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「……どうしてこうなった」

 雲一つない空は暖かくうららか。数羽の鳥が仲良さげに飛んでいる。

 風が心地良く、うたたねするにはいい日だ。洗濯物もよく乾きそうな、そんな昼下がり。


「ウラララララララァァ!」

「オラオラァ!」


 聞こえてくるのは怒声と怒声。そして拳と拳の打撃音。手加減なしの殴り合いが繰り広げられていた。

 殴り合うたびに周りから歓声が飛び、更なる暴力を求める声が上がる。もっと、もっと、もっと殴り合え! 血を、闘争を、暴力を! 目の前の戦いに酔った観客は、更なる戦いを求めて盛り上がる。

 殴り合っているのは、両方ともエリックの知り合いだ。片方は冒険者ギルドの既知。もう一人は仲間になってくれた者。


「はっ! エルフのくせに大したもんじゃねぇか!」


 歯をむき出しにして笑うのは冒険者ギルド所属の男。『アックスブラザーズ』と呼ばているC-ランク冒険者パーティの一人、カールだ。愛用の斧ではなく、ナックルダスターをつけて戦っている。


「そっちこそ! 慣れねぇ武器エモノなのにな!」


 それに相対するのは、亜神妖精ハイ・エルフのネイラだ。こちらは指をさらけだした格闘用の皮手袋をつけている。攻撃力こそ鉄製のナックルダスターに劣るが、軽さと受け流しなどの面で有利なため彼女はこれを愛用しているという。


「ひ弱なエルフなど一発決めればお終いよ!」

「エルフ舐めるな。森の狩りで鍛えた体力とフットワークは伊達じゃねぇぜ! 何なら木こりに転職するか?」

「ほざけ! アックスブラザーズの三本斧はまだまだ健在よ!」


 罵り合いながら、しかし互いを軽蔑する色はない。むしろ挑発することで互いの気合をあげている節がある。斧使いであるカールの筋肉は重量武器使いであるために強く、またそれを扱うスキルは格闘戦でも遜色なく発揮される。

 勿論、純粋な格闘スキル持ちであるネイラもそれに勝るに劣らない。筋力の差を知りながら、しかし恐れずに拳を打ち合っていく。被弾することもあるがその度に笑みを増していく。

 互いの怒声、互いの汗、互いの闘志がぶつかり合う。エリックはそれを間近で感じながら、同時に怯えていた。戦闘行為はエリックにとって苦手な行為だ。それを喜ぶ嗜好は知っているが、理解はできない。


「ハンマァァァァァア! フォォォォォォォォォォォォル!」

「こいつを受けきって、お前を倒ぉぉぉぉぉす!」


 両手を組んで真上から振り下ろすカール。それを両手でガードしようとするネイラ。正にパワーとパワーのぶつかり合い。冷静に考えればよければいいのにと思うのだが、場の空気と当人たちの気迫がそれを無視する。剛と剛。それを制したのは――


「ドラァ!」


 カールの腹部を蹴るネイラ。その衝撃に耐えきれず、カールは後方に吹き飛んでいく。そのまま地面に転がり、動かなくなった。

 審判がカウントを取るために舞台に上がり――すぐに腕を交差する。気を失っているため、カウントの必要なしと判断したのだ。

 ゴングが鳴り、ネイラの勝利を告げる。勝者は天を突くように拳を振り上げ、その手をそのまま地に伏す相手に向ける。


「よう、立てるか?」

「……む、負けたか。見事な蹴りだった」

「むしろオレの蹴りを受けてその程度で済むのがムカツクぜ。どんだけタフなんだよ」

「ふん、鎧不要のアックスアックスよ。冒険者を舐めてくれるな」

「ったく。侮れねぇな人間は」


 そんな会話を交わし、握手する二人。健闘を称えるような行為に拍手が発生した。


『素晴らしい! 第一回戦からの名勝負! そして名場面! 興奮と涙で言葉がありません! まさに戦いを通じて生まれた友情!』


 そんな状況を盛り上げるためにアナウンスが繰り広げられる。音声拡大魔術により広げられた音が、さらに観客の歓声を高めていく。

 拍手と歓声に見送られ、退場していくネイラとカール。彼らは神官たちの手厚い回復を受けて体力を傷を癒される。負けたカールはそのまま観客席へ。ネイラは次の戦いの為に控室に向かう。

 オータム武術大会。第一回戦は予想以上の興奮を生み、終結する。次の対戦相手達も試合を見ていたのか、ネイラとカールに負けじとばかりに気合を入れて舞台に向かった。相手には負けないと思いながら、同時に相手を尊敬するように拳を突き合わせて。

 この控室に居る者達は、一人を除いて戦うために己を研鑽してきた者達だ。戦いにかける意気込みは強い。ある者は賞金の為、ある者は名誉の為、ある者は武を極める為。差異こそあれど、自らを鍛える為に努力を怠らない。

 その唯一の例外が、エリック・ホワイトだった。

 エリックは明らかに場違いな控室の中、正体がばれないように顔全てを覆うマスクをかぶって無言を貫いていた。唯一この事を知っているネイラも、時々目配せこそするが無関係者を装っている。


(……どうしてこうなった)


 いや、それは分かっている。分かってはいるが問いかけたくなる。

 それは今から一週間ほどの話だ。


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