提示したのは、

北方の民にとって何よりも貴重な、

「安定した生存」という名の数字だった。


「……盧景は、

貴方たちの『命』を買おうとした。

……私は、貴方たちの『未来の帳簿』を、

買い取ると言っているんです」


沈黙が支配する。


郭嘉は、呆れたように笑いながら呟いた。


「……外交を、

ただの『一括購入』に置き換えやがった」


----


一刻後。


烏桓の首領は、峻が差し出した契約書に、

自らの血で指印を押し、

盧景が潜む山あいの道を指し示した。


「……事務屋。……お前、……怖い」


たどたどしい漢語で、

首領が漏らしたその言葉は、

ある意味で、

曹操軍のどの将軍に向けられた、

賞賛よりも重いものだった。


峻は、契約書を丁寧に畳むと、

眼鏡の縁を直した。


「……さて。盧景。

……貴方の『借金』の回収に行きましょうか」


北方の騎馬隊が、

今度は曹操軍の「傭兵」として、

自分たちを雇ったはずの、

男を狩るために走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ