「ふふ、濃い味」
「いててて……!」
ネイラが目を覚ますと、そこは石でできた神殿の中だった。静謐を感じさせる空間だが、それは次の瞬間に吹き飛ばされる。
「どうした、森の聖人! 貴殿の力はその程度か!」
ネイラに向かって吼えるのは白銀の鎧をまとった男だ。ネイラが目を覚ますまで待っていたのか、押さえていた闘気があふれ出す。そうだ、アイツは……。
「はん、何言ってやがる! オレの力を侮るなよ、ダイナー!」
ダイナー。ヤツは不吉を予言する『カサンドラ・アイ』の力を得て、自ら不幸に身を晒して戦い続けた太陽の聖人。努力の末に最強を求める格闘家。
そうだ。奴はオレの終生のライバルだ。既に七度抗戦し、そのたびに横やりが入り決着がつかなかった。だが今こそは、いいや今だけは誰も横やりを入れるものはいない。この機会を逃せば、一生後悔するだろう。
それはダイナーも同じだ。だからこそ、惚けているネイラが許せない。この一分一秒をおろそかにするなど――いいや、それは実のところどうでもいい。
「ああ、侮りはしない。私の瞳は最大限で貴殿との交戦を避けている。
当然だろう。今の貴殿はすでにヘラクレスと完全融合し、【第九の誓い】を発動している。まともに戦えば負けるのは必至だ。だが!」
「ああ、お前はそれを超えていく。努力で、知恵で、経験で! オレはそれがたまらなく嬉しい! 超えるべき相手がお前で良かったと本気で思っている!」
「来るがいい。この世界の命運などどうでもいいが、貴殿との決着だけはいまここで!」
「おうとも! 星の勇者や運命の魔王なんざどうでもいい! 今ここに、オレとお前がいる! その事実だけで拳を握れる!」
「「いくぞオオオオオオオオオオオ!!」」
ぶつかり合うダイナーとレイア。
二人の聖人の戦いは、今最高潮を迎えつつあった。
◇ ◆ ◇
「クー。そろそろ出番だぜ」
言って獰猛な笑みを浮かべるユート。彼は月の女神の加護を受けた勇者だ。粗野で乱雑でいい加減だけど、それでも仲間のためなら身を張ることのできる不良系主人公。
「え? あれ?」
「クーさん、大丈夫ですか? 無理をなさらぬように」
どういうこと? と疑問符を浮かべるクーに話しかけたのは、聖騎士のライオットだ。甘いマスクで微笑み、クーの緊張をほぐそうとする。
「そうだゼ。オイラたちが上手く囮になるからしっかりやってほしいゼ」
いってニシシ、と笑うのは砂盗賊のアリババだ。まだあどけない少年の無邪気な笑顔。だがその中にはクーへの絶対の信頼があった。
「だが、お前が糸で捕らえるよりも先にあの三首毒龍を殺してしまってもいいのだろう?」
言って三首毒龍からクーを守るために立ちはだかるのは剣聖のヨリトモだ。その背中から感じる圧倒的な安心感。
「あれ、あーし……? そうよ、あーしだって負けてられないんだから!」
思い出した。ここは世界と地獄を繋ぐ塔の最下層。その門番である三首毒龍とどう戦うかを議論していたのだ。
勇者ユートとの出会いはとある迷宮の中。圧倒的な強さでクーを圧倒したユートはクーの中にある優しさを見抜いて殺しはせず、見逃した。その後何度も命を狙ってユートを攻撃していくうちに心の中に恋心が芽生え、そして――
「お前ら! いいか、今回の作戦はクーがメインだ。今までのわだかまりもあるだろうが、オレが許した女だからお前らも許せ! いいな!」
ユートはクーを受け入れてくれた。いいや、それはユートだけではない。
「何をいまさら。彼女を始めに許したのは私です。そこは譲りませんよ。最後まで渋っていたのはゆーどではないですか」
「にゃははは。まー、オイラは最初からどっちでもよかったけどな。クーとの三次元戦は楽しめたし」
「ふん。背中を預けるには十分な相手。それだけだ。……アラクネの力、頼りに褪せて貰うぞ」
優しく、無邪気に、ツンデレ的に。三人もまたクーを受け入れてくれた。
四人のいい顔男パーティ。クーは彼らからの愛を確かに感じていた。
「うん。あーし、がんばるから!」
そして四人の男とクーは地獄の門番に挑む。
伝説の勇者パーティの、歩みが始まる――
◇ ◆ ◇
「ふふ、いい夢見てるわね」
魔力で生み出した異空間の中、エンプーサは眠る三人――ネイラとクーとエリックを見ていた。
<夢操作>。サキュバスの持つ固有スキル。エンプーサはそれを用いて三人に夢を見せていた。勿論、タダで見せるわけではない。夢を見る代償に、エンプーサは三人から血を吸い上げていた。夢から目覚めない限り、延々と血を吸われていくスキルだ。
それはただの血液ではない。魂を含んだ血液。それは夢魔の力の源となり、エンプーサの傷を癒していく。血を吸ったエンプーサはうっとりとした笑みを浮かべた。
「ふふ、濃い味。若くて未来のある魂は美味しいわ。
血を吸いきったら、男の方は精を奪い取ってから喰らってあげるわ。女の方は、子供達のオモチャになってもらおうかしら。体中、弄ばれなさい」
その瞬間を待っているかのようにエンプーサは微笑み、控えるカマキリは鎌を揺らしていた。




