表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
曹操軍の雑務係、気づけば天下統一に貢献していました  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/55

第五十一話 算盤の進軍

曹操軍、東へ。


太行山脈の麓へと向かう行軍の列の中に、

峻の姿はあった。


馬に揺られながらも、峻は手元の小さな板に

数字を書き込み続けている。


「……峻、少しは前を見たらどうだ。景色がいいぞ」


隣を並走する郭嘉が、呆れたように声をかける。


「景色では腹は膨らみません。

……郭嘉殿、計算が合いました。

昨夜の宿営で消費されたまきの量、

そして兵たちの歩幅の変化。

……彼らは、私が『偽装』した絶望を信じていません」


峻が仕掛けた「軍の崩壊」という嘘。


それは敵を欺くためのものだが、

味方の兵たちにまで伝播しては士気に関わる。


峻は、帳簿の裏側で兵糧の質を密かに上げ、

休息の時間を数分単位で「最適化」することで、

兵たちの活力を最大に保っていた。


「兵たちは、自分がなぜこんなに元気なのか

分かっていないでしょう。

……ですが、数字は正直です。

彼らは今、この数ヶ月で最高の状態にある」


「……全くだ。お前は戦う前から、

勝敗を書き換えてるな」


郭嘉が愉快げに笑った、その時。


前方の物見ものみから、鋭い笛の音が響いた。


「――出たか」


街道の先。山あいの斜面から、

無数の影が雪崩のように押し寄せてきた。


盧景ろけいが雇い入れた、袁紹軍の残党。


そして、峻が「偽の帳簿」で誘い出した、

裏切りの豪族たちが率いる私兵集団だ。


「敵襲! 円陣を組め!」


指揮官の声が飛ぶ。


だが、敵の動きには迷いがない。


彼らは、曹操軍が

「飢え、疲弊し、統制を失っている」という峻の嘘を、

一分の疑いもなく信じ込んでいた。


「……今だ」


峻は、馬上で高く右手を上げた。


それは武官への合図ではなく、

後方に控える「補給部」の

輜重兵しちょうへいたちへの合図だった。


敵が曹操軍の側面に食らいつこうとした瞬間、

輜重兵たちが荷車の覆いを一斉に剥ぎ取った。


そこから現れたのは、大量の兵糧袋ではない。


「――発射せよ!」


荷車に隠されていたのは、

最新式の連弩れんどと、

峻が資材を「やり繰り」して製造させた

大量の投石機だった。


「なっ……! 兵糧攻めで動けないはずでは……!」


敵の悲鳴が、戦場に響き渡る。


「……残念ながら」


峻は、降り注ぐ矢の雨を見つめながら、冷徹に呟いた。


「貴方たちが奪いに来た『欠落』は、

一ヶ月前に私が埋めておきました」


鉄の雨が、油断した敵軍を容赦なく貫いていく。


戦場の「損耗」さえも、峻にとっては想定内の、

帳簿上の引き算に過ぎなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ