表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/186

「ふふ、濃い味」

「いててて……!」


 ネイラが目を覚ますと、そこは石でできた神殿の中だった。静謐を感じさせる空間だが、それは次の瞬間に吹き飛ばされる。


「どうした、森の聖人(エルヴン・セイント)! 貴殿の力はその程度か!」


 ネイラに向かって吼えるのは白銀の鎧をまとった男だ。ネイラが目を覚ますまで待っていたのか、押さえていた闘気があふれ出す。そうだ、アイツは……。


「はん、何言ってやがる! オレの力を侮るなよ、ダイナー!」


 ダイナー。ヤツは不吉を予言する『カサンドラ・アイ』の力を得て、自ら不幸に身を晒して戦い続けた太陽の聖人(アポロン・セイント)。努力の末に最強を求める格闘家。

 そうだ。奴はオレの終生のライバルだ。既に七度抗戦し、そのたびに横やりが入り決着がつかなかった。だが今こそは、いいや今だけは誰も横やりを入れるものはいない。この機会を逃せば、一生後悔するだろう。

 それはダイナーも同じだ。だからこそ、惚けているネイラが許せない。この一分一秒をおろそかにするなど――いいや、それは実のところどうでもいい。


「ああ、侮りはしない。私の瞳は最大限で貴殿との交戦を避けている。

 当然だろう。今の貴殿はすでにヘラクレスと完全融合し、【第九の誓い(ナインス・オース)】を発動している。まともに戦えば負けるのは必至だ。だが!」

「ああ、お前はそれを超えていく。努力で、知恵で、経験で! オレはそれがたまらなく嬉しい! 超えるべき相手がお前で良かったと本気で思っている!」

「来るがいい。この世界の命運などどうでもいいが、貴殿との決着だけはいまここで!」

「おうとも! 星の勇者(ブレイブ・スター)運命の魔王(ロード・フェイト)なんざどうでもいい! 今ここに、オレとお前がいる! その事実だけで拳を握れる!」

「「いくぞオオオオオオオオオオオ!!」」


 ぶつかり合うダイナーとレイア。

 二人の聖人の戦いは、今最高潮(クライマックス)を迎えつつあった。


◇     ◆     ◇


「クー。そろそろ出番だぜ」


 言って獰猛な笑みを浮かべるユート。彼は月の女神の加護を受けた勇者だ。粗野で乱雑でいい加減だけど、それでも仲間のためなら身を張ることのできる不良系主人公。


「え? あれ?」

「クーさん、大丈夫ですか? 無理をなさらぬように」


 どういうこと? と疑問符を浮かべるクーに話しかけたのは、聖騎士パラディンのライオットだ。甘いマスクで微笑み、クーの緊張をほぐそうとする。


「そうだゼ。オイラたちが上手く囮になるからしっかりやってほしいゼ」


 いってニシシ、と笑うのは砂盗賊(サンド・シーフ)のアリババだ。まだあどけない少年の無邪気な笑顔。だがその中にはクーへの絶対の信頼があった。


「だが、お前が糸で捕らえるよりも先にあの三首毒龍トリプル・ヒドラを殺してしまってもいいのだろう?」


 言って三首毒龍トリプル・ヒドラからクーを守るために立ちはだかるのは剣聖ソード・マスターのヨリトモだ。その背中から感じる圧倒的な安心感。


「あれ、あーし……? そうよ、あーしだって負けてられないんだから!」


 思い出した。ここは世界と地獄を繋ぐ塔の最下層。その門番である三首毒龍トリプル・ヒドラとどう戦うかを議論していたのだ。

 勇者ユートとの出会いはとある迷宮の中。圧倒的な強さでクーを圧倒したユートはクーの中にある優しさを見抜いて殺しはせず、見逃した。その後何度も命を狙ってユートを攻撃していくうちに心の中に恋心が芽生え、そして――


「お前ら! いいか、今回の作戦はクーがメインだ。今までのわだかまりもあるだろうが、オレが許した女だからお前らも許せ! いいな!」


 ユートはクーを受け入れてくれた。いいや、それはユートだけではない。


「何をいまさら。彼女を始めに許したのは私です。そこは譲りませんよ。最後まで渋っていたのはゆーどではないですか」

「にゃははは。まー、オイラは最初からどっちでもよかったけどな。クーとの三次元戦は楽しめたし」

「ふん。背中を預けるには十分な相手。それだけだ。……アラクネの力、頼りに褪せて貰うぞ」


 優しく、無邪気に、ツンデレ的に。三人もまたクーを受け入れてくれた。

 四人のいい顔男(イケメン)パーティ。クーは彼らからの愛を確かに感じていた。


「うん。あーし、がんばるから!」


 そして四人の男とクーは地獄の門番に挑む。

 伝説の勇者パーティの、歩みが始まる――


◇     ◆     ◇


「ふふ、いい夢見てるわね」


 魔力で生み出した異空間の中、エンプーサは眠る三人――ネイラとクーとエリックを見ていた。

夢操作ドリーム・クリエイト>。サキュバスの持つ固有スキル。エンプーサはそれを用いて三人に夢を見せていた。勿論、タダで見せるわけではない。夢を見る代償に、エンプーサは三人から血を吸い上げていた。夢から目覚めない限り、延々と血を吸われていくスキルだ。

 それはただの血液ではない。エーテルを含んだ血液。それは夢魔の力の源となり、エンプーサの傷を癒していく。血を吸ったエンプーサはうっとりとした笑みを浮かべた。


「ふふ、濃い味。若くて未来のあるエーテルは美味しいわ。

 血を吸いきったら、男の方は精を奪い取ってから喰らってあげるわ。女の方は、子供達のオモチャになってもらおうかしら。体中、弄ばれなさい」


 その瞬間を待っているかのようにエンプーサは微笑み、控えるカマキリは鎌を揺らしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ