表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
曹操軍の雑務係、気づけば天下統一に貢献していました  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/56

第五十二話 完遂の帳簿

太行山脈の谷間。


絶望の叫びが木霊こだまする。


「……計算が合わない!」


敵の将、豪族の連合を束ねる男が、

降り注ぐ火矢の中で狂ったように叫んだ。


彼らの手元にある

「峻が盗ませた偽の帳簿」

によれば、

曹操軍の矢は、

昨夜の時点で底を突いているはずだった。


だが、目の前で空を埋め尽くしているのは、

偽りなき鉄の豪雨だ。


峻は、乱戦から少し離れた高台で、

冷徹に算盤を弾いていた。


「……誤差、ゼロ


峻の指先が弾いた数字は、

敵の戦意が完全に折れる

「損耗率」を示していた。


韓恢かんかい殿。

……右翼の敵、足が止まりましたね。

彼らの『期待値』が、

恐怖に書き換わった瞬間です」


傍らに控える韓恢は、

冷や汗を流しながらその光景を見ていた。


「……恐ろしい男だ。

お前は、敵が『勝てる』と信じ込む

ギリギリの嘘を吐き、

彼らに全財産(全兵力)を賭けさせた。

……その上で、すべてを没収したんだ」


「投資にはリスクが伴う。

……事務屋なら常識です」


峻は立ち上がり、

本陣へ向けて旗を振った。


伏兵の合図ではない。


**「回収」**の合図だ。


斜面を駆け下りてきたのは、

曹操自らが率いる精鋭騎馬隊。


その先頭で、

曹操の咆哮が戦場を支配した。


「全軍、蹂躙じゅうりんせよ!

事務屋が用意した『余白』を、

敵の血で埋め尽くせ!」


敵軍は、

逃げ場を失っていた。


峻が事前に補給路を「管理」し、

彼らの退路にある橋や井戸を、

事務的な『老朽化点検』を名目に

破壊、封鎖していたからだ。


「……峻、お前、

あっちの谷の出口も塞いでいたのか?」


郭嘉が、返り血を拭いながら戻ってきた。


「はい。三日前の帳簿に、

そこの工兵資材の『廃棄』を計上しておきました。

……実際には、石垣を作るのに使いましたが」


「……お前の帳簿は、

死神のリストより始末が悪いな」


峻は、最後の一行を木簡に書き込んだ。

戦場に転がる敵の数。

奪い返した軍資金の額。

そして、盧景ろけいという不純物の消失。


「――計算、終了」


峻が筆を置いた瞬間、

戦場の喧騒が遠のいた。

太行山脈に、

曹操軍の勝鬨かちどきが鳴り響く。


だが、峻の目はすでに、

次のページに向けられていた。

盧景の主――袁紹軍の奥深くに潜む、

真の「不適切な管理者」の元へと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ