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「三人だ」

 エリックの受けた依頼は『館に居る巨大カマキリを駆除してほしい』である。

 事実、館の中にいる巨大カマキリは駆除できた。エンプーサも退治し、後顧の憂いはないと言えよう。依頼人の要望は達したのだ。

 だが……。


「これでは報酬を出すわけにはいきませんね」


 馬車の御者のは冷たく言い放った。


「なんで!?」

「ここまで館がボロボロになっているのに、報酬なんて出せるはずないでしょうが!」


 叫ぶ御者。指さすのは館のエントランスの惨状だ。

 柱と言う柱はカマキリの鎌で傷つき、一部は倒壊しかかっている。絵画などの美術品は原型をとどめず、美しさの欠片もない。そういった傷が館中のいたるところにあるのだ。


「それは全てカマキリのせいで――」

「ウソを言わないでください! 巨大カマキリがここまで狂暴で攻撃力が高いはずがないです!」

「だからあのカマキリはエンプーサと言う夢魔が生み出した特殊なカマキリで――」

「悪魔なんているはずがありません! 証拠でもあるんですか!?」


 言われてエリックは言葉に詰まった。エンプーサは取り逃がし、その痕跡もない。倒した巨大カマキリも、血となって溶けて消えたのだ。


「冒険者ギルドの人間は商人ギルドと仲が悪いと聞いていましたが、まさか依頼にかこつけてファーガスト様の館を破壊しようとするなんて! 野蛮にも程があります!」

「そんなことは――」

「とにかく、早くお帰りください! ご主人様から追って責任追及の報がギルドに届くはずです! この野蛮人!」


 にべもない。顔を赤くして叫ぶ御者にエリックはこれ以上の追及を諦めた。少なくとも彼と話をしてこれ以上問題が解決するようには思えない。ギルドを通じて依頼主と話をした方がよさそうだ。

 というか――


(ネイラとクーの怒りの圧を感じる。二人の我慢の限界だー)


 御者の罵りがエリックにかかるたびに強くなっていく背後の二人の気配。


「わ、わかりました。とりあえず僕らはこれで。ともあれカマキリは全て排しましたので」

「当然です。最低限の事しかできてないくせに人間のように喋るなど、礼儀がなっていませんね」

「ところで帰りは馬車に乗せては……もらえませんよね、はい」


 御者の怒りに何もかもを諦めたように頷いて、エリックは爆発寸前のクーとネイラを引っ張るように館の外に出た。


◆     ◇     ◆


「なにあれなにあれなにあれ!」

「納得いかねーぜ!」


 館が完全に見えなくなってから、クーとネイラは爆発したように叫び出す。


「あーしらちゃんとカマキリたおしたよ! そりゃ、最後はポテってたけど!」

「悪魔のことを言っても信じてくれないし、何なんだよあの態度は!」

「あー、むかつく! ここから糸放ってあの館ぶっ潰す」

「いいね。オレも一緒にやるから少し待ってな」

「いや、両方とも待って」


 過激な方向に向かうクーとネイラを宥めるエリック。


「クーとネイラが頑張ったことを、あんな風に言われて怒るのはわかるけど――」

「違うわよ、エリっち」

「違うぜ大将」

「「頑張ったのは――」」


 その間違いは許さない、とばかりにクーとネイラはエリックに詰め寄る。


「「あーし(オレ)三人(・・)、だ!」」


 エリックを指差し、二人ははっきり言い放った。 


「エリっちがいなかったらあーしらあの夢から覚めてないし! ……その、出来ればもう少し方法を選んでほしかったけど」

「あの作戦が無きゃ、ジリ貧だったしな。オレだけだとああはいかなかったぜ。やっぱ大将は頼りになるわ!」

「え。でも僕はそんな大したことは――」

「でも禁止! とにかく、そういうことだから!」

「大将はもう少し自信もてって! 暴れるのはオレがやるから、ドーンと胸張ってろ!」

「あんたは暴れるしかできないしー」

「んだとこの蜘蛛女! ガチでバトる時が来たようだな!」

「きゃー、カンフーエルフがあーしを襲ってくるのー。エリっち助けてー」

 

 言ってエリックの後ろに隠れるクー。ネイラはエリックごしにクーに向かって拳を突き出していた。エリックを挟んで攻防が始まった。器用なものでネイラはエリックに当てることなくクーを攻め、クーもそれを受け止めている。威力を無視すれば、ネコのじゃれ合いにも見える。


(あー、うん。これはこれで良かったのかな)


 自分を挟んで暴れる二人を見ながら、エリックは小さくため息をついた。


(エンプーサは僕が蟲使いだということをなぜか知っていた。

 冒険者ギルドの資料を見れば書いてあることだけど、あそこにずっといたはずのエンプーサがそれを知っているのは明らかにおかしい。おそらく冒険者ギルドからファーガスト氏に渡された資料を見たのだろう。クーやネイラはギルド登録員じゃないから素性を知らなかったんだろうけど。

 ファーガスト氏に対して通じているような発言もあったし、おそらくこの依頼自体が罠だったんだ)


 証拠のない当てずっぽう。だがおそらく間違いはないと睨んでいた。


(巨大カマキリ退治と偽って、町から離れた館に人を送り込む。エンプーサはそれを喰らって力を増す。ファーガスト氏はエンプーサに何らかの願いをかなえてもらえる。多分そんな関係で……。

 おそらくあの御者も僕らが生きていないと思ってたんだろうな。とにかく想定外の出来事で、難癖付けてでも僕らを早く追い出したかった。エンプーサを倒せる相手をどうにかできるはずもないから)


『冒険者ギルドの人間は商人ギルドと仲が悪いと聞いていましたが――』


 思い出すのは御者の言葉。

 ギルド間抗争。冒険者ギルドの人間を罠にはめて殺す商売人ファーガスト。

 これ以上は推測の領域を超えるか、とエリックは手を振って現実に意識を戻す。


「くのくのくの!」

「エリっちバリアー。エリっちシールド!」


 とりあえず、そろそろやめてもらえないかなぁ。と自分の周りを回りながら戦う二人にこっそりお願いするのであった。


◆     ◇     ◆


 D+ランク依頼 『巨大カマキリを駆除せよ!』

 ……失敗!


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