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「いいぜ。精々負け台詞を考えておくんだな」

「おーたむぶじゅつたいかい?」

「おう、この街で行われる格闘系の大会だ!」


 紙に書かれた文字をそのまま読み上げるクー。それを要約するネイラ。

 事の起こりは昼下がり。軽食屋で食事をしている(クーはジュースのみだが)エリックとクーにネイラが一枚の紙を持ってきたことから始まった。


『オータム武術大会!

 格闘武器オンリーのトーナメントバトル! 戦士たちが集う戦いをご覧あれ!』


「ああ、そんな時期なんだ」

「エリっち知ってるの?」

「うん。商人ギルドの興行の一つで舞台の上で一対一で戦う格闘大会だよ。天空神の神殿や冒険者ギルドも絡んでて、かなり大きな大会なんだ。優勝賞金は確か――」

「カネなんざどーでもいいんだよ、オレは。要するにここに強い奴が現れるんだろ? だったら出ねーとな!」

「あーね。アンタはそういうと思ってた」

「分かってるじゃねーか、蜘蛛女!」


 言って大笑いするネイラ。エリックとクーは相変わらずの戦闘狂バトルマニアなエルフの言動に納得していた。


「まだ応募は締め切ってないらしいからな! オレの強さを見せつけてやるぜ!」

「まー、あんたのバカパワーがあれば優勝確実でしょ。そもそもバスタなんとかの装甲を貫ける人なんかいないでしょうし」

「あ、そいつは無理。こういう私的な戦いだとヘラクレスは同期許可くれないんだ」


 茶番茶番、と手を振るクーにネイラはあっさり言葉を返す。意志を持った神の遺産(レガシー)は誓いだけではなくそういう部分も厳しいようだ。


「ま、そんなことしなくてもオレの優勝は確実だけどな!」

「ほほう、大口叩くじゃないか。新顔」


 ネイラの言葉に反応して、三人の男が囲むように立ち挑む。


「……あ。『アックスブラザーズ』のアーロンさん」

「なんだエリックの連れか。……あーいや、コホン」


『アックスブラザーズ』――斧使い三人のパーティだ。オータムの冒険者ギルド内でも相応の知名度と実力を誇り、重戦士系ジョブから一目置かれている存在だ。

 既知の顔を見て言葉を緩めるが、咳払いをした後に強面を見せる。


「優勝するのはこの俺達アーロン、バーナード、カールの『アックスブラザーズ』だ」

「確かに格闘は不慣れだが、斧使いのパワーで全てを叩き潰す!」

「俺達三義兄弟の絆とパワー、味わって公開するなよ」

「はっ、場外乱闘か? 試合前に決着ケリつけるってなら付き合うぜ!」


 挑発に対し挑発を返すネイラ。その言葉に満足いったのか、笑みを浮かべるアーロン。


「いいや、大会で恥をさらした方が面白い。俺達の宣伝にもなる」

「その言葉、そっくりそのまま返すぜ」

「いいぜ。精々負け台詞を考えておくんだな」


 言って三人の男とネイラは睨み合う。まさに一触即発。エリックは顔を青ざめて止めようとわたわたしていた。


「――とまあ、三文芝居はこれまでにしよう」

「へ?」

「顔芸達者だなぁ。殺気ぐらい出してくんえぇと面白みもねぇんだよ」


 突如破顔するアーロンに拍子抜けるエリック。ネイラも頭を掻きながらめんどくさそうにため息をついた。


「……芝居?」

「まあな。大会前にこういった空気を出して盛り上げろって商人ギルド(スポンサー)がうるさいんだ」

「さしずめ、『アックスブラザーズと新顔の格闘エルフの因縁か!』とかにしたいんだろう。まあ、俺達も金貰った以上は仕事なんでやるけどな」

「この前の依頼で斧が溶かされてなぁ。商人ギルドに借金してどうにか買い直したんだよ。それさえなければこんな仕事しないんだけどよぉ。ったく」

「…………あー」


 三人の言葉を聞いて、エリックは合点がいったと頷いた。かくも貧乏とは恨めしいものだ。


「『タンクタンク』の二人も似たような状況だってよ。あっちは鎧だからなぁ。高くつくぜ」

「流石にビキニアーマーでの出場は拒否したらしいが……まあ、色々大変なんだわ」

「それはそれとして、大会は本気でやるんで」

「けっ、当たり前だろうが。手ェ抜いたらそれこそぶっ殺す」


 腕を組んで怒りの表情を浮かべるネイラ。苛立ちが溜まっているのか、足踏みを何度も繰り返している。

『アックスブラザーズ』の三人が去った後に、エリックはネイラに声をかけた。


「えーと……ああいうヤラセっぽいのは嫌い?」

「いいや、むしろ歓迎だ。こっちからも喧嘩売るセリフ考えたくなるぐらいにな」

「うわ、のーきん。じゃあなんでおこなのよ?」

「オレは純粋に戦いたいだけんんだよ! カネとかンなもんが絡んでんのが許せねぇんだ。分かるか? 何の制限もなく殴り合えればサイコーなんだよ!」


 言って机を叩くネイラ。近くにあったジョッキを手にして、一気に煽る。


「ああ、酒が不味い! もう一杯!」

「なにそれわけわかめ。ま、お金はしょーがないんじゃない? 人間てそんなもんだし」

「だとしても面白くねぇんだよ!」


 エリックは半笑いの状態でネイラの言葉を聞いていた。この後しばらく酒と愚痴が続くから何か注文した方がいいかな、と財布の中身を思い出しながら思っていたところ、


「大将。何とかならねぇか?」

「へ? いや、なんとかもなんともも。具体的にどうしたいのかわからないんでなんとも」

「金のために戦ってるんなら優勝賞金とか奪って皆に分配すればいいんじゃねぇか。そうすれば万事解決!」

「いや、それ盗みだから。犯罪とか駄目だから」

「んだよ。だったらあいつらの『シャッキン』とかをどうにかすればいいだろうが! せめて大会の間だけでもよ!」

「……また無茶を言うなぁ……」


 ――とまあ、これが事の始まりである。

 エリックは『アックスブラザーズ』や『タンクタンク』のメンバーに接触し、借金の額や状況を確認した結果、『あ、高すぎて僕の財布じゃどうしようもない』と言う結末に陥った。ついでに『大会中は商人ギルドの言う通りに手を抜いて敗ける』と契約書を書かされたという。

 

「んなもん許せるか! よーし、オレが殴りこんで――」


 これこそ正義の戦い、とばかりにバスターヘラクレスとなって襲撃カチコミしそうになるネイラを何とか酒盛り三回付き合う約束で押し留め、クーには『へー、デート三回かー。ふーん』と突き刺すような半眼で見られて冷や汗を流し、最終的にはその契約書を押さえればいいということでネイラは妥協した。あとクーの機嫌はしばらく回復しなかった。

 ただまあ、その契約書自体は商人ギルドの大会運営者がしっかりガードしている。隙が生まれそうなのは、大会当日ぐらいだ。


(……で、契約書に物理的に一番近づくために、選手として会場に混ざり込んだんだけど)


 こっそりため息をつくエリック。正直、この空気には耐えられない。

 試合になれば敗北必至。そうなれば会場から出るしかない。それまでに契約書を探して、どうにかしなければならないのだ。


(……まあ、やるしかないか)


 八百長試合を止めるため、と自分に言い聞かせてエリックは動き出す。


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