「エリック。お前はクビだ」
「エリック。お前はクビだ。
理由? お前が『蟲使い』だからに決まってるだろうが!」
そう言われて勇者パーティから追放されたエリック。
だがエリックが『幸運の虫』であるテントウムシでパーティを補佐していたことを知らない勇者パーティは、この追放劇の後に落ちぶれていく。
「助けていただいて、ありがとうございます……!」
そしてエリックは山賊に襲われている双子の王女姉妹のを助ける。彼女達が実は魔王封印儀式の生贄だと聞かされ、二人を守るために王国と魔王軍の両方を相手取る事となる。
その後様々な幸運に見舞われ、あらゆる病魔や呪いと言ったバッドステータスを食べることで消す『神虫』や、『世界を一冊の本と見立てて、事象を消す』ことが出来る『紙魚』、大悪魔に相当する力を持つ『蠅の王』の力を得るすることに成功する。
元々の性格もあって、エリックの信用はうなぎのぼり。様々な成功を重ね、ついにはEX級冒険者として魔王封印ではなく。魔王討伐の戦いに参加することとなる。その頃には双子姉妹だけではなく、聖剣使いの姫騎士、黄金龍の女王、魔王の娘など様々な女性の寵愛を受けるにまで至った。
その人徳と実力で王国をまとめ上げる。いざ魔王戦と意気込んだ時に、思わぬ事態が起きる。
「エリック……お前さえ、お前さえいなければ……!」
そして魔王の魂を吸収した勇者が、エリックの前に立ちふさがる。
魔王と勇者の両方の力を持ち、世界を滅ぼそうとする存在。だがエリックは恐れることなく、人々の力を束ねて最後の戦いに挑んだ。
「蟲使いのくせに……なんで貴様が最強なんだ! なんでお前はモテる! なんでお前が世界を救うんだ! 勇者は俺なんだぞ! なのにどうして!」
「お前の敗因はただ一つ。僕を蟲使いと侮った事だ!」
「うぼあー!」
かくして、魔王と勇者の戦いは幕を閉じる。エリック達の戦いと活動により、世界に平和が戻った。
その後、エリック達は歴史から姿を消して、パーティの女性達とのんびりまったりスローライフを楽しんでいた――
……
…………
……………………
「――あれ?」
平和な第二の人生の中、エリックはふと我に返る。
ここ王国から遠く離れた村で、エリックは蟲使いの能力を用いて戦いから離れた人生を送っている。それでも時折舞い込んでくるトラブルを「仕方ないなぁ」と言いながら解決していく。そんな毎日だ。
「どうしたの? エリー」
「お腹痛いの? エリー」
話しかけてくるのは、双子姉妹のアンナとニイナだ。彼女達の出会いが、あの大冒険の始まりだったのだ。
「何か問題でもあるのか? 我が剣が必要なら、いくらでも言ってくれ。この聖剣グラントリスタンは汝の為に在るのだから」
「うむうむ、黄金龍の鱗にかけて、汝を全ての災厄から守ろうぞ。もっとも今の汝に勝てる者などこの世にはおらぬがな」
「し、しょうがないからアタシも手伝ってあげる……! ベ、別にアンタを助けてあげたいとかそんなんじゃないんだからね!」
これまで一緒に戦った仲間達も、心配そうにエリックを見ていた。そうだ、その記憶はエリックの中にある。まるで本を読み返すかのように鮮明に思い出される。追放された蟲使いの大冒険。世界を救った英雄譚。エリックの戦いとヒロインたちとの恋愛の軌跡――
「ねえ、蟲使いの僕をどう思う?」
エリックの質問にきょとんとする仲間達。だが一斉に口を開いて、
「「最高じゃない、エリー。私達、貴方と冒険が出来て最高だったわ」」
「私が仕えるに値するジョブだ。剣聖や賢者など足元にも及ばない。世界そのものを揺るがしかねないジョブと言えるだろう」
「黄金龍の爪にかけて、世界最高のレアジョブじゃ。いやはや、まさか誰もが見向きしなかったジョブが世界を救おうなどと誰が思おうか」
「でも、夜にアレを使うのはやめてほしいわ、激しすぎるから。……でも、悪くなかった……ちちちちちち、違うんだから!」
概ね好意的に受け入れられていた。最後のはどーなんだ、と思うけどあえて聞かなかったことにする。
胸に手を当てる。ああ、こんなにも満たされている。
だからこそ、認めなくてはいけない。
「そうか――これは、夢なんだね」
……………………
…………
……
「――なんで!?」
聞こえてきたのは女性の声。エンプーサと名乗ったサキュバスの声だ。
目覚めたエリックが見たのは、先ほどのサキュバスと赤い世界。朱いボールの内側にいる。そんな場所だ。地面はないのに、足場はある。魔術には疎いエリックだが、これがかなり高位な空間作製スキルのモノだという事は解る。
「私の<夢操作>に穴があった? いいえ、そんなことはないわ。自力で幸せな状態から現実に目覚めたというの!?
ありえないわ。私がサキュバスで夢を操ると知っていても幸せな夢から逃れられる人はいない。心がある限り、一時的でも楽しい方に逃避するのは当然なのに!」
心理的に人は幸せであることから逃れたくない。幸せな夢のまま死んでいけるのなら、それでもいいと思う人さえいる。エンプーサの<夢操作>はそういった人の心を利用した儀式だ。そうやって夢を見せる代償に血を吸い上げ、自らの魔力に転換する。
「うん。すごく幸せだった。本当に現実のような感じで、出会った仲間達との思い出も本当にあるかのように感じられた。夢魔の名前は伊達じゃない、って本当に思った」
「だったらなんで!? 幸せで現実と思い込んでいたのに、どうして目覚めたのよ!?」
信じられない、というサキュバスの言葉。
エリックは胸に手を当てて、痛みを堪えるような表情で答える。
「だって、僕は『蟲使い』だから」
その言葉で受けた傷。その言葉で味わった屈辱。その言葉で失った欠片。
あの夢の中にはそれがなかった。それはとても幸せで、とても甘美だった。失っていないという事実があれほど素晴らしいものなのだと分かってしまった。
満ち足りた幸せが、これが優しい夢であると気付かせてくれた。
「信じられないわ。そんな希望を失った瞳が私の夢を見破ったっていうのね。
可哀想。夢に逃げる事すらできないほどの痛みなんて」
「…………うん。でも――」
近くで寝ているクーとネイラを見る。
でも、こんな『蟲使い』の自分だからこそ繋がった絆がある。
それを、手放したくなかった。




